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一から始める知財戦略

知的財産全般について言及します。

IPランドスケープとパテントマップ

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1.はじめに

 

 先日のブログでも紹介したように、知財業界では、IPランドスケープという用語が流行っている訳ですが、その多くに「パテントマップ」という技術が利用されています。今日はこのパテントマップを簡単にご紹介したいと思います。

 

2.パテントマップの定義

 

 特許庁によれば、このパテントマップの定義は、特許情報整理・分析・加工して図面、グラフ、表などで表したもの(特許庁:技術分野別特許マップ,1997~2000)、と定義されています。一言で言えば、パテントマップとは、「特許情報を見える化したもの」です。

 つまり、パテントマップの価値を知るためにも、まず特許情報とは何かを知らなければなりません。

3.特許情報の価値

 

 この特許情報の価値の根源にあるのは、出願公開という制度です(特許法第64条第1項等)。簡単に言えば、日本国内でなされた特許出願は、出願から1年6月を経過すると、その内容が公開公報により公開されます。特許出願は、各出願人(企業)の重要な技術情報は勿論、どのような分野の技術なのか、その量や比率はどうなのか、といった事業戦略や技術戦略に関わる様々な情報を含みます。そして、このような特許出願は、国内だけでも毎年30万件以上行われているのですから、使い方次第では有益な情報が得られることは簡単に想像できるでしょう。

 さらに、このような特許情報は、特許庁により基本的に無料で公開されていますので、誰でも自由に取得することができます。ただし、パテントマップを含む統計的な解析を行う場合には、流石にやりずらいので有料のDBやソフトウェアを使って、パテントマップを作成するのが一般的です。

4.パテントマップで結局何ができるのか?

 

 例えば、一例をご紹介します。基本的には特許情報からどのように情報を抽出するかですから、使い方はいくらでもあり得ます。

 (1)競合企業の出願動向を分析する。

 競合企業の出願状況や出願内容を時系列的に検討することで、競合会社の技術水準や技術開発の動向等を明らかにすることができるかもしれません。このような分析は、例えば、研究開発の方向性を決める上で利用できる可能性があります。

 具体的には、例えば、A社では、ある技術分野の特許出願を積極的に行っていたにもかかわらず2011年以降はほとんど特許出願が確認できないような場合、A社は当該技術分野から撤退したのかもしれません。また例えば、商社であるB社がある技術分野の特許出願を行っているとすれば、当該技術分野への参入を考えているのかもしれません。さらに言えば、そのような場合は、技術系のスタートアップ企業との共同出願だったりするかもしれませんね。いずれにせよ、そのようなイメージです。

 (2)自社が参入予定の業界のプレイヤー動向を分析する。

 参入予定の分野の出願状況を把握することで、当該分野の技術的な勢力図を把握することができます。勿論、技術的な勢力図と実際の売上等の勢力図で違いは出るものの、そのような違いも含めて、業界参入の意思決定に利用することができるかもしれません。

 具体的には、例えば、上述の分野が、市場規模の割には全体的に特許出願が少なく、市場を席巻しているプレイヤーが単なる営業力(先行者利益)のみで市場をリードしているとします。例えば、このような場合であれば、革新的な工夫により権利範囲の広い特許権を取得することができれば、市場バランスを大きく変えることができるかもしれません。

 (3)自社の出願方針を決定するため、業界の技術動向を分析する。

 技術領域毎の出願状況を把握することで、自社の出願方針の決定のために利用することができるかもしれません。具体的には、例えば、半導体の製造方法において、A方法、B方法、C方法に関連する手法が知られていた場合、A方法やB方法については特許出願がされているが、C方法に関連する特許出願はほとんどされていないということが分かったとして、「C方法に関連する領域では比較的広い範囲の特許権を取得できる可能性があるので積極に出願していこう」というようなイメージです。

 

 これらはあくまでも一例です。最近はパテントマップの種類も増え、ビジュアルもかなり分かりやすいものが増えてきましたので、より自由度の高い解析が実現できるようになってきました。

 ただし、重要なことは、あくまでもパテントマップはツールであり、特許情報の本質(どのような情報が取得できるのか)を理解した上で、解決したい課題や目的に応じて、うまく使い分けるという発想です。そうすることで、初めて特許情報が、事業課題や経営課題と結びつくためです。

