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一から始める知財戦略

知的財産全般について言及します。

知財業界の歩き方(転職編)

1.はじめに

 要望があったので、少し特許事務所への転職について、触れたいと思います。

 諸々の事情で、昔特許事務所の採用に関わっていたこともあるので、このブログでは、若干採用サイドの話も織り交ぜながら説明します。

 知財業界への転身を考えている方や弁理士試験の勉強を始めた方の間で、まず話題に上がるのが「特許事務所ってどうなの?」「いつ転職しようか?」というような話題ではないかと思います。このような疑問に少しでも答えらればと思います。

 

2.特許事務所ってどうなの?

 特許事務所とは、簡単に言えば、特許出願を始めとする知的財産活動に必要となる様々なサービスを提供し、対価を得る(収益を上げる)組織です。つまり、詳細については省略しますが、特許事務所とは、基本的には、多くの特許出願(特に外国の絡む出願)を効率的に処理することで収益を確保する組織です。特許事務所は、最大手でも1000人弱の組織ですし、ほとんどの特許事務所は200人に満たない小規模な組織です。そのため、通常の企業と比較して、余剰人員は少なく、自分の成果(売り上げ)が給与に反映されやすいという意味で実力主義の側面が強いです。

 具体的に特許事務所で明細書等を担当する特許技術者(弁理士資格の有無に関わらず)の待遇で言えば、年収400万円程度から1500万円程度までがよく見る範囲かと思います。これはあくまでも特許事務所に勤務する特許技術者の待遇であり、弁理士で独立している場合はもっと収益を出している方も当然います。いずれにせよ言えるのは、年収の上限で言えば、特許技術者の待遇は、決して低くはありません。ただし、平均給与は決して高くはありませんので、そのような実力主義(成果主義)のスタイルが自分に合っているのかという点を考えるのが最も良いと思います。

 

3.いつ転職すれば良いの?

 数年前(私が弁理士試験の勉強をしていた時期)までは、特許事務所への転職は35歳まででなければ転職は難しいと言われていましたが、特にここ1、2年は弁理士試験の合格者が減っていることもあり、かなり裾野が広がってきている印象があります。また、特許事務所の数もかなり多いですから、特に事務所を選ばなければどのような年齢の方でも就職先自体は見つかるのではないでしょうか。

 ただし、特に業界未経験の場合であれば、一からそれを身に着ける必要がありますので、例えば、年下の上司から厳しい指導を受けるようなことを覚悟しないといけないかも知れません。その点を除けば、流石に若い方の方が伸びるスピードは早い印象はありますが、高齢の方でも十分に成功されている方はいると思います。

 

4.具体的にどのように就職活動をすればいいの?

 基本的に自分で探して応募するということも可能ですが、特許事務所は、非常に数が多いです。また、色々なところで話題にされると思いますが、特許事務所の内情は実際に中に入ってみなければわかりません。そのため、特許事務所への就職でよく利用されるのが、以下のような転職エージェントです。なお、いわゆるコネ(受験仲間やゼミのOB)も有効ですからコネがある場合はそれが一番確実かと思います。

 <転職エージェント>

 MS‐japan:管理部門(バックオフィス)・士業特化型転職エージェントNo.1のMS-Japanの求人・転職情報サイト

 リーガルジョブボード:法律系専門職の求人・転職サイト|リーガルジョブボード

 プロキャリア(LEC):就職・転職をご希望の方 | 企業法務職、知財専門キャリア転職、実務経験者派遣なら プロキャリア

 REX:公認会計士・税理士など経理財務に特化した求人・転職ならREX(レックス)|株式会社レックスアドバイザーズ

 <求人サイト>

 パテントサロン:★パテントサロン★ 特許・知的財産情報サイト

 

5.補足

 転職エージェントとは、近年注目を浴びている業態で、知財業界(特許事務所を含む)で一般的に利用されています。この転職エージェントは、求職者に対して就職先を斡旋するのですが、通常、求職者には一切の費用負担がありません。つまり、転職エージェントに対する費用は、求職者ではなく採用を行った特許事務所(や企業)が支払うことになります。

 例えば、特許事務所が転職エージェントを介して、求職者を採用した場合、初年度年収の30~40%程度の金額を転職エージェントに支払うという契約結ばれているというような形式です。即ち、転職エージェントとしては、求職者の年収が高く評価された方が、自身の利益も大きくなるようにビジネスモデルが設定されています。

