このエントリーをはてなブックマークに追加

一から始める知財戦略

知的財産全般について言及します。

第2回特許の鉄人 雑感

f:id:crysade:20200118123932j:plain


1.はじめに

 <前置き>

 こちらのイベントに参加させて頂きました。

tokyocultureculture.com

 基本的には知財業界の身内イベントなので恐縮です。ただ、もしたまたま、このブログにたどり着いて少しでも「知財」に興味があるという方は、次回以降も似たようなイベントが開催されると思うので、是非参加してみると面白いと思います(特に他仕業や法律関係者の方)。

 

 相変わらず大盛況と言うことで、非常に楽しませて頂きました。マクスウェル国際特許事務所の加島先生個人のオーガナイズと言うことで、何よりもそれが凄い。ツイッターのみで交流があった方々とも数多くお会いすることもできましたし、参加して、全く後悔のないイベントでした。

 

2.クレイム作成バトル

 きっと多くの方が写真付きで課題の解説等をアップすると思うので、私の方では雑感に留めます。

 ちなみに私自身は、試合中自分でクレイムを作っていたので、出場者の状況はあまり見ることができませんでした。はじめはそんなつもりはなかったのですが、作り始めると止まらないというね。仕方ない。

 第1試合:もふもふしっぽ(Qoobo

 

qoobo.info

 実際の商品が題材ということでした。面白い。「日用品」の課題と言われてこれは想像できないだろうなぁというのが正直なところですが、このもふもふクッションかわいいから仕方ないですね。

 まずクレイム作成の前提から。25分という時間は極めて短い設定です。設定している料金との兼ね合いではありますが、私の場合は、概ね半日程度を見込んでスケジュールを組んでいます。第1試合の課題は特に難しい。クレイム作成自体が難しいというよりは、発明の抽出が難しいので、発明内容の検討とヒアリングに大きな時間がとられるイメージです。当然、出場者の方々はそのようなことはできませんがw

 さて、せっかくなので試合中20分くらい検討をしていた結果を少しお話します。ツイッターで言及するのも野暮なので、一度、ツイートを削除しました(「いいね」等を頂いていた方はすいません)。

 結論から言えば、この発明はロボットではなくクッションとして捉えるべきだったのではないかというのが私の見解です。つまり、中央部のクッション部分を確保するために、端部の可動部分は一定の領域に限られており、センサの搭載されているセンサ部も一部分のみに限られているというところを掘り下げてクレイムにしたかったかなぁというのが何となくの見解です。もう少しヒアリングすればセンサの位置や種類にも工夫はありそうだし、特許を出しておいてもよかったのではないかなぁという気はします。まぁ商品は、魅力的だし、買おうか悩み中です(しかしこれ以上家にぬいぐるみを増やすのは超危険)。

 

 第2試合:にゃん宅配便

 第1試合と異なり、まあ書かなければいけない分量が多いという意味で、やはり難問。それに加えて、アマゾンの先行技術もそれなりに近しくて悩ましい。まぁ初めの想定は量のポイントだけで設定したけど、途中でアマゾン見つかっちゃって、難易度上がってしまったとかいうオチなのかなぁとか邪推をしていますがどうかな。

 まぁ試合的には位置情報の話とクレイム構成の対比というところで色がついたように見えましたが、お二人とも時間があれば同じ結論(両方をいいとこどり)にたどり着いたとは思うので、短時間の状況でどういう思考を優先するのかというところが見ものだったのかもしれません。ちなみに私は木本先生に投票したのですが、審査員票が割れたように本当に接戦でしたね。試合としては面白かったのかな、逆に。

 

3.まとめ

 会場でご挨拶させていただいた方々、イベントの関係者の方々、本当にお疲れ様でした。大変楽しませて頂きました。このような知財の裾野を広げる活動は、少しづつでも広げていきたいですね。それではまた。