 最後に、下記に必要なツールの情報を張っておきますので興味がある方はご覧ください。なお、本来はマップのサンプルを見るとわかりやすいのですが、著作権の関係で差し控えています。

patent-i.com

www.inpatec.co.jp

 

特許事務所の選び方(大手特許事務所vs中小特許事務所)

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1.はじめに

 

 今日のテーマは、「知財に慣れていない担当者がどのように特許事務所を選べば良いか」です。ずいぶん前からセミナーでやりたいと思っていたネタだったのですが、声もかからないし、あまりまとまった時間も取れなかったので、こちらで公開することにします。文章だけだと、わかりにくいとは思うのですが、まぁそこはご愛嬌と言うことで。

 余談ですが、最近、プロフィール用の写真を撮ろうと思って探しているのですが、本当にどこを選べば良いのか分からないですね。特許事務所を選ぶのってもっと大変なんだろうな、とふと思いました。

 

2.身も蓋もない話

 

 初めに身も蓋もないことを言いましょう。士業なんてものはコネクションが一番です。理由は、いくつかあります。士業の場合、基本的にサービスの大半は「知識の教授」です。したがってコミュニケーションが不可欠であり、いわゆる「相性」が合う合わないが非常に重要になります。その意味で、相性の良い弁理士の知り合い(又は知り合いの知り合い)がいればその方を大事にするというのは極めて重要なことだと思います。

 まぁとは言え、それでは話が進みませんから、知り合いがいなかったという前提で話を進めます。

 

3.大手特許事務所と中小特許事務所

 

 ではまずは、特許事務所について簡単に説明します。以前のブログでも、特許事務所とは、特許出願を始めとする知的財産活動に必要となる様々なサービスを提供し、対価を得る(収益を上げる)組織として紹介しています。

 この特許事務所ですが、多くの弁理士が所属する大手特許事務所から、一人の弁理士のみで運営する小規模な特許事務所(以下、「一人事務所」と呼ぶ)まで様々です。割と情報がまとまっていそうなHPを参照しつつ、説明します。

 

patentfirm.tokyo

 

 こちらも以前ブログで紹介していますが、特許事務所の大半は、実は一人事務所というのが実態です(私ももうすぐそうなります)。他方、このHPによれば弁理士40人以上の大手特許事務所は10程度しかないようです。

 

*私の古巣も弁理士は50人以上在籍していましたが、こちらのHPには載っていませんし、結構、抜け漏れがあるのかも知れません。

 

 今日は取り敢えず、大手特許事務所と1人事務所を始めとする中小特許事務所のメリット・デメリットを考えてみましょう。

 

 <大手特許事務所>

 さて、大手事務所の良いところは、色々な手間を省けるところです。別のブログで詳細については記載しますが、弁理士の特徴の一つは他の士業と比較して、個々の得意領域がかなり狭いということがあります。例えば、ある弁理士は「特許、特にバイオが専門である」というような形で、法域や技術分野に得意不得意があるのが一般的です。また、大手特許事務所の多くは、事務部門も充実していますから、法律手続きとして安定した事務処理が期待できます。

 この点、大手事務所では、幅広い人材を揃えていますから、広範囲な領域をカバーすることができます。また、このような特徴を含めて、大手特許事務所は、事務や特許技術者を含めたチームで仕事を受けるため、良くも悪くも一定水準以上のアウトプットを出してくれることが期待できます。つまり端的に言えば、先程のHPの上位10事務所のうち何れかに相談して、それなりの金額を払えば、最低限のアウトプットを出してくれる可能性が高いと言うことです。これは知識のない依頼者からすれば圧倒的なメリットになります。

 他方、大手特許事務所の(特に人気のある)弁理士は、同時に多数の案件を抱えることも多く、基本的に「超多忙」です。質問をしても素っ気ない回答が返ってきたり、スケジュールの調整ができなかったりと、いうような不自由さがあるかもしれません。言ってしまえば、担当弁理士とのコミュニケーション上の問題が生じやすい環境と言えます。また、大手特許事務所の場合は、(事務部門が充実していることとのトレードオフですが)、料金や納期などに融通が利かず全体的に杓子定規の対応の事務所が多いかもしれません。そのようなこともあり、大手特許事務所は一般的に料金は高い設定の場合が多いと思います(間接経費も高いですしね)。

 

