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一から始める知財戦略

知的財産全般について言及します。

日本知財学会(年次学術研究発表会)雑感

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1.はじめに

 さて、日本知財学会の年次学術研究発表会(12月7日、8日)に参加してしてきましたので雑感をブログに残しておこうと思います。私は、現在、知財学会の会員ではないのですが、たまたまツイッターで見かけて弁理士が会員価格で参加できるなら行こうかなぁぐらいの軽いノリで、急遽、参加させていただくことにしました。

 参加費が会員価格(日本弁理士会所属のため)+懇談会で合計8000円とノリで申し込むにはそれなりの金額の学会でしたが、結果的にはいい刺激となり大満足の学会となりました。私は、諸般の事情により12月7日のみの参加だったのですが、8日も出たかったなぁと思うと同時に、来年は予定を取ってきちんと参加しようかなという気になりました。

 

2.参加したセッション

(1)経営デザイン分科会セッション

 少しツイートをしましたが、やはり経営デザインシートは面白いです。

 実は、前職で間接的にいくつか経営デザインシートに関わっていたのですが、詳細についてはあまり意識していませんでした。これ自体が非常に利用しやすいもの担っていると思いますが、やはり経営デザインシートの知財版(鮫島先生が少し言及していましたが)を作りたいですね。近いうちに簡易的なものを作成して、どんどん事務所の業務に使っていきたいと思います。余談ですが、一応、分科会のメンバー登録はさせてもらいました。

(2)シンポジウム

 こちらも非常に興味深い内容で楽しませてもらいました。

 特に印象的だったのが、大学発ベンチャーの話題が全体として非常に多く議論されていたという点です。やはり大学発ベンチャーの育成は経済的な観点は勿論、大学の人材を活かすという意味でも、大学運営にとって非常に重要なファクターになっているという点を改めて実感しました。

 私も、博士課程時代の同僚や友人に会うたびに「スタートアップはいいよー。転職(若しくは起業)したら?」と唆してみるものの、東大や東工大以外の大学では、まだまだこのような流れは少数派なので他の大学にもこのような流れをどんどん普及させていきたいとひそかに企んでいます。

(3)一般発表

 上で述べた通り、12月7日(土)のみの参加になってしまったのですが、興味のある発表をいくつか聴講させていただきました。皆さん、かなり熱量の必要なテーマを発表されており、忙しい中大変だっただろうなぁ、勝手な心配をしていました。

 発表された皆さん、本当にお疲れ様でした。非常に楽しませていただきました。

 

3.まとめと告知

 知財学会の雑感ということで、あまり内容のないブログで恐縮なのですが、上で述べた通り、個人的に非常に実りのある学会であり、数多くの知見を頂きました。取り合えず、来年も参加は確定ですw

 最後に一点、告知させてください。

 「SB C&S株式会社様」主催のイベント(1月29日)において、「ビジネス領域におけるAI関連の知的財産権について」というタイトルで登壇させていただくことになりました。

 知財学会のシンポジウムでも簡単に話題に上がっていましたが、まだまだAI関連の特許で困っている方はいそうなので、AI関連の領域における知財戦略の基本的な考え方や方法論について、現時点の私なりの見解についてお話ししようかと思っています。無料ということですので、興味がある方は是非お気軽にお越しください。

 また、同時に研究者・エンジニア向けのセミナーも開催されるようですので、ご興味がある方はこちらも参加いただければと思います。

sbb.smktg.jp

sbb.smktg.jp

 

 

初めての特許出願(発明の発掘から明細書の作成)

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1.はじめに

 さて、何だかんだとブログの更新をサボっていたら、あっという間に2週間近く経ってしまいました。私のブログを楽しみにしてくださる方は、まぁほとんどいないと思いますが、申し訳ありません。主な理由は、本業にかまけていたというだけなのですが、書籍やコラムの依頼との関係で、今後、ブログの内容をそれなりに限定しなければならなくなりそうです。そういう意味で、本日の記事もどうしようかと思っていたのですが、大した話でもないのでアップしてしまうことにします。