 求職者の立場からすれば、転職エージェントは無料で利用ができる上に、給与や条件の交渉にも協力してくれるため、利用する価値は非常に高いです。

 なお、特許事務所にとっては、相当な費用を負担することになりますが、業界全体が人手不足の上に、マッチングも中々うまくはいきませんから、今では多くの事務所が転職エージェントを介した採用を視野に入れています。

スタットアップに必要な「知財戦略」(基本編:その2)

1.知財戦略が必要な理由

 さて、中小企業やスタートアップ企業のようなリソースの少ない企業であっても、知財戦略が必要なのか、という疑問に対する答えは、当然ながら、「YES」です。中小企業やスタートアップ企業であっても、知財活動自体は必ず必要です。

 理由は簡単です。知的財産権という法律的な権利が存在する以上、他社の知的財産権を侵害した場合、法的な制裁措置を受ける可能性があるからです。つまり、防衛という意味での知財戦略すら放棄した場合、他社の知的財産権を侵害しているということで損害賠償請求差し止め請求という形で法的な制裁措置を受ける可能性があるということです。

 この点、一般的に馴染みのある著作権は依拠性を必要としますので「知らなかった」という反論がありあえますが、特許権や商標権については、「知らなかった」という反論は認められません。

 そのため、少なくとも大きなプロジェクトを動かすような場合には、自分たちのプロジェクトが他社の特許権を侵害していないのかという調査を行う必要がありますし、また、調査コストとの兼ね合いで十分な調査を行わない場合でも、そのリスク判断を行う必要があります。

 

2.特許出願を行う必要はある?

 これに対して、特許出願や商標登録出願といった積極的な知財活動に関しては、コストやメリットを比較して、本当に必要かどうかを検討する余地があります。ここで、商標登録出願については、コストに対するメリットが非常に大きく、通常の企業であれば行っておくことをお勧めします(先取りされると面倒ですよ)。

 では、特許出願はどうでしょう。やはり敷居が高いイメージがありますね。特許出願を行うメリットを簡単に説明します。なお、説明の便宜上、特許出願自体のメリットと特許権を取得した際に得られるメリットが混在していますがご容赦ください。

  ⅰ)独占排他権を取得することができます。具体的には、差し止め請求や損害賠償請求を行うこことで、競合を直接的に排除することができます。

  ⅱ)ⅰ)の効果に基づく抑止的な効果で、競合他社を牽制することができます。

 これらに加えて従来的なメリットに加えて、最近では、副次的な効果として以下のようなメリットが知られています。

  ⅲ)HPや営業で特許出願をアピールすることができる(宣伝広告効果)

  ⅳ)M&Aや共同研究等において、対象技術を明確化することができる。逆に言えば、特許出願がない場合、共同研究等の対象範囲を可視化することは極めて困難です。

  ⅴ)社員のモチベーションアップに繋がる

 

3.中小企業やスタートアップ企業の特性

 このようなメリットは、あくまでも一般的に指摘されるものですから、各企業によって必要性は異なるのが普通です。例えば、ⅰ)やⅱ)のメリットについては、上場直前のユニコーン企業等であれば格別、そうでなければ中小企業やスタートアップ企業でそこまでの意識を持つ会社は少ないと思います。そのため、多くの中小企業やスタートアップ企業にとっては、ⅲ)からⅴ)のようなメリットこそ重要になるでしょう。しかし、これはあくまでも一般論です。

 つまり、特許出願をするメリットとは、各企業の状況によって様々であり、正解はありません。その意味において、私は、特に中小企業やスタートアップ企業における知財戦略の第一歩は特許の目的や使い方を検討することだと考えています。

 ただし、中小企業やスタートアップ企業が、大手企業と大きく異なる点が一点あります。それは、中小企業やスタートアップ企業の多くは、知財活動に投資できる資金も少なく、社内に知財や法務に長けた人材もほとんどいないという点です。したがって、中小企業やスタートアップ企業の知財戦略でもっとも重要なポイントの一つは、いかに費用を抑えて、効率的に知財活動を行うのかという点だと思います。

 