スタートアップの知財支援における傾向と対策

f:id:crysade:20200112113322j:plain

1.はじめに

  今回は、久しぶりにスタートアップの知財について触れたいと思います。今までのブログでも多少触れている通り、私は、前職においてスタートアップや中小企業の知財戦略や特許出願を専門的に支援する部署に在籍していました。そのため、今でもやはりスタートアップや中小企業の方との繋がりが比較的多いです。

 ここ数年、特許庁をはじめスタートアップの知財活動を支援するための取り組みが非常に増えている状況です。このようなスタートアップ知財ブームを何とも言えない気分で眺めつつ、とは言えある程度ノウハウも蓄積していますので、少し自分なりに整理してみようという考えに至った次第です。

 とは言えスタートアップ知財と言っても、問題は多種多様です。資金力の問題や組織体系など考え始めればきりがないでしょう。そこで、今回は、いわゆる「知的財産分野の知識や経験(ノウハウ)」が少ない組織について考えてみたいと思います。その意味では、例えば、企業規模は大きくても知財に慣れていないような企業(例えば、多くの中小企業や商社)なども状況は同じと言ってしまっても問題はないでしょう。

 

2.知財ノウハウの正体

 「知財ノウハウ」がないとは結局どのようなものなのか。もっと言えば、「知財ノウハウ」がない組織とは何が問題になるのかという点です。私は、この点についての本質的な問題は、「組織的な意思決定能力の欠如」に他ならないと考えています。

 組織的な意思決定能力の欠如といっても個々の組織の状況は違います。例えば、「知財的な意思決定を行うことができる個人が存在していない組織」、「知財的な意思決定をできる個人は存在しているものの組織としてのコンセンサスを取ることが困難な組織」の2つのフェイズに分類できると考えています。

 まず、「知財的な意思決定ができる個人はいるものの組織としてのコンセンサスを取るのが困難な組織」について考えてみましょう。典型的には、組織内に有資格者(若しくはそれに準ずる人材)が少なくとも一人は存在するものの、社内全体に知財マインドは薄く、組織全体としては活動がうまく回っていないという状況を想定しています。このような組織については、まだまだ数は少ないものの優秀な方々が各組織で孤軍奮闘されているこのブログでは細かい言及は避けることにします。まぁいずれにせよ、このフェイズの組織では、意思決定の問題が致命的な問題になることは少ないと思います。

 問題は、「知財的な意思決定を行うことができる個人が存在していない組織」についてです。これは、組織内に知財的な知識を有する人材がほとんどおらず、知財(リーガル)的なリスクヘッジに対する判断が困難、あるいは多くの時間を費やす必要があるという状況にある組織です。先ほどとのバランスで考えれば、組織内に有資格者(若しくはそれに準ずる人材)が一人でもいない状況を想定しています。

 このような状況では、組織内の人間といわゆる外部専門家とのコミュニケーションエラーが往々にして起こることになります。

 例えば、明細書の記載にせよ、出願の方針にせよ、一般的な法律判断にせよ、「完璧」はあり得ません。リスクを伴う意思決定というものは常に生じることになります。このような組織において知財活動を行う場合、経営者からのトップダウンの支持がなければ、まず進むことはありません。よく考えれば当たり前ですね。相当高度な専門知識を持っていたとしても、発言力の少ないプレイヤーという状況で組織の意思決定を行う(経営者を説得する)ことは非常に困難です。

 では問題は、このような組織の経営者がどの程度のリスクを理解した上で、意思決定を行うことができるかという点です。勿論、例外というものは存在します。例えば、一定程度の知財の知見を有している場合や経営者が極めて優秀な場合です。このような例外的な経営者であれば、外部専門家からの簡単な説明のみで十分合理的な意思決定を行うことができる場合もあります。