 普段、私が考えている明細書を作成するまでのプロセスの説明やその切り分けの理解です。私の場合、このような切り分けをするのは自分の仕事の仕方というよりは、「(事情により)仕事のお願いをする場合」や「他の弁理士の評価が必要な場合」に評価と言う観点でこれを利用します。つまり、どのようなフェイズの仕事を普段行っているかによってその弁理士の得意な領域を判断しています。まぁ業界の方であれば、皆さん割と近い考え方はしていると思います。

 

2.プロセス

(1)発明の発掘・抽出を行う

 一言で言えば、出来上がった技術(製品)やアイデアから特許法上の発明になり得るポイントを抽出し、特許法上の発明として再構築する過程です。例えば、ある会社が新規のソフトウェアAを開発したとします。通常、企業が新しい製品を開発する場合には、様々なアイデアや工夫が混在することが一般的です。

 また例えば、ソフトウェアAにおいては、目玉となる新機能Xが存在しますし、ユーザに直感的な操作を実現するための特徴的なアイコンY、そして多数のユーザのからのアクセスを効率的に処理する演算処理の工夫Zが存在するとします。このような機能や工夫は、全て異なる観点よりなされた発明と考えられ、特許権を取得できる可能性があります。

 つまり、一つの製品等を開発した場合であっても、その中に埋め込まれた工夫のうちどのようなポイントが特許法上の発明に該当するのか、また抽出した発明をどのような観点として再構成して特許出願を行うのかというようなプロセスになります。

 簡単に言えば、請求項1の骨格を作るのが得意な方というイメージです。大手企業の知財担当者等にとっては、最も重要な仕事のうちの一つと言えるかもしれません。なお、知財部の方が作った請求項のイメージを具体的に言語化(ブラッシュアップ)を行うのは特許事務所であることが多いので、ここはどちらかと言えばその前段階の作業というイメージです。

 

(2)明細書の構成を考える

 上で作成した発明の骨格に基づいて、「明細書全体としてどのような説明を行うのか」、「どの程度厚く記載を行うのか(例えば、情報量は十分か、実験データを追加する必要はないか)」と言った検討を行うプロセスです。一部企業側の担当者が行う場合もあるのですが、特許事務所の技術担当者にとって最も重要な仕事の一つと言えます。どの程度の記載を行うかどうかの判断は時代とともに変化するものですし、法律的な思想も不可欠です。そのような意味でも、技術的な専門性や特許実務経験(実務感覚)が必要となります。イメージとしては、全ての請求項を作成し、図面案を確定させるまでの作業イメージになるでしょうか。ここで、明細書全体の方向性や、骨格がある程度定まることになります。

 

(3)仕上げ  

 上で確定された明細書全体のデザインに基づいて、文章等を作成するプロセスになります。技術分野毎にある程度利用頻度の高い記載や表現もありますし、企業や事務所によって統一したフォーマットや表現を有している場合もあります。そのような意味では、自動化や効率化が求められる領域とも言えるかもしれませんが、実際に誤字脱字(特に符号とか)を減らしたり、てにをはを修正したりという作業も慣れていないと結構しんどいです。間違いなく、一つのスキルと言える領域です。

3.最後に

 以上、明細書を作成するプロセスについて簡単に説明してみましたがどうでしたかね。面白いかどうかはともかく内容は非常に重要ですので、多分どこかで改良した内容は発表することになると思います。まぁこのような切り分けは、あくまでも一例なのですが、重要なことは、①製品や技術=発明(特許権)ではないということ②明細書を作成するプロセスにはある程度の段階が存在して夫々に得意不得意がある(技術分野以外にも)、ということです。覚えておくと何かいいことがあるかもしれません。

 さて、12月に入りサイレントで進めていた新事務所作りもなんとか佳境に入り、もう少しでHP等を公開することができそうです。また、アドベントカレンダーの準備も着々と進めてはいます。こちらは、前職の同僚を巻き込んで簡単な企画をやろうと思うので、興味がある方は、是非、ご覧ください。それではまた。

