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一から始める知財戦略

知的財産全般について言及します。

効率的に明細書を作成する極意(それでも明細書が苦手な人へ)

1.はじめに

 

 先日のブログ(ログイン - はてな)で文章の書き方を紹介しましたが、正直、単に文章の書き方の話をされても・・・、なんてもいいから簡単に明細書を書くコツを教えてくれ、という方も多いと思います。

 もっと言えば、一般的な特許事務所であれば、案件を効率的に処理することで利益を上げるビジネスモデルになっています。したがって、特許事務所で働くということは、明細書の品質だけでなく、大量の明細書を短時間で作成するということも極めて重要です。明細書を効率的に処理するにはどうすれば良いのでしょうか。

2.考え方のコツ

 

 (1)文章をブロックとして捉えましょう

  文章の美しさは二の次にして、文章(例えば段落)をブロックとして捉えて明確な文章を作成するように心がけましょう。

  具体的に言えば、例えば、クライアントの資料の3pに記載された内容は[0080]に記載しているとか、〇〇の定義は段落の[0010]に記載しているとか、どの段落に何が書いてあるのか本人及び関係者に明確に分かるように記載するというイメージです。

  このような記載をすることで、明細書全体の修正や加工も容易になりますし、第三者が確認をしやすい(特にクライアントがチェックしやすい)です。変に自分の言葉でまとめた文章を作成してしまうと、文章としての取り扱いが非常に面倒になってしまいます。

 (2)よく利用する表現(文章)を事前に準備しましょう。

  (1)でも述べたように明細書の文章はブロックです。よく利用する表現(文章)は、事前に準備をしておくことで色々な形で応用が可能です。

  このような方法は、、早く、効率的に文章を作成できるだけでなく、むしろ文章の抜け漏れ、誤字・脱字といったミスを明確に減らすことができます。なお、初めに準備する表現(文章)の内容は極めて重要ですから、初心者の方は、先輩や上司に十分確認をとることは必要です(むしろこのようなことが一番勉強になります)。

 (3)作成した表現(文章)をいつでも取り出せる状態にしておきましょう。

  これらのことは割と意識してやっている方もいるかもしれません。したがって、最も重要なことは、このようにして作成した表現(文章)を自由に取り出せるように管理しておくことです。どのような方法でも良いと思うのですが、例えば、私が行っている方法を紹介します。

  私の場合は、例えば、〇〇を説明するときに利用する表現(文章)、△△を説明するときに利用する表現(文章)という形で、特定の目的毎にファイルにまとめて管理したりしています。このような当たり前の効率化を行うだけでも、明細書を作成する効率はかなり上がるものです。少しでも興味がある方は、ぜひお試しください。

3.備考

 

 このような方法は、やはり同じ企業の案件を複数担当するような場合にこそ有効です。一方で、スタートアップ企業やマイナーな技術分野など一品物の明細書を作成する場合には、あまり向いていないかもしれません。このような一品物の明細書の作成については、別の機会にお話しします。

BENRI-Cってなにw

 

1.BENRI-C

 今日は雑談的な感じで気軽なネタに触れたいと思います。先日、日本弁理士会から下のような動画が公開されました。一応、日本弁理士会とは、原則すべての弁理士が所属している強制加入団体です、当然私も所属しています。まさか裏でこのような動画が作られているとは、、、知りませんでした。

www.youtube.com

 初めてこの動画を見たときは、事務所にいた同僚と一緒に大爆笑しました。やはり、ツイッター等でもかなり話題になっているようですね。正直、あの団体がこんな思い切ったことをしたというだけで十分良かったのではないかと思っています。古坂大魔王という人選も良いですしね。ということで、せっかくの機会なので日本弁理士会や業界の状況について少し考えたいと思います。

2.弁理士の実態

 

 日本弁理士会の会員の分布状況(2019年7月時点)によれば、弁理士の平均年齢は50.17歳とのことです。日本のサラリーマンの平均が40歳前後であることを考えれば、どうでしょうね。基本的に定年がないという点を差し引けば、割とこんなもんなのかもしれません。税理士の平均年齢が60歳を超えているようですから、士業の中ではそこまで高齢化は進んでいない方なのかもしれません。

 ただし、圧倒的な問題点があります。若い人が本当に少ないんですね。同資料によれば、35歳未満の弁理士は689名だそうです。ちなみに弁理士全体の人数は、11000人程度ですので約6%程度に過ぎないですし、20代となるとさらに減ります。