4.特許出願にかかるコスト

 では、特許出願に掛かるコストは、どのくらいなのでしょうか。特許事務所の値段設定や審査の過程等によってかなり変動するものの、国内出願か、PCT出願(外国を含む)なのか、という点で大きくコストが変わります。

 例えば、国内出願であれば、特許出願から(うまくいって)特許権を取得できるまでに概ね100万円程度の費用が掛かるのが一般的です。

 また、PCT出願の場合、各国毎に費用が掛かってくるわけですから、例えば、PCT出願を行って、日本、米国、中国の3国で特許権を取得したような場合で、概ね費用の総額は300万円~400万円程度になると思います。

 ただし、ここで気を付けなければいけない点は、単にコストを抑えて安い特許事務所を利用すれば良いという訳ではない点です。そうは言っても、同じ特許事務所ですから、それほど品質が異なることはないとも思いますが、やはり弁理士個人のスキル差も無視できないファクターです。

 以上のような点を踏まえて考えると、私の考える中小企業やスタートアップ企業の知財戦略において主たる方向性としては、まずは知財活動の目的を明確にした上で、それに対するコストという形で見える化して検討し、どのような知財活動を行うのかという意思決定を行うということのように思います。

 

5.コストについての補足(落とし穴)

 特許出願を行う場合、資料の取りまとめや弁理士への説明等、企業(出願人)側にとっても特許出願に多くの工数を割かなければならないことがあります。人材の少ない中小企業やスタートアップ企業にとっては、このようなコストも非常に大きな負担となります。

 しかしだからと言って、明細書の内容を単に特許事務所に丸投げをすればいいかと言えば、少なくとも私は得策ではないと考えています。ここで言いたい趣旨は、あくまでも自社の人材の工数(コスト)を考慮した上で、特許出願を行うかを判断することが重要ということです。

 

*応用編2の内容を再構成し、応用編2を削除しました。応用編は基本編に再構成して、いずれ削除する予定です。

弁理士試験 口述試験のポイント解説!(延長戦)

1.言い訳

 やはりここから書くべきだったかなと思いなおしました。

 まあそれはそうですよね。「論文試験に受かって当然」の人よりも、「なぜか受かってしまった!」という人の方が困りますよね。

 

2.論文試験に受かってしまったら、、、

 まずは、各会派の練習会や受験機関の模試に申し込みましょう。私自身受験機関で講師をやっているので心苦しいのですが、そうは言っても面接試験です。「慣れ」というのは絶対に必要です。ただし、知識のインプットの時間も必要ですので、受けすぎには注意してください。合計2~3回程度で十分かと思います。

 

 <会派>

 春秋会:春秋会口述試験練習会のご案内 – 弁理士春秋会

 PA会:令和元年度 PA会口述模擬試験 開催案内のお知らせ | PA会ホームページ

 南甲:令和元年 口述試験練習会のご案内 (申込受付終了)|南甲弁理士クラブ(受付終了)

 同友会:口述練習・就職説明会−弁理士同友会−

 弁ク:弁理士クラブ 情報提供申し込み登録

 

 

 <受験機関>

 LEC:口述模擬試験 - 弁理士 学習経験者|LEC東京リーガルマインド 

 TAC:口述模試 | 弁理士 |資格の学校TAC[タック]

 吉田ゼミ:弁理士試験・弁理士受験対策講座 全員合格!吉田ゼミ

* セレクションの内容に特に他意はありません。

 

 特段、何処がおすすめというものもありませんが、特徴的なのは、春秋会です。例年通りであれば本番と同じ場所で練習会を行うため、いい予行練習になります。後は、値段や日程を踏まえて決めて行けば十分かと思います。

 

3.勉強のはじめかた

 まずは過去問を購入して解いてみましょう。初めは何となく答えが想定できる程度で十分です。徐々に、正確な文言を意識した解答ができるようにしていきましょう。

 なお、口述試験は、近年大きく傾向が変わった試験です。特に口述試験の合格率が低かった時期の出題は、あまり参考になりません。近年の傾向は、あくまでもスタンダートな論点です。

 また、先日のブログでも書きましたが口述試験においてもっとも注意すべきは青本です。余裕がある方は購入して少しづつ読むようにしていきましょう。なお、「青本の購入は流石に、、、」という方は過去問等に含まれている部分だけでよいので、意識的にキーワードを抑えるようにしていくことで代用はできると思います。