AI関連発明のシンポジウム雑感

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 久々のシンポジウムということで、「国際特許審査実務シンポジウム―AI関連発明のグローバルな権利取得に向けて―」に参加してきました。  まぁ例のごとくのAIネタですが、昨年の事例集あたりから特許庁も本腰を入れてきている感じですね。他国もやはり同様のようで、各国の審査については、ある程度共通の見解が確立されてきたのかなという印象は持ちました。

 割と話題になった学習済みモデルのクレームですが、やはり日本以外は中々難しそうですね。プログラムも各国万能とは言えませんし、やはり情報処理装置(デバイス)記載が安定かな。質問としても出ていましたが権利行使の時にどうなるかも分かりませんからね。

 いずれにせよ、明細書の中をある程度固めておけば、修正である程度対応できるレベルだとは思うので、結局は、明細書にどこまできちんと記載を行うかという話になりそうです。少なくとも、細かいロジックの部分で特許権を取得したいのであれば、従来のソフトウェアの明細書よりは若干詳細は必要になると思うのですが、実際どの程度の記載で内部ロジックのクレームを認めるかについては、審査官によってもかなり幅がありそうという印象です。個人的には、内部ロジックの特許権は原則あまり勧めない方向で対応するので、大きな変化はありませんが、出願する場合には、悩ましいですね。  また、今回は、通常の本会場とは別にサテライト会場と言うものが用意されていました。私はサテライト会場で聴講していたのですが、作業スペースは確保できるし、イスは座り易いし、非常に快適でした(ただし、日本語のみ+質問不可)。

 ただし、特許庁主催のシンポジウムなので当然といえば当然なのですが、やはり(企業を含む)実務的な話についてはほとんどありませんでした。実際、AIの場合は、応用領域でこそ知財が活きるのは明らかですし、色々考えなければならないことがありますね。一応、1月末にセミナーをAIネタで講演をする機会を頂けるようなので、そこで少し実務的な方法論や戦略論についての新しいネタを披露できればなぁと思っています。取り敢えず、今日はこの辺で。

 

 

書籍紹介(ビットコインとブロックチェーン:暗号通貨を支える技術)

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1.はじめに

 今回は、新しい企画です。知人に書籍レビューみたいなものをやってはどうか、という提案を受けていましたので、その提案に乗っかる形になります。

 

ビットコインとブロックチェーン:暗号通貨を支える技術

アンドレアス・M・アントノプロス(著)今井崇也(翻訳)鳩貝敦一郎(翻訳)

Amazonリンク

 

 ご紹介するのはこちらの書籍です。昨年の今頃からブロックチェーンの勉強を本格的にしようかなぁと思い購入していたものの、読むのを先延ばしにしてしまっていた書籍です。分量的にも内容的にも専門外の人間が業務外で読むには結構厳しいかなぁという気はしますが、退職を良い事に一気に読破しました。

 

2.内容詳細

 所要時間:約20~30時間程度

 ターゲット:大学院生~エンジニア初級

 満足度:4.5/5

 感想:良くも悪くも「ビットコイン」に関連する内容が記載されている書籍でした。ビットコインの歴史から実装に至るまで十分に記載が充実しており、圧倒的に理解が進みました。多くの方がレビューしているように(技術的な)基本を押さえる上での必読書という位置づけかと思います。また、簡易なコードで例が示されていたり、ビットコインシステムの実装や応用についての記載が含まれていたりと、完全な理論というよりは実装を意識した記載になっている気がします。

 ただ、あくまでも技術書という位置づけのため、知財関係者を含めた専門外の人間にとっては不要な知識も結構あるかもしれません。正直、通常の知財関係者であれば前半1章~2章の部分だけでも十分なように思います。そのような場合は、簡易版も発売されているようですから、そちらでも良いかもしれません。

 また、冒頭で記載したように、この書籍はあくまでも「ビットコイン」に特化した内容になっているため、例えば、単純にブロックチェーン技術や分散型システムの応用や実装、近年むしろ重要な「イーサリアム」等については、別途、補足が必要かなと感じました。私自身も、そこら辺についてはもう少し知識を補完していく予定です。

 

3.まとめ

 初めての企画でしたが、どうですかね。好評であればまたこのようなテーマを採用したいと思います(私の本を読むスピードが追いつくかどうかは分かりませんが)。取り合えず、今日はこの辺で。