 早い話が、これからどんどん年齢層が上がっていくんですね。10代のYoutuberが当たり前のように当たり前のように金を稼ぎ、e-sportsなんかでも10代のトッププレイヤーが億単位の賞金を手にします。出した例がだいぶ私の好みに寄ってる気はしますが、まあ市場の流れについていけない弁理士は増えるでしょうね。

 一応、誤解の内容に言うと、ベテランの弁理士さんたちがどうではなく若い人に参入してもらわないと業界に未来がないってことなんです。その意味で、この動画は一定の効果を出してくれるんだろうなぁと期待しています。面白いですよね、普通に。

3.気になった点

 

 (1)クライアントのイメージがよくわからない

  「あなたの」というところの「あなた」というのは、誰を示してるんですかね。中小企業の社長さんのようなイメージなのか、個人の方なのか、大手企業のイメージではないでしょうから最終的にどのような方をクライアントとして想定したストーリーなんでしょうか。

 (2)弁理士のイメージが古い

  弁理士は、発明したものを伝えて任せれば特許庁と戦って特許を取得してくれる・・・、まあやはり中小規模の所長弁理士のイメージなんでしょうかね。日本弁理士会の多数派ですから仕方ないとは思うのですが、、、むしろ新しいビジネスモデル(弁理士イメージ)作っていかないとじり貧だと思うんですけどね。インハウスの人とかまるで意識してないですよね。

 (3)どんな仕事なのかが分からない

  何だかんだで、弁理士の仕事がどんな仕事なのか全く入ってこないですね。まあここら辺は敢えての戦略かも知れませんが、、、

4.まとめ

 ぐだぐだ書きましたが、そもそも弁理士(知財業界)なんて全く知名度がないといっても過言ではないくらいにマイナーですから分かりやすく、やりすぎるぐらいでちょうど良いですよね。これで若い人来てくれますかね、そんなに甘くない?w

   なお、この動画を見た業界内外(特に外)の方の意見を聞きたいです、良ければコメントいただけると幸いです。

 また、そろそろ、真面目な知財ネタも尽きてきたので、これからはこういう軽いネタも少しづつ増やしていきますので、よろしければ是非ご覧ください!

誤解のない文章を作成する極意~より良い明細書を書くために~

1.はじめに

 

 私は、明細書を書いたことない人、文章の作成に慣れていない人の指導をすることがよくあります。中には、どうしても「すぐに単独で問題の少ない明細書が書けてしまう人」もいれば、「結構経験はあるけどちょっと物足りないなぁ」という人がいます。特に明細書を作成するという業務を念頭に置いた場合、このような差を生む要因の一つに文章を作成する能力の差があるように思います。例えば、よく事務所(や会社)の上司に「何を言いたいのかわからない!」、「書いてある文章の意味が分からない」と言われたことはありませんか、そのような方に向けた特に明細書で必要な「誤解がなく、明確に、相手に伝わる文章」の作成の仕方について考えたいと思います。基本的には、明細書を始めとした法律文章の作成を念頭に置いていますが、学術論文や報告書等、他の分野でも応用できる考え方だと思いますので、是非、参考にしてみてください、

 

2.なぜ意味の取りずらい文章になってしまうのか?

 

 私は、「意味の取りずらい文章」が作成されてしまう原因は、主として2つ存在すると考えています。

 まず一つは、「そもそも文章として何を書きたいのか明確になっていない」場合です。このような場合、文章を構成するために執筆者にどのようなことを書きたかったのかを聞いてもうまく説明することができません。そのような状態では、相手に伝わる文章が作成できないのは当然と言えます。

 もう一つは、「執筆者のイメージが文章として表現されていない」場合です。このような場合、執筆者にどのようなことを書きたかったのかを聞くと、実は結構きちんとした返答が返ってきます。つまり、本人のイメージが文章として必要十分に記載されておらず、情報が抜け落ちたいたり、文章の構成が崩れていたりという現象が起きているということです。意外に思うかもしれませんが、このようなケースは結構多い印象があります。今回は、この後者のケースを減少させる方法を考えます。

 

3.改善するためのポイント!