 <中小特許事務所>

 中小特許事務所の最大の問題点は、各事務所が千差万別であり、どの事務所を選べばよいのか、素人には極めて判断がつきずらいという点です。念のために言うと、中小特許事務所にも優秀な先生は沢山おり、サービスのクオリティーも大手特許事務所以上の事務所もいくらでもあります。その意味では、自社に最適な特許事務所が見つかれば、料金も比較的安い場合も多いですし、大手特許事務所以上に満足することができる可能性は十分にあります。

 

4.結論

 

 このような事情から、

 (1)まずはコネクションがあるのであれば知り合いの弁理士に相談してみる

 それが難しいようであれば、

 (2)取り敢えず大手特許事務所に相談してみる

 不都合を感じたり、慣れてきて本格的に知財活動を行おうと思ったら、

 (3)中小特許事務所を利用して見る

 というような使い方が良いような気がします。自分の宣伝にならないようにできる限り客観的に検討して見たつもりなのですが、どうでしょうね。異論反論ありそうなところですが、特許事務所の選び方に迷っている担当者の方の助けになれば幸いです。

特許業界で話題のIPランドスケープ?

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1.はじめに

 

 最近、「IPランドスケープ」という言葉を知財業界でよく耳にするようになりました。グーグル検索をかけて見てもかなりヒットするんですね、驚きました。昔(今も)Orbit(Questel社)というソフトウェアで作成できるパテントマップの一つにランドスケープマップというものがあったのでそれが元になっているのかなぁと思っていたのですがどうも違うようですね。少し気になったので、状況を確認してみることにしました。

 

2.IPランドスケープの商標権

 

 まず、この「IPランドスケープ」ですが実は商標権が取得されています。

当事務所が保有する「IPランドスケープ」の商標権の使用許諾について(方針の再確認) | ニュースリリース | 正林国際特許商標事務所

 商標権者は正林国際特許商標事務所(名義は正林先生個人のようです)ということで、はい、私の古巣ですね(笑)。実は、在籍当初から商標権を取得したという話ぐらいは聞いていたのですが、いう経緯で出願に至ったのか、どのように商標権を使うつもりなのか等は全く知りません。そのため、このブログの内容には、そういった内部事情は一切考慮されていません。200人を超える巨大組織ですから、まぁそんなものかなとご容赦いただければ幸いです。

 

3.結局、IPランドスケープって何?

 

 日経新聞によれば、Intellectual Property Landscape=知財に関する環境と見通し」であり、近年、急速に欧米企業が使い始めた知財分析手法と、同手法を活かした知財重視の経営戦略と紹介されているようです。

 また、特許庁により最近発表された「知財人材スキル標準ver2.0」においても色々と考え方が示されていますので、下にリンクを貼っておきます。ただ、どれも具体的ではないですね。従来のパテントマップを用いた経営戦略の構築やDDと何が違うのかはイマイチよく分かりません。

知財人材スキル標準(version 2.0) | 経済産業省 特許庁

 この点、野崎篤志氏がブログで既に検討されていたようでしたので、リンクを張っておきます。かなり詳細に検討されており、何となく背景は見えてきました。

第4回 IPランドスケープとパテントマップは違うのか?|IPランドスケープ、知財情報分析・・・ | e-Patent Blog | 知財情報コンサルタント・野崎篤志のブログ

 全体的に同意できる部分が多く、私が特に何かを付け加える意味はなさそうです。少なくとも、厳密な定義に基づいて使用されている感じではないですね。「AI」の時と似た気持ち悪さがあります。私が使用する時には、基本的にパテントマップという単語を使っていきたいと思います(当面は)。

 実際は、言葉自体はどうでもいい話であり、IPランドスケープとされる方法論自体が真に従来のパテントマップを用いた解析と異なるものなのか(それだけ価値のあるものが提供できるのかどうか)が重要だと思うのですが、どうでしょうね。個人的な感想としては、(勿論進歩はしているものの)特に新しいと言えるものでもないかなというのが正直な感想です。

 ただし、言葉自体の意味はともかく、特許情報を経営戦略に活かすという考え方自体は、非常に大切です。パテントマップの利用方法や考え方については、別の機会に説明しようとは思っているので、興味がある方はそちらもご覧いただければと思います。

 なお、弁理士の方であれば、「弁理士業務標準(第11版)」の中に私(を含めた業務標準委員会)の記載したパテントマップの記事が無料で読めると思いますので、参考にしていただければと思います。

 

*あくまでも全て個人的見解です。

サッカーゲームで見る参入障壁の作り方

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1.はじめに

 