 しかし、現実的にはそのような経営者は限られています。また、経営者は非常に多忙ですからそもそも知財活動に関与する時間が十分に確保できないこともあるでしょう。

 このような状況では、対応に当たる外部専門家はその意思決定(リスク判断)の一部を負担しなければならない状況が生じます。そして、この「形の見えないリスク負担」こそ、知財ノウハウがない組織と外部専門家が付き合う場合のやりにくさの最も本質的な原因になると考えています。

 当たり前のことだが、誠実に説明を行えば行うほど莫大な時間と労力が掛かります。また逆に説明を省略すれば、リスク判断の一部を負担することになりますから非常にリスキーです。私の経験上うまくいくのは、経営者が特定の外部専門家(例えば、私)を絶対的に信頼してくれているケースや経営者が知財は重要であり外部専門家の判断を尊重して知財活動を進めたいという明確な意思を示しているようなケースでしょうか。勿論、いずれのケースも外部専門家が誠実に標準以上の仕事を行うということが前提になりますが、現実的な落としどころはこの辺りになるのでしょう。

 つまり、外部専門家の立場として正直に言えば、スタートアップ知財の支援とは、誠実に向き合おうとすればするほど割に合わない難儀なタスクと言えるのです。昔某著名な先生に、「君たち(〇〇事務所)は、スタートアップを支援すること自体も凄いが、それを経営として成り立たせているのが本当にすごい」という趣旨の言葉を頂いたことがあります。言い換えれば、一定以上の外部専門家(弁理士)であれば、スキル的にはある程度対応は可能であるものの、採算を含めて継続的に支援を行うことが極めて難しいのです。

3.解決策の検討

 さて、このブログは別に愚痴を言うブログではありません。解決策を考えましょう。

 (1)まず一つは、経営者(組織)と外部専門家の双方が互いの信頼関係が最も重要であることを認識することなのだと思います。信頼関係があれば、意思決定を効率的に行うことができますし、問題が生じることも少ないでしょう。その意味では、スタートップ側の立場としては、結局のところ、相性のいい外部専門家と付き合うということが最優先すべき事項なのかもしれません。

 (2)もう一つは、組織内に知財的な意思決定を行う(又はそれに準ずるアドバイス)を行う人間を確保するということです。当たり前ですが、上述の有資格者を組織内に雇い入れてしまうというのが最も確実な方法です。とは言えそれも難しいという前提であれば、例えば、最近になって少しづつ増え始めていますがCIPOアドバイザーのような形で組織の利益を優先した意思決定を行ってくれる人材を確保したり、また、知財に詳しい友人にアドバイスをもらうというのも効果的だと思います。

 ただし注意しなければいけないのは、ここで言うアドバイザーは、あくまでも外部専門家とのコミュニケーションを円滑にするための存在だということです。アドバイザーが、単に組織の利益のみを主張したり、自身が組織から評価されることだけを考えるようではあまり意味がありません。

4.まとめ

 さて、久々に本気?を出してみましたが如何だったでしょうか。

 内容自体は、そこまで新しいものではありませんし、近いことを考えていた方は非常に多いように思います。スタートアップを中心に活躍されている弁理士の方々のアウトプットを拝見しても、割と似たようなことを考えている方はいそうですし、やはり前線にいる方々は似たような試行錯誤をしているんだろうなぁというのが正直な感想です。

 念のために言っておくと、別に悲観的なことを書いている訳ではないですし、スタートアップ界隈に関わるのを辞めたわけでもありません。単にスタートアップの支援には、相応の覚悟がいるというだけの話です。上の文章でも解決に向けた具体的な方法論までは言及していません。まだまだ、試行錯誤の繰り返しです。今後もブラッシュアップを続けていきますので、興味がある方はお付き合いいただければ幸いです。それではまた。

新年のご挨拶と正月休み

f:id:crysade:20200105141249j:plain


1.はじめに

 さて、正月休みも終盤です。一応、事務所は、正月休みという形を取らせていただきました。お陰様で溜まっていたテレビ番組を一気に消化することができました。取りあえずは、本日までを休みということで明日からぼちぼち仕事を始めていこうかと思います。