 

 このような問題に対して、私は、例えば(1)から(4)のような対策案を推奨しています。なお、このようなポイントは、明細書等の法律文章や試験の答案(論文式試験)のように「誤解がなく、明確に、相手に伝わる文章」が必要とされる状況で有効です。小説等では全く別のロジックが働くと思いますので、目的に合わせて、取捨選択してください。

 

  (1)文章を短文で区切る(3行ルール)

  ⇒日本語の係り受けは、非常に複雑です。冗長な文章は、係り受けのミスを誘発しまので、まずは文章の「かっこ良さ」よりも、正確な文章を意識しましょう。ちなみに3行ルールとは、長くても3行程度(40×3=120字)程度で文章を区切ることを徹底するという考え方です。明細書の指導でも、論文式試験の指導でもよく使う手法です。

 

  (2)5W1Hを徹底する

  ⇒日本語の場合、特に主語が問題となります。ご存じかと思いますが、例えば、「昨日、友達と食事に行ってさ」というように日本語は、主語がなくてもある程度成り立つ言語として有名です。しかしながら、曖昧なのは間違いがありません。そのため、明細書を作成するような場合では、極力すべての文章に主語を記載すべきです。なお、(1)や(2)の考え方は、作成した文章を他の言語に翻訳するような場合極めて翻訳しやすいという特性もあります。その意味でも、明細書を作成するような場合、(1)や(2)の考え方は必須と言っても過言ではないと思います。

 

  (3)情報を落とさない

  ⇒執筆者のイメージが文章として表現されていないケースについては、執筆者のイメージを文章にした際に何かしらの情報が抜け落ちていることが非常に多いです。つまり、口頭で説明できたのですから、その説明を「そのまま文章にすればいい」のですが、それができていないということです。これに対する解決策は単純です。「文章にしたいイメージをまずは口頭で固めた上で、口頭で表現しようとした内容をそのまま文章にする」ことを意識してみましょう。さすがに不要な部分はありと思いますが、最終的に本当に不要な部分のみを削除すれば問題ありません。

 

  (4)文意が一意に確定できることを意識する

  ⇒作成した文章の「文意が一意に確定できるか」を検討するようにしましょう。複数の文意に解釈できてしまう文章は、明確な文章を作成するには不要です。自分のイメージを一意のみに解釈できる文章に置き換えていきましょう。時間がかかる作業ですが、このような作業を行うことではじめて明確な文章というものが生まれるのだと思います。

4.まとめ

 

 以上、簡単に解説してみましたがいかがだったでしょうか。このような考え方の前提にあるのは、法律文章の特性が、「文章に記載された内容(情報)が全て」であり、原則、一発勝負であるという点です。これは、論文式試験等でも同じです。そのため、「情報の抜け落ち」や「誤解」が致命的な損失につながる可能性があります。

 さらに言えば、明細書の観点で言えば、審査官も人間です。審査のノルマとの関係で、一本の明細書の審査に極わずかな時間しかかけることができません(当然ミスもあります)。その意味でも、誤解の生じない「明確」な文章というのは極めて重要です。

 そして考えてもらいたいのは、そもそも自分のイメージを他者に正確に伝えるというのは、極めて高度な作業であり、簡単にできるものではないということです。その意味では、そのような文章を作成するのは難しくて当たり前です。私自身の文章もどの程度分かりやすいものになっているかは読者の評価次第ですが、私自身は、普段、このようなことを考えて文章(特に明細書)を作成しています。質問等があればお気軽にご連絡ください。

 

知財業界の歩き方(転職編)

1.はじめに

 要望があったので、少し特許事務所への転職について、触れたいと思います。

 諸々の事情で、昔特許事務所の採用に関わっていたこともあるので、このブログでは、若干採用サイドの話も織り交ぜながら説明します。

 知財業界への転身を考えている方や弁理士試験の勉強を始めた方の間で、まず話題に上がるのが「特許事務所ってどうなの?」「いつ転職しようか?」というような話題ではないかと思います。このような疑問に少しでも答えらればと思います。

 

2.特許事務所ってどうなの?