 前回のゲーム(e-sports)ネタの続編です。サッカーゲームを例にして、よりe-sportsが発展する方向性を技術や知財の観点を織り交ぜつつ、考えていきたいと思います。

 なお、私自身は、ウイニングイレブンは97~2017くらいまで現役でたまに大会に出る程度の中堅プレイヤー、FIFAはナンバリングタイトルをいくつか持っている程度の初心者、です。比較的ウイニングイレブンの方がやり込んでいるので、どちらかと言えばウイイレに寄ってしまうと思うのですが、そこはご容赦ください。

 

2.サッカーゲームの特徴

 

 まず現状のサッカーゲームの位置づけを確認しましょう。前回のブログでも示した通り、サッカーゲームは比較的運の要素があるものの、それなりに実力が反映されますし(トーナメントに比較的耐えられる)、戦術的な側面はあるものの個人技の要素もかなり高いという要素もあり、様々なゲームの要素を比較的バランスよく持っています。そのため、e-sportsには比較的馴染みやすい部類で歴史も古いです。

 このサッカーゲームには、他のゲームにはない圧倒的な利点があります。それは、リアルのサッカーと連動させることができるという利点です。そのため、今でJリーグのクラブ(例えば、FC東京)が専属のゲームプレイヤーを雇ったり、Jリーグがオーガナイザーとしてe-sportsの大会を主催するといった動きが出始めました。これは非常に特徴的な傾向であり、活かさない手はないでしょうね。

 また、現在のサッカーゲーム市場はウイイレ(KONAMI)とFIFA(EA SPORTS)の2強でしょう。お互いのタイトルを差別化するという意味でも、一つの重要な観点かと思います。

www.jleague.jp

3.例えば、こんなのはどう?

 

 では具体的な方法はどうかというと、、、

 それこそ関係者(夫々のクラブやゲーム会社)次第ということになるのですが、せっかくなので一つ例を挙げて考えてみましょう。

 大会の決勝戦を、ARやVRの技術を使って、実際のサッカーに近いような形で観客に提示するような観戦方式はどうでしょうか。ゲームの観戦って、プレイヤーの状況やゲーム画面を見るだけになってしまうので、地味なんですよね。特にサッカーゲームの場合は、実際のサッカーを見ている感覚とは全く異なるので、サッカーファンには結構違和感が出てしまうような気がしています。そのため、例えば、実際のサッカーに近いような形で観客に魅せる方向性というのは、サッカーゲームの一つの方向性として有望だと思います。

 ちなみに、今年のTGSでも、コナミブースにARを利用したウイイレのような技術が出展されていましたし、普通に近い世界を狙っている気はします。

 さて、このような技術を実現する場合、どのような点が障害になるでしょうか。まぁ細かく言えばいくらでも出てくるとは思いますが、例えば、一つ例を挙げるとすれば「オフザボールの動き」なんかがあると思います。サッカーゲームというのは、通常、1vs1の勝負ですから、基本的にはボールを持ったプレイヤーのみを操作します。

 まぁ仕様的には、いくつかボールを持っていない選手を操作する方法はあったりするのですが、正直、現状の仕様で満足しているプレイヤーはほとんどいないと思います。勿論、ゲームタイトルによっても差はありますが、結局、どのゲームタイトルであっても、まだまだ実際のサッカーのリアリティーは再現できていないように思います(さらに言えば、ゲームの勝敗も戦術面ではなく、結局個人技の部分で決まってしまうことが多い)。

 このような状況において、例えば、ボールを持っていない選手の動きに戦術的な意味合いをうまく盛り込んだ動きを実現するのに寄与する工夫や、それが難しいのであればARやVRを利用する場合に、少なくともボールを持っていない選手の動きを「自然に見えるように修正する」ような工夫があれば、実は結構な強みになるのではないかと思います(今回、関係会社の特許は全く見ても聞いてもいないため、既に出しているかも知れません)。

 勿論、これはあくまでも一例です。逆にプレイヤーの個人技に着目し、それを魅せるような演出もあり得ると思います。ただ、このような工夫について、特許が取得されていれば非常に強力な参入障壁になるのでは、、、?ということです。

 

4.発明発掘の考え方

 