 

「先行技術調査と権利侵害調査」の違い

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1.はじめに

 皆さま、お気づきのことかとは思いますが、ブログの更新頻度が下がっていますw

 理由は当然、新規事務所の立ち上げのため色々と奔走している訳ですが、少しづつ仕事が入ってきていることもあり、中々思うように作業が進みません。正式に公開できるのはやはり12月になりそうです。一から何かを始めるというのはやはり色々と大変ですね。

 さて、それは言っても一つ面白いネタを見つけたので、気合を入れてブログを書くことにします。テーマはずばり「先行技術調査と権利侵害調査」の違いです。実は、これ私がつけた題目ではなく検索技術者検定という試験の過去問題です。ネットで論点まで公表されていたので、面白そうなので、実務的な観点も踏まえて検討をしてみることにします。

www.jstage.jst.go.jp

 

2.問題

 具体的な問題は以下の通りです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 出願前の先行技術調査と権利侵害調査について以下の問いに答えなさい。

 それぞれの調査目的を違いがわかるように説明しなさい。

 それぞれの調査において,検索式を作成する場合の注意点を違いが分かるように説明しなさい。説明には「再現率」,「適合率」の用語を必ず用いなさい。

 「再現率」,「適合率」の意味を説明しなさい。

 それぞれの調査において,作成した集合をスクリーニングする際の注意点を違いが分かるように説明しなさい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ぱっと見で、めちゃくちゃいい問題ですね。数学的な知識と特許の知識いずれもある程度見ることができますし、必要な項目を論理的に説明できるかどうかを問う点も良いですね。さて、これを即答できる実務家(サーチャー)はどのくらい居るでしょうかね(笑)。

 ちなみに再現率と適合率の意味自体はすぐにイメージできましたが、用語自体は知りませんでした。もしかしたら、大学院の講義でやっていそうな気はするけど、どうでしょうね。

 

3.解答

 これに対して、解答例がこちらです。

<ポイント1>

 例えば,以下の内容について,それぞれの違いが説明されていること。

・出願前の先行技術調査の目的は,完成した発明の特許性の有無を評価することである。

・権利侵害調査の目的は,事業実施に先駆けて他社権利の侵害の有無を確認することである。

 

<ポイント2>

 例えば,以下の内容について,それぞれの検索式作成時の注意点が説明されていること。

・出願前の先行技術調査は,その調査目的に鑑みて調査効率を重視する必要がある。そのため,適合率を上げる工夫が必要となる。したがって,むやみに調査範囲を広げるのではなく,発明を構成する要素を限定して検索範囲を絞るような検索式にする

・出願前の先行技術調査では,生死の状況にかかわらず,特許を調査対象とする。

・出願前の先行技術調査では,調査期間(遡及期間)は原則として限定しない。

・権利侵害調査は,他社の特許について漏れを生じさせないよう,再現率を上げる工夫が必要となる。したがって,多少のノイズが含まれるとしても検索条件を広めに設定する。

⇒(コメント)理屈としては、この通り実際に再現率を上げる工夫は、それこそケースバイケースですね。また結局、真値は不明ですから料金や調査範囲との関係も重要です。割とスキルの差が出やすいかもしれませんね。

・権利侵害調査では,公知技術の範囲まで広げる必要はなく,実施内容のうち権利侵害の対象となる観点を明確にしておく必要がある。

⇒(コメント)実務上一番問題になる部分ですね。調査結果は、あくまでも対象の観点についての結果であるという点は、十分に理解する必要があるし、(クライアント等に対して)理解させる必要がある部分です。

・権利侵害調査では,調査実行時において生存している特許を調査対象とする。

・権利侵害調査の調査期間(遡及期間)は,原則として権利存続期間(日本特許では出願から20年)とする。

⇒(コメント)ここら辺は当たり前ですね。弁理士やサーチャーでなくても最低限把握しておいてほしいところです。

 