 特許事務所とは、簡単に言えば、特許出願を始めとする知的財産活動に必要となる様々なサービスを提供し、対価を得る(収益を上げる)組織です。つまり、詳細については省略しますが、特許事務所とは、基本的には、多くの特許出願(特に外国の絡む出願)を効率的に処理することで収益を確保する組織です。特許事務所は、最大手でも1000人弱の組織ですし、ほとんどの特許事務所は200人に満たない小規模な組織です。そのため、通常の企業と比較して、余剰人員は少なく、自分の成果(売り上げ)が給与に反映されやすいという意味で実力主義の側面が強いです。

 具体的に特許事務所で明細書等を担当する特許技術者(弁理士資格の有無に関わらず)の待遇で言えば、年収400万円程度から1500万円程度までがよく見る範囲かと思います。これはあくまでも特許事務所に勤務する特許技術者の待遇であり、弁理士で独立している場合はもっと収益を出している方も当然います。いずれにせよ言えるのは、年収の上限で言えば、特許技術者の待遇は、決して低くはありません。ただし、平均給与は決して高くはありませんので、そのような実力主義(成果主義)のスタイルが自分に合っているのかという点を考えるのが最も良いと思います。

 

3.いつ転職すれば良いの?

 数年前(私が弁理士試験の勉強をしていた時期)までは、特許事務所への転職は35歳まででなければ転職は難しいと言われていましたが、特にここ1、2年は弁理士試験の合格者が減っていることもあり、かなり裾野が広がってきている印象があります。また、特許事務所の数もかなり多いですから、特に事務所を選ばなければどのような年齢の方でも就職先自体は見つかるのではないでしょうか。

 ただし、特に業界未経験の場合であれば、一からそれを身に着ける必要がありますので、例えば、年下の上司から厳しい指導を受けるようなことを覚悟しないといけないかも知れません。その点を除けば、流石に若い方の方が伸びるスピードは早い印象はありますが、高齢の方でも十分に成功されている方はいると思います。

 

4.具体的にどのように就職活動をすればいいの?

 基本的に自分で探して応募するということも可能ですが、特許事務所は、非常に数が多いです。また、色々なところで話題にされると思いますが、特許事務所の内情は実際に中に入ってみなければわかりません。そのため、特許事務所への就職でよく利用されるのが、以下のような転職エージェントです。なお、いわゆるコネ(受験仲間やゼミのOB)も有効ですからコネがある場合はそれが一番確実かと思います。

 <転職エージェント>

 MS‐japan:管理部門(バックオフィス)・士業特化型転職エージェントNo.1のMS-Japanの求人・転職情報サイト

 リーガルジョブボード:法律系専門職の求人・転職サイト|リーガルジョブボード

 プロキャリア(LEC):就職・転職をご希望の方 | 企業法務職、知財専門キャリア転職、実務経験者派遣なら プロキャリア

 REX:公認会計士・税理士など経理財務に特化した求人・転職ならREX(レックス)|株式会社レックスアドバイザーズ

 <求人サイト>

 パテントサロン:★パテントサロン★ 特許・知的財産情報サイト

 

5.補足

 転職エージェントとは、近年注目を浴びている業態で、知財業界(特許事務所を含む)で一般的に利用されています。この転職エージェントは、求職者に対して就職先を斡旋するのですが、通常、求職者には一切の費用負担がありません。つまり、転職エージェントに対する費用は、求職者ではなく採用を行った特許事務所(や企業)が支払うことになります。

 例えば、特許事務所が転職エージェントを介して、求職者を採用した場合、初年度年収の30~40%程度の金額を転職エージェントに支払うという契約結ばれているというような形式です。即ち、転職エージェントとしては、求職者の年収が高く評価された方が、自身の利益も大きくなるようにビジネスモデルが設定されています。

 求職者の立場からすれば、転職エージェントは無料で利用ができる上に、給与や条件の交渉にも協力してくれるため、利用する価値は非常に高いです。

 なお、特許事務所にとっては、相当な費用を負担することになりますが、業界全体が人手不足の上に、マッチングも中々うまくはいきませんから、今では多くの事務所が転職エージェントを介した採用を視野に入れています。

スタットアップに必要な「知財戦略」(基本編:その2)

1.知財戦略が必要な理由

 さて、中小企業やスタートアップ企業のようなリソースの少ない企業であっても、知財戦略が必要なのか、という疑問に対する答えは、当然ながら、「YES」です。中小企業やスタートアップ企業であっても、知財活動自体は必ず必要です。

 理由は簡単です。知的財産権という法律的な権利が存在する以上、他社の知的財産権を侵害した場合、法的な制裁措置を受ける可能性があるからです。つまり、防衛という意味での知財戦略すら放棄した場合、他社の知的財産権を侵害しているということで損害賠償請求差し止め請求という形で法的な制裁措置を受ける可能性があるということです。

 この点、一般的に馴染みのある著作権は依拠性を必要としますので「知らなかった」という反論がありあえますが、特許権や商標権については、「知らなかった」という反論は認められません。

 そのため、少なくとも大きなプロジェクトを動かすような場合には、自分たちのプロジェクトが他社の特許権を侵害していないのかという調査を行う必要がありますし、また、調査コストとの兼ね合いで十分な調査を行わない場合でも、そのリスク判断を行う必要があります。

 

2.特許出願を行う必要はある?