 という訳で一例を適当に挙げて紹介してみました。

 実は今回の解析は、発明発掘における基本的なフローを紹介しています。まぁ本業でやるなら、もう少しエビデンスや実際のデータに基づいて時間をかけて解析しますが、思考の方向性は同じです。発明発掘のポイントは、「ビジネス上の重要なポイント(できれば技術的なポイント)を探索し、そこから特許法上の発明として具体的な発明を抽出する」ということに他なりません。単に特許を取ればいいという訳ではないし、ある程度業界に精通していないと難しいと思うのですがどうでしょうね。ちなみに今回とは逆で、企業が取得している特許から将来のビジネス展開を予想するような方法論も存在します。そちらの方が面白いですかね。取り敢えず、今回は以上。

 

*台風19号により被害を受けられた皆様には、心よりお見舞い申し上げます。私自身も東京住まいなのですが、幸い被害が大きかった地域から距離がったため、ほとんど影響はありませんでした。

イベント(AI vs 弁理士)に参加してきました!

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 という訳で、「AI vs 弁理士」のイベントに参加してきました。

prtimes.jp

<概要>

 

 SNSでの宣伝活動もあってか、会場はほぼ満員でした。何より驚いたのは知財関係者以外もそれなりに来ているようで、私の席の周辺では知財関係者の方が少ないという感じでした。色々思うところはあるものの、全体的にイベントとしてうまくまとまっていた印象です。チケットの料金は2500円+ワンドリと比較的高額設定だったものの、場所や演出の凝り方を考えるとやむを得ないかなぁという感じです。Toreruさんは、今後もこういう方向で行くのかな?まっ流行る理由は分かりました。

<レポート>

 

(1)画像商標対決(出演:中村先生)

 「実際に出題された商標画像1つに対し、最も似ている画像を見つけてくる(制限時間10分)。特許庁の審査官が似ていると判断した画像が含まれていれば勝利。(公式より)」

 まずは、中村先生が素晴らしかった。制限時間内にちゃっと正解を拾ってくるということで、あれを外してたらイベントの盛り上がり大分違いましたよね。さて、それはそうとAI側のアプローチです。AI側のアプローチは、課題の画像から候補画像を絞って、エンジニアの方がその中から正解を選べるかというアプローチを取っていました。解説の土野先生も指摘されていましたが、このエンジニアによる選別(敢えて宮崎先生はアドバイスしない)の場面で迷ってしまい、正解にたどり着けなかったようです。候補画像の画像の中に正解の画像は(多分)含まれていたと思うので、実は最終的な絞り込みさえできていれば、AI側の圧勝で終わっていたというような話があったりします。逆に言えば、最終的な絞り込みは人間が行うことを前提として設計されているようですので、その点、使いにくいかも知れませんね(まぁ精度出せてないんでしょう)。ただし、候補の絞り込みまでは非常に早く、多分正解も拾えてるので一次スクリーニングには十分耐えているのかなという印象でした。

 結果:中村先生勝利

(2)類否判断対決(出演:瀬戸先生)

 「実際に出題された商標2つ提示し、それが似ているかどうか(類否)を判断する。(お題10問、制限時間10問)

 まずは、会場参加型にしたの大成功でしたね。非常に盛り上がっていました。

 本題に入ると、こちらのお題は、1問1分ということで弁理士側は、ほぼ直感で答えざるを得なかったと思います。なので、弁理士側がある程度時間をかけられる状況(類似商標や判例の確認ができれば)であれば、正答率は結構変わったでしょう。この状況であれば、一般的な弁理士であっても、商標弁理士であっても、弁理士でなくても、結果にそこまでの差は出ないでしょう(結果を知っていれば別ですが)。

 なお、AI側は、(多分)称呼のみで類否判断を行っているということでした。

 結果は、瀬戸先生が7問正解に対して、AI側が6問正解ということで、弁理士側の勝利ということでした。なお、宮崎先生いわく、大体精度は60%という話でしたので、AI側としては十分満足のいく結果と言うことでした。まあ、十分な精度でしょうね。周りの席の方(弁理士を含む)も大体5~7問くらいの正解の方が多く、基本的には人の判断(直感レベル)と同レベルの精度は出ているという印象を受けました。単に担当者がこの商標通るか分かりませんと進言するよりも、AIのスコアでも持って行って通るかわからないと進言した方が効果的と言うような使い方はあるかもしれません。

(3)識別力対決(出演:岡村先生)