 

2.プライベート?の状況

 年末年始にかけて、今更ながら「スマ〇ラ」を購入しました。元々、某弁理士の方から「ポケ〇ン」を薦められたのがきっかけなのですが、結果的には「スマ〇ラ」を購入しました(笑)。

 実は私は、元々海外のPCゲーム等がプレイの中心だったこともあり、この辺りのゲームはあまりプレイしてきていませんでした。まぁ情報系の大学院に在籍していたこともあり、半強制的にプレイすることは多かったですが(笑)。

 ただ、最近YouTube等を見ていても、やはりN社のゲームは、実況との相性が良いものが多いなぁと思います。単に対戦するのではなく、楽しみながら対戦するという同社の理想が非常に良く伝わってきます。何だかんだで、今年もゲーム(esports)に関わる機会は多そうなので、少し腰を落ち着けてプレイ(研究)してみようかなと思っています。

 

3.仕事の状況

 何故か、1月が本当に忙しい・・・。

 まぁ12月からかなり準備をしていたので、そこまで詰まっているわけではないのですが、①事務所として初の特許出願、②セミナー、③執筆中の書籍の脱稿が月末に予定されています。特に③の原稿はまだまだ形になっていないので、まだまだ時間がかかりそうです。無事に原稿を上げることはできるのか、、、何とか頑張ります。

 なお、明細書のご依頼についても既に多数ご依頼を頂いておりますので、今から案件をご依頼いただいた場合、2月上旬辺りからの着手になる見込みです。ご了承いただけますと幸いです。

 

4.おわりに

 さて、昨年は本当に色々と変化の多い年となりましたが、今年はどうなることやら。

 まずは、1月の山場を何とか乗り越えなければなりません。とは言えこのような自由な仕事ぶりは個人事業主の醍醐味しょうし、一つ一つの仕事を丁寧に、クオリティ重視(自分が納得できるクオリティ)で対応していきたいと思います。それでは。

 

2019年 雑感

 

f:id:crysade:20191230125253j:plain


1.はじめに

 さて、今年も残すところあと僅かになりました。

 このブログを書くにあたり携帯の写真を見返していたのですが、写真の数が多いんですよね。今年は、久々に内容が濃く変化の多い一年になりました。結婚については、昨年度から行うことは決めていましたので、少し仕事面について振り返ってみたいと思います。

2.振り返り(前職のミッション)

 実は、あまり公表してはいなかったのですが、前職における私のミッションのうちの一つにスタートアップや中小企業向けの部門の立ち上げでした(勿論、私一人のミッションではありません)。相手にする企業のほとんどは知財部を持っていないという状況の中で、特許とはどのようなものなのか、発明とはどのようなものなのか、というようなことから説明をして理解してもらいながら知財活動へと繋げていくという仕事は、骨が折れるものの中々面白い仕事でした。

 そして、その結果として、(ありがたいことに)チームの主たる仕事は通常の特許出願や中間処理等になっていきました(笑)。その意味では、部門の立ち上げ自体は成功であり、クライアントの知財活動に対して一定の貢献はできたのではないかと思っています。

3.問題意識

 しかし、上述のようにうまく付き合いを続けて、知財活動の質を向上させることができるケースがある一方で、中々うまくいかないケースもやはりありました。その中でも、最も大きな問題の一つに「特許事務所側と企業側とのコミュニケーションエラー」というものがあると感じていました。

 勿論、経験豊富な知財担当者がいるような企業であってもこのような問題は生じるのですが、スタートアップや中小企業では特にこのような傾向が顕著です。例えば、企業側が事務所側のミスやスキルの低さに気づくことが難しいというケースもありますし、逆に無知が故に事務所側に対して常識外の要求をしてしまい特許事務所にまともに対応してもらえないというケースもあるかと思います。