 これに対して、特許出願や商標登録出願といった積極的な知財活動に関しては、コストやメリットを比較して、本当に必要かどうかを検討する余地があります。ここで、商標登録出願については、コストに対するメリットが非常に大きく、通常の企業であれば行っておくことをお勧めします(先取りされると面倒ですよ)。

 では、特許出願はどうでしょう。やはり敷居が高いイメージがありますね。特許出願を行うメリットを簡単に説明します。なお、説明の便宜上、特許出願自体のメリットと特許権を取得した際に得られるメリットが混在していますがご容赦ください。

  ⅰ)独占排他権を取得することができます。具体的には、差し止め請求や損害賠償請求を行うこことで、競合を直接的に排除することができます。

  ⅱ)ⅰ)の効果に基づく抑止的な効果で、競合他社を牽制することができます。

 これらに加えて従来的なメリットに加えて、最近では、副次的な効果として以下のようなメリットが知られています。

  ⅲ)HPや営業で特許出願をアピールすることができる(宣伝広告効果)

  ⅳ)M&Aや共同研究等において、対象技術を明確化することができる。逆に言えば、特許出願がない場合、共同研究等の対象範囲を可視化することは極めて困難です。

  ⅴ)社員のモチベーションアップに繋がる

 

3.中小企業やスタートアップ企業の特性

 このようなメリットは、あくまでも一般的に指摘されるものですから、各企業によって必要性は異なるのが普通です。例えば、ⅰ)やⅱ)のメリットについては、上場直前のユニコーン企業等であれば格別、そうでなければ中小企業やスタートアップ企業でそこまでの意識を持つ会社は少ないと思います。そのため、多くの中小企業やスタートアップ企業にとっては、ⅲ)からⅴ)のようなメリットこそ重要になるでしょう。しかし、これはあくまでも一般論です。

 つまり、特許出願をするメリットとは、各企業の状況によって様々であり、正解はありません。その意味において、私は、特に中小企業やスタートアップ企業における知財戦略の第一歩は特許の目的や使い方を検討することだと考えています。

 ただし、中小企業やスタートアップ企業が、大手企業と大きく異なる点が一点あります。それは、中小企業やスタートアップ企業の多くは、知財活動に投資できる資金も少なく、社内に知財や法務に長けた人材もほとんどいないという点です。したがって、中小企業やスタートアップ企業の知財戦略でもっとも重要なポイントの一つは、いかに費用を抑えて、効率的に知財活動を行うのかという点だと思います。

 

4.特許出願にかかるコスト

 では、特許出願に掛かるコストは、どのくらいなのでしょうか。特許事務所の値段設定や審査の過程等によってかなり変動するものの、国内出願か、PCT出願(外国を含む)なのか、という点で大きくコストが変わります。

 例えば、国内出願であれば、特許出願から(うまくいって)特許権を取得できるまでに概ね100万円程度の費用が掛かるのが一般的です。

 また、PCT出願の場合、各国毎に費用が掛かってくるわけですから、例えば、PCT出願を行って、日本、米国、中国の3国で特許権を取得したような場合で、概ね費用の総額は300万円~400万円程度になると思います。

 ただし、ここで気を付けなければいけない点は、単にコストを抑えて安い特許事務所を利用すれば良いという訳ではない点です。そうは言っても、同じ特許事務所ですから、それほど品質が異なることはないとも思いますが、やはり弁理士個人のスキル差も無視できないファクターです。

 以上のような点を踏まえて考えると、私の考える中小企業やスタートアップ企業の知財戦略において主たる方向性としては、まずは知財活動の目的を明確にした上で、それに対するコストという形で見える化して検討し、どのような知財活動を行うのかという意思決定を行うということのように思います。

 

5.コストについての補足(落とし穴)