 

4.余談

 先日のブログでも多少触れましたが模試の結果は気にしないで大丈夫です。復習メインで利用してください。どこで作成された問題であってもそれなりに考えられた問題が提供されますから、復習には最適です。また、模試では、試験官をうまく利用してください。「どのように口述試験は進行するのか」、「助け舟はどのように出されるのか」等の感覚をつかんでください。

 特に条文の暗唱や趣旨(青本)は覚えていないとパニックになってしまう人も多いと思います。そんな時は、自分の今までの知識を信じて、冷静に記憶を探ってください。きっとどこかで正解に近いものを見ているはずです(論文試験までの勉強で)。その記憶の断片を言葉にすれば、試験官が何かしらのヒントをくれるはず、なんとなくそんなイメージです。まあ「習うより慣れろ」ですね。

 なお、私は、例年同様、TACや弁クで口述試験に関わっていますので、気が向いた方はいらしていただければ、少し厳しめの試験を受けることができるかもしれません。

弁理士試験 口述試験のポイント解説!(後編)

  1. 弁理士試験 口述試験の対策

 口述試験の対策は、良くも悪くも「勉強の穴を作らない」ということと、「口述試験に慣れる(普段の実力を発揮する)」ということに尽きます。このうち「口述試験に慣れる」ということに関しては、個人差が大きい上に、それなりに言及しているブログ等もありますのでここでは敢えて省きます。

 

 ⅰ)条文の暗唱に対するポイント

 条文の暗唱は、口述試験の合格率が低かった時期に多く出題されていましたが、近年では、若干出題頻度は落ちているような印象を受けますが(統計をとってはいません)、まだまだ出題の可能性は十分にあると思います。

 ただし、条文の暗唱に求められる正確性については、近年大きく変化していると考えています。

 具体的に言えば、口述試験の合格率が低かった時期には、て、に、を、は、を含めて一字一句間違えないように暗唱しなければ正解とはみなされないというような状況であったようですが、近年はそのような精度は求められてはいませんし(そんなことをしては合格率が保てません)評価する場合であっても、そのレベルを求めてる必要はないと思っています。一方で、重要な条文であるにも関わらず、条文の出だしすら答えられないとすれば、本当に論文試験を合格してきたのかな、と不安になってしまいます。

 ではどのレベルが求められるかと言えば、相対的な受験生のレベルにもよりますが「主要な要件・効果を落とさない」というレベルで十分かと思っています。

 ただし、ここで一つ重要な点は、条文の内容(文言)がまるで分らなかったとしても最悪の場合、試験中に条文集を参照することで条文の内容(文言)は確認することができます。したがって、条文の暗唱ができなかった場合であっても、口述試験自体は継続することができ、次の問題に進むことができます。

 ⅱ)趣旨(青本)のポイント

 実は、近年の受験生が割と抜けがちだと思う知識はこの趣旨、特に青本の内容です。論文試験までであれば、必ずしも青本の趣旨をそのまま答えなくともある程度の点数は得られますし、出る内容も限られるため、当然の戦略かもしれません。

 しかしながら、口述試験においては、この趣旨(青本)が鬼門だったりします。理由は簡単です。青本は、口述試験中に参照することができないためです。通常、趣旨の問題に対する正解は、青本の「キーワード」が出るかどうかで判断する試験官が多いと思いますが、このキーワードが全く出てこないと受験生としても、そして試験官としてもどうにもならないということになってしまいます。

 したがって、趣旨(青本)関係の問題については、少なくともキーワードだけでもよいので頭の隅にないと、リスクが非常に大きいといえます。

ⅲ)簡単な知識問題(原則、論文試験の知識で対応可能なもの)のポイント

 一言で言えば、論文試験の実力によってやる必要があるかないかを決めることをお勧めします。そうは言っても範囲が広いので、苦手なところだけ復習するとかでも良いと思います。なお、考え方は先程のⅱ)と同様で、試験中に確認できない内容を含むところを重点的に行うのが良いと思います。

ⅳ)事例(原則、論文試験の知識で対応可能なもの)のポイント

 最近では、パネルを使った問題等も話題になっていますが、基本的には論文試験で勉強した知識で十分に対応できるはずです。また、事例問題の場合、全く何もしゃべれないという事態になることも少ないと思いますので、気になる人は、何度か例題のようなものをやっておく程度で問題ないかと思います。