 前職でのミッションも一段落付き「事務所側と企業側とのコミュニケーションエラーを減らす」という新たなミッションに挑戦したいと思い始めていたのが、ちょうど2019年の初頭頃でした。

 そのような状況の中、スタートアップに転職するかとも考えましたが、最終的には新しく事務所を立ち上げることにしたと言うのが、ここ一年の最も大きな潮流でした。

 このような問題を解決するために必要なことを色々と考えていたのですが、現時点での私なりの回答は、①企業側の知財人材の育成や②長期的な付き合いを前提としたノウハウの共有(特許事務所へ丸投げして明細書を作成するのではなく企業側も明細書作成にできる限り参加して良い明細書を作成する特許事務所側が時間をかけて企業側の技術やビジネスを勉強する)というような解決策でした。正直、まだまだ正解は分かりませんが、新事務所では、お付き合い頂ける方々とともにこのような解決策を適宜導入しながら事業活動のサポートを行なっていきたいと考えています。

4.来年の抱負

 今月16日から立ち上げた新事務所ですが、お陰様で滑り出しは非常に順調です。

 以前もお伝えした通り、事務所をそれほど大きくしていきたいわけではないものの、次の展開を考える余裕はできました。来年は以下のような目標で業務を行っていきたいと思います。

 (1)スタッフの募集

  まだ特許技術者を雇うまでは想定できていないのですが、アルバイトやインターンの学生を受け入れたいと考えています。

 (2)事務所の拡充

  スタッフの受け入れを含めて、中長期の展開を考えられる場所に事務所の移転を検討しています。どこかいい物件ありますかね、、、まぁいずれにせよ来年は、私がコア業務に専念できる環境を構築していきたいと思っています。

 (3)サービスプランの拡充

  事務所運営の目途も立ち始めましたので、少しづつ事務所本来のコンセプト(知財人材の育成やノウハウの共有)に向けたコンテンツを増やしていきたいと思います。まずは顧問契約やセミナー等で利用していく形になると思います。

 

 最後にせっかくなのでプライベートの抱負

 (1)自宅環境の整備

  どうしても自宅のスペースを占有してしまっているという状況があるため、仕事関連のもの出来るだけ整理しようと思っています。新事務所の立ち上げ以降、奥さんに迷惑をかけているので早期に対応したいと思います。

 (2)勉強時間の確保

  仕事しているとどうしても減っていきますね。昨年はブロックチェーンをある程度勉強していたのですが、今年は、知人からの要望もあり量子コンピューターでも勉強しようかと思います。まぁ機械学習にも絡みますしやっておいて損はないでしょう。

 (3)体を動かす(太らない)

  まぁ正直なんでもいいのですが、何の縁かフットサルチームを二つも掛け持ちで仕切ることになったので、フットサルを本格的に再開しようかなと思っています。練習相手は、常に募集中ですので、こちらも興味がある方は是非ご連絡ください。

 

 以上、よいお年をお過ごしください。

インタビュー企画~(後日談)~

f:id:crysade:20191225151653j:plain


1.はじめに

 先日は、裏法務アドベントカレンダーへの参加企画ということで久々に多くの方に呼んで頂けたようで、ありがとうございます。正直、他の方がかなり実務のまじめな企画が多い中、知財の企画もの(色物)ということで、若干企画趣旨からずれてしまったかなぁと反省している次第です。

 実際に、企画のために行ったインタビューは概ね2時間程度でしたので、まだまだネタは余っていますwという訳で、今日は後日談という形でインタビューの内容を再構成したいと思います。

 なお、所々、前回のブログの内容が前提となっている個所もありますので、まだご覧になっていない方は、前回のブログについても是非ご覧いただければと思います。

 

crysade.hatenablog.com

 

2.企画趣旨

 さて、元をただせばなぜこの企画をやろうと思ったか。以前から思っている業界意識として、知財業界(特に特許事務所)における人材育成の難しさというものがあったからというのが実際の所です。