 特許出願を行う場合、資料の取りまとめや弁理士への説明等、企業(出願人)側にとっても特許出願に多くの工数を割かなければならないことがあります。人材の少ない中小企業やスタートアップ企業にとっては、このようなコストも非常に大きな負担となります。

 しかしだからと言って、明細書の内容を単に特許事務所に丸投げをすればいいかと言えば、少なくとも私は得策ではないと考えています。ここで言いたい趣旨は、あくまでも自社の人材の工数(コスト)を考慮した上で、特許出願を行うかを判断することが重要ということです。

 

*応用編2の内容を再構成し、応用編2を削除しました。応用編は基本編に再構成して、いずれ削除する予定です。

弁理士試験 口述試験のポイント解説!(延長戦)

1.言い訳

 やはりここから書くべきだったかなと思いなおしました。

 まあそれはそうですよね。「論文試験に受かって当然」の人よりも、「なぜか受かってしまった!」という人の方が困りますよね。

 

2.論文試験に受かってしまったら、、、

 まずは、各会派の練習会や受験機関の模試に申し込みましょう。私自身受験機関で講師をやっているので心苦しいのですが、そうは言っても面接試験です。「慣れ」というのは絶対に必要です。ただし、知識のインプットの時間も必要ですので、受けすぎには注意してください。合計2~3回程度で十分かと思います。

 

 <会派>

 春秋会:春秋会口述試験練習会のご案内 – 弁理士春秋会

 PA会:令和元年度 PA会口述模擬試験 開催案内のお知らせ | PA会ホームページ

 南甲:令和元年 口述試験練習会のご案内 (申込受付終了)|南甲弁理士クラブ(受付終了)

 同友会:口述練習・就職説明会−弁理士同友会−

 弁ク:弁理士クラブ 情報提供申し込み登録

 

 

 <受験機関>

 LEC:口述模擬試験 - 弁理士 学習経験者|LEC東京リーガルマインド 

 TAC:口述模試 | 弁理士 |資格の学校TAC[タック]

 吉田ゼミ:弁理士試験・弁理士受験対策講座 全員合格!吉田ゼミ

* セレクションの内容に特に他意はありません。

 

 特段、何処がおすすめというものもありませんが、特徴的なのは、春秋会です。例年通りであれば本番と同じ場所で練習会を行うため、いい予行練習になります。後は、値段や日程を踏まえて決めて行けば十分かと思います。

 

3.勉強のはじめかた

 まずは過去問を購入して解いてみましょう。初めは何となく答えが想定できる程度で十分です。徐々に、正確な文言を意識した解答ができるようにしていきましょう。

 なお、口述試験は、近年大きく傾向が変わった試験です。特に口述試験の合格率が低かった時期の出題は、あまり参考になりません。近年の傾向は、あくまでもスタンダートな論点です。

 また、先日のブログでも書きましたが口述試験においてもっとも注意すべきは青本です。余裕がある方は購入して少しづつ読むようにしていきましょう。なお、「青本の購入は流石に、、、」という方は過去問等に含まれている部分だけでよいので、意識的にキーワードを抑えるようにしていくことで代用はできると思います。

 

4.余談

 先日のブログでも多少触れましたが模試の結果は気にしないで大丈夫です。復習メインで利用してください。どこで作成された問題であってもそれなりに考えられた問題が提供されますから、復習には最適です。また、模試では、試験官をうまく利用してください。「どのように口述試験は進行するのか」、「助け舟はどのように出されるのか」等の感覚をつかんでください。

 特に条文の暗唱や趣旨(青本)は覚えていないとパニックになってしまう人も多いと思います。そんな時は、自分の今までの知識を信じて、冷静に記憶を探ってください。きっとどこかで正解に近いものを見ているはずです(論文試験までの勉強で)。その記憶の断片を言葉にすれば、試験官が何かしらのヒントをくれるはず、なんとなくそんなイメージです。まあ「習うより慣れろ」ですね。

 なお、私は、例年同様、TACや弁クで口述試験に関わっていますので、気が向いた方はいらしていただければ、少し厳しめの試験を受けることができるかもしれません。

弁理士試験 口述試験のポイント解説!(後編)

  1. 弁理士試験 口述試験の対策

 口述試験の対策は、良くも悪くも「勉強の穴を作らない」ということと、「口述試験に慣れる(普段の実力を発揮する)」ということに尽きます。このうち「口述試験に慣れる」ということに関しては、個人差が大きい上に、それなりに言及しているブログ等もありますのでここでは敢えて省きます。