 

2.受験機関の模試や会派の練習会の使い方

 まず、少なくとも何回かは受けてみることをお勧めします。グダグダと書きましたが、そうは言っても口述試験は、普段の実力を発揮する(既にある知識をアウトプットする)ということが一番重要です。強いて言えば、試験官からの「助け舟に乗る」感覚がなんとなくわかるとベストです。

 なので、結果はそれほど気にしなくても大丈夫です。人によっては、結構厳しいことを言う試験官もいるとは思いますが、基本的にはどの試験官も口述試験時点での評価をつけると思うので(勉強の時期により採点基準を変えられるような人間はまずいません)、口述試験までにできるようになれば大丈夫です。

 

3.まとめ

 口述試験というと、どうしても面接を思い出す方も多いと思いますが、近年の口述試験は90%前後が合格する試験です。その意味でも試験官は、受験生を落としたいのではなく、むしろどういう助け舟を出せば受からせられるかというような考えの方が普通だと思います。

 (いつ、このブログを読んでいるかはわかりませんが)試験前に、このブログにたどり着くような方はその時点でリードしているので、普通に受かると思います。とはいえ万が一に不合格にならないよう油断しすぎずに、頑張ってください。弁理士試験の合格はもう少しですよ!

 

~口述試験については、とりあえず完結~

弁理士試験 口述試験のポイント解説!(前編)

1.はじめに

 元々書くつもりはなかったネタなのですが、タイムリーな話題なので乗っかることにしました。

   私自身、某受験機関の講師をやっており(別に隠す話でもないのですがどこまで書いてよいのかわからないため)口述模試や練習会等の試験官という形で300人ぐらいは口述試験の指導を行ってきましたので、ある程度信頼性の高い情報は提供できると思います。

 

2.口述試験とは?

 口述試験は、毎年ホテルの部屋の一室等で行われ、受験生一人に対して、主査と副査の最低2名の試験官が口頭で問題の内容を伝え、受験生は一つ一つの問題に解答していくという形式の試験です。そして、口述試験は概ね10分程度で行われ、原則として制限時間内に用意されたすべての問題(10題程度)に解答する必要があります。

 また、この試験では、受験生が問題に対する正解を答えることで初めて次の問題が伝えられるため、受験生が正解を答えられなかったり、正解を答えるまでに時間がかかってしまうと、用意されたすべての問題に対して解答することができなくなってしまいます。

 そのため、明確にそのような決まりがある訳ではありませんが、例えば、「受験生がすべての問題に解答することができれば(時間が余ると雑談がされることが多いようです)」その科目は合格していると考えられますし、「終了の合図の時点ですべての問題に解答しきれなければ」その科目は不合格である可能性が高いと言えます。なお、実際の試験では、3科目中2科目以上合格していれば、口述試験は合格となります。

 ただし、年や状況により異なる形式で出題される例もあるとは聞いていますので参考程度でお願いします。

3.口述試験の特徴

 私の考える口述試験の特徴は、①解答のチャンスが複数回与えられる②すべての問題に解答しなければならない、③口頭で解答を伝えなければいけないという3点です。特に①及び②は、口述試験の勉強法に直結する非常に重要な特徴です。

 まず、口述試験は、試験官と受験生の会話(やり取り)により行われます。つまり、受験生が不十分な解答をしたり、問題の趣旨をはき違えた解答をした場合、試験官は想定した解答に至りやすいような(例えば、条件を限定できるような)「助け舟」を出すのが一般的です。このような形で、何度かやり取りを行い、受験生が最終的に正解に至ることができれば(時間を消費するにしても)、その問題は及第点ということになります。

 そして、①の裏返しになりますが、一問でも解答できない問題にあたった場合、受験生がその問題の正解を答えるまで、その問題の時間が続くため(状況によってはわからない問題を飛ばしてくれますが、最後に戻ってくる等)、最終的には時間切れになってしまいます。

 また、それほど問題になることはありませんが、「緊張して声が出なかったり」、「動作や癖が悪い印象を与えてしまった」といった一般的な面接のような要素もあります。

4.口述試験の問題

 さて、では口述試験にはどのような問題が出るのかということですが、口述試験の問題は基本的に以下の4つの分類に分けられると思います。なお、説明の便宜上、分類しただけで分類自体に大きな意味はありません。