 誰でもそうだと思うのですが、それなりに特許事務所に在籍をしていれば、業界に合わず業界自体を去っていく人、特許事務所ではなく企業(インハウス)を選択する人、特許事務所に在籍はしているものの中々伸び悩んでしまう人を見ることになります。

 特に特許事務所の場合は、組織の規模が小さいことが多く、「売り上げに直結するスキルがない(成長が遅い)」、「人間関係で問題が生じた」、というような場合に即退職へと繋がってしまう恐れもあります。

 前職の特許事務所は250人を超える大組織であり、部署の移動や業務の変更といったことも可能でしたので、人の入れ替わりはかなり少ないほうだったと思います。とは言え多くの特許事務所(私の現職も含め)では、そのような対応は例外的だろうと思います。そのため、研究所時代の知人やポスドクの後輩の就職相談などでも特許事務所への転職は中々進めずらいというのが正直なところでした。

 このような状況な中で、特に弁理士の資格を持たず、新しく業界に参入した方の話をゆっくりと聞きたいなということでこの企画を行った次第です。割と似たようなことを考えていた方は多いのではないかなと思います(むしろあるある?)。

 

3.雑感

 正直に言いましょう。何よりも意外だったことは、今回お呼びした二人が特許事務所への転職を後悔していないことでした。これはインタビューをしている間も肌感としても感じられました。勿論、細かいことを言えば不満は色々あるようですが(組織という意味でも業界という意味でも)、概ねそこまで不満ではないという印象でしたので、この点が私としては最も大きな驚きですw

 まぁ知財の仕事自体は、普通に面白いと思います。ですから、その点については別に意外という訳ではないのですが、やはり待遇面の問題ですね。

 アカデミア(博士課程研究員やポスドク)は、(10年近く前の私の記憶に寄れば)劣悪な労働環境ですから他の業界に移れば割とどこでも天国に見える気はします。ただ、やはり企業から転職してきた方にとってはかなり厳しい環境だろうという印象を持っていました。

 この点については、やはり前職の環境や待遇が大きく影響しているのかもしれません。通常、未経験での特許事務所への転職は30代中盤くらいの方も多いと思うのですが、20代での転職であれば給与や待遇もそれほど高くはなく違和感が少ないのかもしれません。

 

 後は、スキルや資格の面でしょうか。インタビューをした二人に共通していたのは、両者とも弁理士資格の取得を希望しており、仕事と勉強の両立を目指しているという点でした。

 その意味では、実務と勉強をバランス良くこなすことができる器用さというのが、知財業界においてかなり重要だということを意味しているのかもしれません。考えてみれば、知財の仕事は一つの分野の知識を突き詰めれば良いというものではなく、新たな技術が出ればその都度ある程度理解する必要が生じます。

 逆に言えば、知財における適正の一つに仕事と勉強を両立させる器用さというものがあるのかもしれません。まぁ私は両立があまりうまくないのですが、、、どうなんでしょうね。

 

4.終わりに

 さて、年末ですね。今年は、結婚をして、渡辺総合知的財産事務所の立ち上げをして、と中々、激動の年になりました。と言いつつ、私の中では平常運転なので、来年も面白いことができればなぁと思っています。

 皆様のおかげで新事務所も順調に回り始めていますので、近いうちに人材の採用や事務所の拡充も考えないとなぁと思っています。あまり大きな事務所にするつもりはないのですが、流石に一人では中々手が回らないというのが正直なところです。正式な告知はHPの方で行いますが、興味がある方は、ご連絡いただければ幸いです。それではまた。

HPの開設と新事務所稼働のお知らせ

 

f:id:crysade:20191217131624j:plain


1.はじめに

 ツイッター等でもお知らせした通り、2019年12月16日をもって渡辺総合知的財産事務所のHPを公開し、今後、新規の特許事務所として本格的に稼働を開始しました。

watanabe-ip.net

 特に、ツイッターでは多くの「いいね」や「リツイート」をして頂きありがとうございます。短時間とはいえ、通知が止まらないという状況は久しぶりでした。

 