 

 ⅰ)条文の暗唱に対するポイント

 条文の暗唱は、口述試験の合格率が低かった時期に多く出題されていましたが、近年では、若干出題頻度は落ちているような印象を受けますが(統計をとってはいません)、まだまだ出題の可能性は十分にあると思います。

 ただし、条文の暗唱に求められる正確性については、近年大きく変化していると考えています。

 具体的に言えば、口述試験の合格率が低かった時期には、て、に、を、は、を含めて一字一句間違えないように暗唱しなければ正解とはみなされないというような状況であったようですが、近年はそのような精度は求められてはいませんし(そんなことをしては合格率が保てません)評価する場合であっても、そのレベルを求めてる必要はないと思っています。一方で、重要な条文であるにも関わらず、条文の出だしすら答えられないとすれば、本当に論文試験を合格してきたのかな、と不安になってしまいます。

 ではどのレベルが求められるかと言えば、相対的な受験生のレベルにもよりますが「主要な要件・効果を落とさない」というレベルで十分かと思っています。

 ただし、ここで一つ重要な点は、条文の内容(文言)がまるで分らなかったとしても最悪の場合、試験中に条文集を参照することで条文の内容(文言)は確認することができます。したがって、条文の暗唱ができなかった場合であっても、口述試験自体は継続することができ、次の問題に進むことができます。

 ⅱ)趣旨(青本)のポイント

 実は、近年の受験生が割と抜けがちだと思う知識はこの趣旨、特に青本の内容です。論文試験までであれば、必ずしも青本の趣旨をそのまま答えなくともある程度の点数は得られますし、出る内容も限られるため、当然の戦略かもしれません。

 しかしながら、口述試験においては、この趣旨(青本)が鬼門だったりします。理由は簡単です。青本は、口述試験中に参照することができないためです。通常、趣旨の問題に対する正解は、青本の「キーワード」が出るかどうかで判断する試験官が多いと思いますが、このキーワードが全く出てこないと受験生としても、そして試験官としてもどうにもならないということになってしまいます。

 したがって、趣旨(青本)関係の問題については、少なくともキーワードだけでもよいので頭の隅にないと、リスクが非常に大きいといえます。

ⅲ)簡単な知識問題(原則、論文試験の知識で対応可能なもの)のポイント

 一言で言えば、論文試験の実力によってやる必要があるかないかを決めることをお勧めします。そうは言っても範囲が広いので、苦手なところだけ復習するとかでも良いと思います。なお、考え方は先程のⅱ)と同様で、試験中に確認できない内容を含むところを重点的に行うのが良いと思います。

ⅳ)事例(原則、論文試験の知識で対応可能なもの)のポイント

 最近では、パネルを使った問題等も話題になっていますが、基本的には論文試験で勉強した知識で十分に対応できるはずです。また、事例問題の場合、全く何もしゃべれないという事態になることも少ないと思いますので、気になる人は、何度か例題のようなものをやっておく程度で問題ないかと思います。

 

2.受験機関の模試や会派の練習会の使い方

 まず、少なくとも何回かは受けてみることをお勧めします。グダグダと書きましたが、そうは言っても口述試験は、普段の実力を発揮する(既にある知識をアウトプットする)ということが一番重要です。強いて言えば、試験官からの「助け舟に乗る」感覚がなんとなくわかるとベストです。

 なので、結果はそれほど気にしなくても大丈夫です。人によっては、結構厳しいことを言う試験官もいるとは思いますが、基本的にはどの試験官も口述試験時点での評価をつけると思うので(勉強の時期により採点基準を変えられるような人間はまずいません)、口述試験までにできるようになれば大丈夫です。

 

3.まとめ

 口述試験というと、どうしても面接を思い出す方も多いと思いますが、近年の口述試験は90%前後が合格する試験です。その意味でも試験官は、受験生を落としたいのではなく、むしろどういう助け舟を出せば受からせられるかというような考えの方が普通だと思います。

 (いつ、このブログを読んでいるかはわかりませんが)試験前に、このブログにたどり着くような方はその時点でリードしているので、普通に受かると思います。とはいえ万が一に不合格にならないよう油断しすぎずに、頑張ってください。弁理士試験の合格はもう少しですよ!

 

~口述試験については、とりあえず完結~