  ⅰ)条文の暗唱

 例えば、「特許法29条1項の内容を条文に即して説明してください」と言うような問題です。

  ⅱ)趣旨(青本)

 例えば、「特許法の趣旨を答えてください」と言うような問題です。

  ⅲ)簡単な知識問題(原則、論文試験の知識で対応可能なもの)

 例えば、「最初の拒絶理由通知が通知された後に、補正できる内容にどのような制限が課されますか」と言うような問題です。

  ⅳ)事例(原則、論文試験の知識で対応可能なもの)

 例えば、図のようなものが提示されて、その事案に即した解答を行うような問題です。

 口述試験には、このような問題が複合的な形で出題されます。口述試験を受けるのは、既に論文試験を突破されてきている方々ですから、実際に過去問を見たり、模擬試験を受けたりすればすぐにイメージはできると思います。

  

スタートアップに必要な「知財戦略」(基本編:その1)

1.そもそも知財(知的財産)って何?

 例えば、日本弁理士会の説明を見ると知財とは、「人間の知的活動によって生み出されたアイデアや創作物などには、財産的な価値をもつものがあります。そうしたものを総称して「知的財産」と呼びます。知的財産の中には特許権や実用新案権など、法律で規定された権利や法律上ほどされる利益に係る権利として保護されるものがあります。それらの権利は「知的財産権」と呼ばれます。」と説明されています。

 簡単に言えば、例えば、抽象的なアイデアやノウハウなどの無体物が知財であり、知的財産権とは、それらを保護する権利と言えます。中小企業やスタートアップ企業であれば、特に重要なのは特許権と商標権だと思うので、後で簡単に解説します。正直な話、我々のような知財を日常的に扱っている人間でも、割と適当に使ってしまう言葉ではありますから、今の時点では、そういうものなのかという理解で大丈夫です。

 ちなみに日本弁理士会とは、知的財産に係る手続きの代理業務を行う国家資格である「弁理士」を束ねる組織であり、原則として、すべての弁理士は日本弁理士会に所属することになります。

 

2.特許権って何?

 こちらも例えば、日本弁理士会の説明を見ると特許権の保護対象となる特許とは「発明と呼ばれる比較的程度の高い新しい技術的アイデア(発明)を保護します。「物」の発明、「方法」の発明及び「物の生産方法」の発明の3つのタイプがあります。」と説明されています。

 これを見る限り、どうやら特許は、「発明(技術的アイデア)」を保護するものであり、物、方法、物の生産方法という3つの種類の発明の種類があるんだなということが分かります。

 この説明は、決して悪い説明ではありません。むしろ分かりやすく説明されていると思います。しかし、そもそも「発明」ってなんだろうという、至極当然な疑問です。

 この点、特許法では、発明とは「自然法則を利用した技術的思想のうち高度なもの」という定義がされています。余計にわからない、、、、おっしゃる通りかと思います。

 ここで、重要な点は、「発明」と呼ばれる特許法の保護対象が、これだけよくわからないものだということです。もちろん、実務的にある程度の切り分け(これは発明になるだろう、これは難しいとか)は確立されてはいるのですが、やはり曖昧な部分は残るし、弁理士により判断が異なることがあるのも当然だということです。冷静に考えれば、目に見えない抽象的な思想を言語化して法的に保護しようというのですから、そんなに簡単に切り分けできるはずはないのです。この発明というものの意味については、非常に重要ですので、詳細は応用編等、別の機会にもう少し詳細に検討します。

 

3.商標権って何?

 こちらもまずは、日本弁理士会の説明を見てみましょう。余談ですが、このような基本的な知的財産(権)の説明は、日本弁理士会や特許庁といった公的な組織が丁寧な解説を行ってくれている場合が多いので、参考にしてみてください。

 話を戻すと日本弁理士会の説明を見ると商標とは、「商品又はサービスについて使用する商標に対して与えられる独占排他権で、その効力は同一の商品・指定商品等だけでなく、類似する範囲にも及びます。商標として保護されるのは、文字、図形、記号の他、立体形状や音楽等も含まれます。」と説明されています。

 ざっくりと説明すると、商標とは、類似する商品やサービス群の中で夫々の商品やサービスを識別する文字であったり図形であったりの目印のようなイメージです。例えば、需要者がチョコレートを買おうと思った場合に、値段は勿論、「Godiva」や「明治」といった商品の販売元や商品名を目印にチョコレートを購入すると思います。商標とは、自身の商品やサービスを、他人の商品やサービスと区別するための指標となる文字や図形であり、商標権者の有する業務上の「信用」を保護するものです。

 基本的に、私のブログでは、特許を中心としたネタを扱っていくつもりですが、商標は、ある意味では特許よりもはるかに重要ですので、どこかの機会で触れられればと思っています。

 

4.知財活動って必要?