<ポイント3>

 例えば,以下の内容について説明されていること。

再現率とは,検索対象集合の中にある適合レコードをどのくらい検索することができたかという比率である

適合率は精度ともいい,ヒットした回答集合の中に適合レコードがどのくらい入っていたかという比率である

⇒(コメント)権利侵害調査において、結局、真値はわかりませんから中々難しいところですね。興味がある方は、別途、勉強してみてもいいかもしれません。

<ポイント4>

 例えば,以下の内容について,それぞれの違いが説明されていること

・出願前の先行技術調査では,全文を対象にスクリーニングを行う。

・出願前の先行技術調査では,当該発明と同一の内容が開示されている文献が1件でも見つかればそれ以上調査を続行する必要はない

⇒(コメント)まあその通りなのですが、実務的には「完全に同一の内容」が開示されるということは考えにくいですし、上述の観点は絶対的なものではなく、違う観点として検討するということも当然あり得ます。なので、実際的には、調査したほうが良いと思います。

・権利侵害調査では,特許権である特許請求の範囲を重点的に確認する。

⇒(コメント)まあ重点的にとあるから良いのかもしれませんが、将来的に請求項に上がる可能性があり得れば全て確認したいところです。分割等についての知識も必要ですし、データベースへの登録漏れ等のリスクも考慮したいところです。

・権利侵害調査では,権利侵害の危険がありそうな特許は漏れなく確認する必要があるので,回答集合は全てスクリーニングを行う。

 

このような論点を問うていたようです。あくまで試験的な発想で捉えなければいけない部分もありつつ、概ね妥当な論点かと思います。

 

4.最後に

 どうでしたかね。こんな良問が出るなら検索技術者検定を受けてみてもいいかもしれない(実は知りませんでした)。

 また、気が付いている方も多いと思いますが、プロフィールにイラストを追加しました。ココナラで頼んだのですが、非常に良く特徴を捉えていただいており、とても気に入っています。

 最後に告知です。ツイッターで話題になっていた「裏」法務系アドベントカレンダーという企画に参加させていただくことになりました。やっぱ法務の方は色々と勢いがあっていいなぁと思いつつ、せっかくだし面白いことをやろうと画策しています。それではまた。

特許・情報フェア2019 雑感

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1.はじめに

 

 さて、今年もこの季節がやってきました。「特許・情報フェア」です。

 知財関係者と言えば、典型的には特許事務所で明細書を書いている弁理士や特許技術者をイメージする人が最も多いと思います。しかし、実は知財と言っても幅広く、特許庁で働く職員の方々や企業の知財部に所属している方も、もちろん知財関係者です。

 この特許・情報フェアは、主として特許の管理ツールや調査ツールを販売する企業等が出展するイベントであり、特許庁の関係者や企業の知財部のような特許の調査や管理を主とする業務を行っている知財関係者にとって、最も大きなイベントの一つです。

 私自身は、これらの業務をそれほど行っているわけではないのですが、前職の特許事務所が毎年ブースを出展していることもあり、毎年、参加させてもらっています。今年も、なんとか11月6日(初日)に会場に行って、一通り見て回ることができました。

2.全体について

 

 例年同様、大盛況でした、と言いたいところですが、昨年に比べると比較的会場内の移動がしやすかったように思います。気になって、来場者の比較をすると、初日に関して言えば昨年が6103人に対して、今年が5441人ということで若干少なかったようです(まぁ昨年は初日に参加したわけではないのですが)。

 そして、それ以上に明らかに感じるのが、出展者の減少です。特に海外からの出展者は明らかに

 

勢いがなくなったというとそういう訳でもないと思うのですが、、、、どうでしょう。

 その一方で目立ったのは、新規の出展企業の参入です。特にAI絡みの調査ツールを主力にした企業の参加が非常に増えていると感じました。まぁ正確に数えたわけではないので、あくまでも「印象」です。来年以降も、増えていく気はしますね。ただ、いずれのツールも調査目的のツールがほとんどで、明細書の自動作成に踏み込んだツールはあまりないですね。実用までのハードルは圧倒的に多いし、まぁ仕方がないのかな。

 そして、個人的に気になったのは、やはり「Shareresearch(日立)」のDerwent World Patents Index(DWPI,クラリベイト アナリティクス ジャパン)の閲覧サービスです。今となっては、私自身が「Shareresearch」使うのは費用的に難しいですが、使用した方は是非使用感を聞かせてください。