 「実際に出題された商標とその商品・サービスを提示し、特徴があるかどうか(識別力)を判断する。(お題10問、制限時間10分)」

 これはもはやカオスでしたね。制限時間が少ないのも相まって、自身があった人は、ほとんどいないんじゃないですかね。なお、今回の「正解」はあくまでも、ファーストアクションで拒絶理由通知が来るかどうかということらしく、最終的に商標登録が認められたかという話ではないようでした。解説の土野先生も指摘されていましたが、この点も弁理士としてはやりずらい理由ではあったかと思います。

 

<雑感>

 

 一次スクリーニング用のサポートツールとしては、十分機能するという印象を持ちました。実際このツールをどう使うかはtoreruさん次第ですが割とアドバンテージになる気がします(使い方はかなり難しいですが)。少なくとも商標出願業務自体は、差別化が相当難しいですからね。あとデモンストレーションとしては、普通に使えますね。

 以下、気になった点を2つ。どこまで汎用的に使えるのかな?という話です。

 ①お題自体が元ネタは実際の出願なので、トレーニングデータに含まれているような気がする。とすればバイアス若干かかっている気がしなくもない。②出題が25類に偏っていた。類によっては精度出ないとかあったりするのでは?と思わなくもない。まあいずれも誤差レベルだとは思いますが、、、、

 

*記事に間違えがあれば修正するので、お気軽にお知らせください。聞き間違えとか。

ゲーム(e-sports)事業化への道

 

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1.はじめに

 

 昔、昔、AOE(Age of Empires)というゲームがありました。当時、IRCというチャットソフトを使って、10~20代の熱狂的なゲーマー達は、日々しのぎを削ってお互いの腕を磨いていました。そんな中、当時、ハンドルネーム「Halen」という10代の若者は日本代表として世界大会を勝ち抜き(結果的に二連覇)、多額の賞金を獲得しました。まだ、「プロゲーマー」という言葉がほとんどなかった時代の話です。

*念のため、私は別に「Halen」ではなく、彼と同年代の凡庸なプレイヤーです。

 

 はい、という訳で今日から少しづつゲームネタを入れていきたいと思います。上述の通り、私は元AOE(AOC)プレイヤーの端くれでした。それでもそれなりのリソースをかけてプレイしてきたこともあり、当時の仲間の中には、いまだにつながりのある人もいたりします。中々馬鹿になりませんね。プレイヤーとしてのレベルはともかく、少なくとも「ゲームを生活の糧にする」、「ゲームを事業として成立させる」という点については、結構色々と考えてきたので、その観点で少し話をしようかと思います。

*ゲーム以外にもストリートダンス(ハウスダンス)を続けているので、ダンスの事業化(職業化)という観点も少し入っています。

 

2.プロゲーマーってどんな人たち?

 

 そもそもゲームで金を稼ぐということがイメージできない人のために、基本的なプロゲーマーの収入源を少し説明します。

 (1)関係会社の社員

  典型的には、ゲーム雑誌を取り扱う社員やゲーム会社の社員等です。例えば、「高橋名人」なんかが有名でしょうか。現在の感覚で言えば、「プロ」とは言えないでしょうが、今でも大会上位層の結構の割合がこのタイプだと思います。やはり生活が安定します。また、会社によっては、大会への参加費用や練習に割く時間を考慮した対応をしてくれる場合も増えてきているようです。

  ちなみに、上述の「Halen」氏も、(現在も所属しているかは知りませんが)4Gammerに就職したようでした。当時は、完全なプロプレイヤーは相当なリスクですからね。格闘ゲームであれば、当時でもそれなりの仕組みが整っていたのに対して、AOEのようなRTS(Real Time Strategy)ではまだまだ先行きが不安定ということもあったと思います。

 (2)スポンサー契約を行った個人

  本来的な意味でのプロゲーマーは、こちらです。完全に個人としてスポンサー契約をして活動する選手もいれば、例えば、マネージメント会社に所属して活動をするような選手もいます。また、最近では、企業やチームとしてリスクヘッジを行い、選手には毎月固定のサラリーが支払われるようなケースも大分増えてきました。

 

3.近年のゲームを取り巻く環境の変化

 

 私がAOEをプレイしていた当初(約20年前)と比較して、ゲーム(e-sports)を取り巻く環境は大きく変わりました。

 (1)社会的知名度の増加

  これにより、スポンサー参加企業が圧倒的に増えました。最近では、LOL(リーグオブレジェンド)やシャドーバース(収益の分配方式については未確認)のように参加チームを固定してリーグ戦を行うようなモデル(戦績に応じて分配金が支払われる)も増えてきています。このようなスタイルは、通常のプロスポーツの成功例に習い今後も増えていくのは間違いないでしょう。