 このような特許権や商標権のような知的財産権の取得を目指す活動が代表的な知財活動の一つです。例えば、AmazonやGoogleといった巨大企業であればこのような知財活動は日常的に行われています。しかし、中小企業やスタートアップ企業のような、資金もリソースも限られている企業でも行う必要はあるでしょうか。例えば、「うちは大手企業と違ってお金がないから特許出願なんてできないよ」、「うちの技術は皆に広く使ってほしいから、特許は取りません」と言った声もよく聞きます。次回の「基本編その2」では、この点について言及していきたいと思います。

 

*既に応用編の内容をブログに記載しているのですが、もう少し基本的な内容から記載してみてはという指摘を受けたので、基本編という形で再構成を行うことにしました。応用編との対応関係は、徐々に整理していきます。

*参考HP日本弁理士会:https://www.jpaa.or.jp

 

 

スタートアップに必要な『知財戦略』(応用編:その1)

  1. 知財戦略って何?

 知財戦略という言葉は、割とよく使われます。「うちの会社は、特許は出しているんだけど知財戦略は全然でさ~」、「特許出願とかしたことがないけど、知財戦略ってどうやればいいの?」とか実際によく耳にする会話かと思います。ただ、この「知財戦略」という言葉は割と多義的に使用される言葉であり、上述の2つのセリフを発言した人間もおそらく知財戦略という言葉に全く違う意味をイメージして会話をしているものと推測できます。実際に知財戦略とはどのようなものなのでしょうか。

 

2.一般的な意味での知財戦略

 この点、知財戦略という言葉から多くの人がイメージする内容としては、例えば、競合他社との差別化要素となる重要性の高い特許については他社に対してライセンスを行わないけれども、汎用性の高い基本特許については市場拡大のために無償でライセンスを行うというような、いわゆるオープンクローズ戦略のようなものをイメージするかもしれません。

 また、例えば、PCT出願の移行国をどこにするのか、対象のアイデアをどのような形(切り分け、統合、分割等)出願を行うのか、といったどちらかといえば出願戦略に近いような内容をイメージする人もいるかもしれません。

 このような知財戦略は、社内に弁理士や弁護士を多数抱える大手企業において、多くの人員や多くの時間をかけて検討される内容であり、非常に高度な知財戦略といえます。

3.中小企業やスタートアップ企業における知財戦略

 これに対して、中小企業やスタートアップ企業では、毎年多くの特許出願を行う予算や経験豊富な知財部員(社内リソース)があることはほとんどないと思います。さらに言えば、中小企業やスタートアップ企業の多くは、そもそも弁理士や特許事務所あまり馴染みがなく、知財戦略は勿論、特許出願はしてみたいけれどどうやったらいいのか全く分からない、というのが現実なのかもしれません。

 実際、私自身の印象としても、「特許出願を始めとする知的財産がこれから必要になってくると思うけれども、どうやればいいかよくわからないし、余裕がある訳でもないのでズルズルやらずに来てしまいました」というような状況の会社や、「特許出願自体は何度かしたことがあるんだけれども、実際の明細書もよくわからないし、少なくとも戦略のようなものは何も構築できていない」というような状況の会社が多いという印象があります。

 

4.大手企業と同じような知財戦略が必要?

 大手企業と、中小企業やスタートアップ企業では、目指すべきゴールもかけられるリソースも全く異なります。そもそも、知財戦略は、本来、個々の会社の夫々にあった戦略を構築するべきで、一律にこのような知財戦略を実行するべきという話ではありません。次回以降では、中小企業やスタートアップ企業が知財戦略を構築するために必要な考え方や方法について、少しづつ掘り下げて行こうと思います。