3.雑感

 

 今年は、実名でツイッターを始めたこともあり、例年以上に楽しむことができました。知財業界は、本当に狭い業界ですからこのようなイベント自体が同窓会のような心地よさがあります。まぁそれが業界としていいのかどうかは分かりませんが、、、

 いずれにせよ、会場でお会いできた方は勿論、お会いできなかった方も今後ともよろしくお願いいたします。そして、改めてこのイベントに興味を持った方は、是非来年は参加してみてください。法律や明細書の小難しい話はありませんから、比較的参加しやすいと思います。

 なお、イベントに参加したお陰かどうかは分かりませんが、前職のツテでAI絡みのセミナーをやることになりそうです。事務所の立ち上げ準備で追われているとはいえ、何だかんだで時間はありますからいいネタを仕込みたいですね。詳細が決まったら、どこかでお伝えします。

大学における特許収益の現状と山口大学の知財への取り組み

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1.大学における特許収益

 

 知財業界に身を置いていれば、一度は聞かれたことがある質問があります。それは、結局のところ「特許(知財)は儲かるのか?」という問題です。まぁ以前の記事でも多少触れていますが、ビジネスにとって知財活動は必要です。では、特許が儲かるかと言われれば、「どうだろうなぁ」というのが正直な解答かと思います。

 一般の企業であれば、多くの場合、特許は事業防衛(市場における優位性を維持する)の目的で特許を取得するのですが、例えば、大学等においては、事情が若干異なります。大学等においては、自身が事業活動を行うことはありませんから、基本的にはライセンス等による収益が全てです。

 そのため、特許の収益性を議論する上で、大学等の収益状況というのは結構いい研究材料になります。文科省のプロジェクト等を担当していた時はかなり把握していたのですが、最近フォローできていなかったので、少し調べてみることにしました。

 

2.文科省のデータ

 

 実は、各大学の特許収入については、毎年文科省の調査の中で公表されています。

www.mext.go.jp

 中でも目を引くのが特許収入の伸びです。例えば、平成24年の特許料等収入額が約15.6億円なのに対して、平成29年が約42.9億円とされています。こちらの調査では、正確な「コスト」は分かりませんから、大学が特許でどれだけの利益を上げているのかは明確には分かりません。しかし、特許保有件数という観点で考えても、平成24年の特許保有件数の合計が約19800件に対して、平成29年でも約42000程度ですから、収入額の伸びに対してコストがそこまで大幅に増加しているとも考えにくいでしょう。

 近年の大学等における各種取り組みの成果なのは間違いないでしょう。正直、このデータは驚きました。実は平成25年に特許料等収入額が20億を超えたということは把握していたのですが、今はさらに倍ですからね。特許実務の肌感としても、大学や大学発ベンチャーの勢いを感じるのも頷けます。私が所属していた10年近く前の組織とは、今は、全く別の組織と言っても過言ではないのかもしれません。

 

3.山口大学の取り組み

 

 今回調べている中で特に目立った動きが紹介されていた山口大学の事例を紹介します。なお、私自身は山口大学の関係者と直接面識はありませんので、ご紹介する情報のソースはあくまでもネット情報です(笑)。

 

kenkyu.yamaguchi-u.ac.jp

 こちらが山口大学知的財産センターのHPのようです。ぱっと見、充実してますね。特に現場の研究者に対する教育活動や分かりやすい成果のアピールなど他の大学も見習うことが多そうですね。また、2017年12月の日刊工業新聞によれば、大幅な赤字であった山口大学は、特許出願により獲得できた外部資金(競争的資金等)を間接経費として計上し、結果として黒字であるという判断がされたようです。

 実際に、外部資金の調達にどれだけ貢献しているかはともかく、一定の貢献があるということに異論のある人は少ないでしょう。そのため、このような考え方は、他の大学は勿論、VC(ベンチャーキャピタル)から投資を受けるスタートアップ等においても、十分に妥当する手法でしょう。大学の知財については、そのうちもう少し深堀した内容の記事を書ければと思いますが、取り敢えず、本日はこのくらいで。