 (2)Youtubeの浸透

  別にYoutubeに限った話でもありませんが、動画配信を行いそれにより収益を上げる枠組みは、従来は全くないものでした。これは、非常に大きな変化です。大会賞金等とは別に、選手個人が個別の情報発信チャンネルを持ち、さらにそこから収益を得ることができるという意味において、選手の新たな収益源となり得ます。

  また、例えば、ソーシャルゲームやMMOなど競技性の低いゲームであっても収益の可能性を開いたという意味においても、非常に大きい変化だと思います。

 (3)特に若い世代への人気(社会的地位の向上)

  今年もTGS(東京ゲームショウ)に視察(遊び)に行ったわけですが、近年、明らかな変化があります。それは、専門学校や大学の参加数の増加です。勿論、普通にゲームを作るという観点の大学がまだまだ多いですが、プレイヤーの育成を掲げる学校が増えてきているのは確かです。これは、将来的な競技人口を増やすという意味でも有効ですが、引退選手の生活の糧を増やすという意味でも有効です。e-sportsにおいても、引退後の選手のセカンドキャリアの問題は当然生じる話ですから講師になることで生活を安定させることができれば、だいぶ違いますね。今後は、例えば、個人トレーナーとか様々なスタイルが出てくると思います。

 

4.ゲームの特性と事業化への方向性

 

 このように長い年月をかけて、事業化に向けた下準備がやっと整いつつある状況です。しかしe-sportsには、通常のスポーツ等と決定的に異なる点があります。それが、タイトル毎に市場が細分化しており、また新規タイトルが出るごとに新たなタイトルでプレイしなければならないという点です。つまり、通常のスポーツのように固定されたルールの下で長い期間共通してプレイするという環境ではないんですね。また、スポンサーのつき方によって、業界の体制や環境が大きく変わってしまうというような問題もあります。これはプレイヤー側にとっても勿論問題なのですが、事業化(収益化)という観点でも大きな問題となり得ます。

 そこで、e-sportsのタイトルを少しマクロ的な観点で捉えてみたいと思います。例えば、ゲーム(特にe-sportsタイトル)を捉える際に、「技能的要素が強いか、技術的要素が強いか」、「結果の偶然性が高いか、低いか」という二軸で捉えてみるのはどうでしょうか。分かる訳ないですね。詳しく説明します。

 

 (1)技能的要素が強いか、技術的要素が強いか

  一応、一般的な技術と技能の言葉の意味合いで考えているのですが、簡単に言えば、技術は具体的な手段であり言語化や文章化することで比較的容易に伝えることができるものです。

  例えば、カードゲーム等で戦略を練ったり、デッキを構築したりという理論や方法論は、初めてそれを開発する人間にとっては膨大な労力がかかるものの、一度構築された戦略やデッキ編成を容易に伝達することができます。

  他方、技能とは、繰り返し実行することにより経験的に身につくもので、他人への伝達が極めて難しいものです。

  例えば、格闘ゲーム等においても、当然、方法論や戦術論は存在すると思うのですが、そもそも実際に特定のタイミングでミスをせずにコンボを決めたり、コンマミリ秒の単位で正確に操作を行うというようなスキルは、反復練習以外に身に着ける術はありません

  このような違いは、新規プレイヤーが参入するモチベーションや新規参入したプレイヤーが上位プレイヤーに何を望むのかといった点に大きな影響を与えると思います。

 (2)偶然性が高いか、低いか

  これは競技自体のランダム性が高いか低いかという観点です。

  例えば、カードゲームであれば、デッキ構築によりある程度調整はできるにせよ、山札からのドローは基本的に確率論の世界です。そのため、どんな上位プレイヤーであっても、100%の確率で勝てるという話ではなく、あくまでも長期的な勝率の差がプレイヤースキルの差を反映させることになります。その意味では、例えば、麻雀等の方がイメージしやすいでしょうか。

  一方で、例えば、私のプレイしていたRTSにおいては、長期的な序列の入れ替わりはあるにせよ、その時点における結果は、何度対戦を行ってもそれほど大きく変わりません。要は番狂わせというものが非常に起きにくいというイメージです。

  私は、FPSをあまりプレイしないのですが、ゲームの性質を考えると、FPSもこのような傾向は強いのではないでしょうか。実力通りに結果が出るというと一見よさそうにも思うかもしれませんが、番狂わせの少ないゲームというのは見ていてあまり面白いものではありません。結果が初めから分かってしまうのですから。

 

  まとめるとこのような感じでしょうか。正直、分類分け自体にはあまり意味がないのですが、事業化に向けた戦略を考えていたら体系化できそうだったのでまとめてみました。なお、格闘ゲームについて違和感がある人がいるかもしれませんが、起き上がりからの三択に対して、うまくコンボ決めれば逃げ切れるというような感じで、素人が玄人に勝てることはまずありませんが、上位層同士の対戦では、ある程度結果が偶然性で変わるという印象があります。これはゲーム設計上敢えてこのようにしているのでしょうし(タイトルにより差はあるが)、このような偶然性があるからこそ、格闘ゲームは早くからe-sportsとして習熟したのではないかと思います。まあ格闘ゲームはほとんどやらないので、間違っていたらすいません。

 

  さて、ちょいちょいツイッターで流れてくるe-sportsの話題に乗って書いてみました。これでまだ前提ですね。次回以降は、この種別(やタイトル)特有の事情を考慮して事業化に向けた取り組みを少し検討したいと思います。

 

  建前:ゲーム業界に精通していることが分かればゲーム会社からの依頼が来るかもしれない(仕事のうち)。

  本音:知財飽きてきたなぁ。e-sportsの事業でも本格的にやろうかなぁ、、、

  最後に、一応、参考になりそうなHPをいくつか張っておきます。景表法とか法律がらみのところはどこかで別に検討したいなぁと思っています。

note.mu

shori.link

www.4gamer.net

*操作をミスって記事を消しちゃいました。再投稿です。特にせっかくブクマやお気に入りをいただいた方すいません。

退職エントリと現在の状況

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<退職エントリ>

 

 現職の引継ぎも概ね終わり、10月3日をもって3年8ヵ月ほど在籍した正林国際特許商標事務所を退職しました(正式な退職日10月31日)。長いような短いような、7年前に体を壊して研究職を辞めた時は、本当に空が青く見えたもんですが、今回は至って平常運転です。知財業界は平和でいいもんです(スキルや経験が当たり前に金になるって実はすごい恵まれたこと)。

 色々と思うところはあるものの、基本的には円満退職です(内部事情を知りたい方は何処かで飲みにでも誘ってくださいw)。正林国際特許商標事務所では、弁理士としての基本的なスキル(明細書や中間処理等)は勿論、「AI・データ契約ガイドライン」をはじめ色々な経験をさせてもらいました。スキルを学ぶという意味では、これ以上ない職場だったと思います。

 思い起こせば、つい7年前まで、知財の「知」の字も知らなかった人間が、たった6~7年で知財業界の最前線で仕事をしているのですから、本当に人生は面白いもんです(しかも、専門だった神経科学ではなく、CS(コンピュータサイエンス)を専門にして)。

 ここからは、大きな組織を離れてビジネスの現場に本格参入していく訳ですが、どうなることやら、、、まあ楽しみではあるのですが。

 

<現在の状況>

 

 基本的には久しぶりの無職生活を満喫している訳ですが、一応働かないとマンションを追い出されてしまう(奥さんに怒られ・・・)ので、ちょいちょい働いています。

(1)執筆作業:エンジニア向けの知財の解説本のようなものを出版予定です。共同執筆者含めて3人で執筆中なのですが、1月の出版?に向けて鋭意執筆中です。

(2)本業:11月から開始予定の顧問先が若干あります。という訳で、一応、本業も稼働しています(他にもご依頼お待ちしてますよ!)。

(3)新事務所の立ち上げ準備:11月の本格稼働に向けて、準備を進めています。現時点でコアメンバー4人?の共同経営のような形になる予定です。別に情報を敢えて伏せているという訳ではないのですが、共同経営者(予定)があまり情報を出していないので、取り敢えず秘密裏(?)に動いています。

(4)ブログ:何だかんだ結構記事をアップしているためか、アクセスも頂いているようです。グーグル辺りで収益化するのか、事務所の宣伝と割り切ってそのままにするか、現在検討中です。取り敢えず、暇なうちは結構記事は上げると思います。リクエスト等あれば、是非ツイッターやコメント等でお知らせください。

 

 最後にリアルで知り合いの方も、そうでない方も、今後ともよろしくお願いします。