 本格的に開業の準備を開始したのが11月1日ですので、概ね1カ月半程度の時間がかかったことになります。既にクローズの状況でご依頼いただいていた案件の対応をしていたということもありますが、やはり立ち上げというのは大変ですね。

 

2.事務所の方向性について

 やはり時間を作ってゆっくりと考えると見えてくるもので、

 前職を退職した時点ではあまり想定していなかったようなプランが見えてきたり、関係者に指摘されて初めて新たな問題点が見えてきたり、とはいえ逆に本質的な部分ではやはり変わらない部分もあったり、、、非常に有意義な時間でした。

 現時点で考える事務所の方向性はHPに記載の通り、長期的なお付き合いを軸とした「高品質な発明抽出(明細書作成)」や「社内人材の育成」というようなものを軸に考えています。いずれも、前職時代から孤独にトライアルを続けていた領域です。こういう働きが本当の意味で企業のためになると思うのですが、どこまで受け入れられるかなぁ。

 とは言え、クライアントの方々からのフィードバックを含めて、柔軟にブラッシュアップして行こうかなと思いますので、同業者を含めてご意見を頂ければ非常にありがたいです。

 

3.ブログの方向性について

 元々HP開設までの繋ぎで始めたブログですが、せっかくなので続けていくつもりです。

 ただし、あくまでも事務所の運営とは切り離して「個人のブログ」として知財だけでなく、趣味の話とかも含めて緩いネタにシフトして行こうかなと思っています。

 それほどプランがあるわけでもないので、コメント等でご意見いただければ、参考にさせていただきます。

 なお、現在公開中の記事については、原則、このまま公開の予定です(一部、略歴や仕事関係のものは除く)。引き続き、ご覧いただければと思います。

 

4.宣伝と告知(最後)

 (1)スポンサーの就任

 弊所(渡辺総合知的財産事務所)として、東京カルチャーカルチャー様主催のイベント(1月17日金曜日:第2回「特許の鉄人」~クレーム作成タイムバトル~)のゴールドスポンサーに就任させて頂きました。

 ⇒前回同様面白いイベントになると思うので、興味がある方はぜひ会場でお会いしましょう!いつもの感じだと結構チケットが売り切れてしまうので、早めに確保したほうがいいかもしれません。

tokyocultureculture.com

 

 (2)セミナーへの登壇

 前回もお伝えした通り、「SB C&S株式会社様」主催のイベント(1月29日)において、「ビジネス領域におけるAI関連の知的財産権について」というタイトルで登壇させていただきます。AI関連技術の知財活動でお困りの方は、是非、ご参加いただければと思います。

 

sbb.smktg.jp

 新事務所のスタートは、こちらの二つのイベントから走り始める形になります。

 また、特許事務所の通常業務についても、引き続き対応させていただいております。コンフリクトの恐れがあるような場合には、先着順となりますので、興味がある方は、早めにお声がけいただければと思います。それでは今日はこの辺で、引き続きよろしくお願い致します。

知財業界への本音は?!(裏 法務系アドベンドカレンダー企画)

<本編>

本日は、昨日のちくわさんからの引き継ぎで、裏法務アドベントカレンダーへのエントリー企画です。色々と考えましたが、特許技術者の方をお呼びして、特許事務所の仕事について対談形式のインタビュー企画を行うことにしました。

まずは1人目、Yさんです(30代前半男性)。前職では物理学科の博士課程(後期)に在籍していたそうです。現在は主にソフトウェア分野の明細書や中間処理を担当し、実務経験は2年程です。 続いて、2人目、Nさんです(30代前半男性)。前職では製薬会社に在籍していたそうです。現在は、主に化学分野の知財DD、例えば、特許情報に基づいた新規用途の探索や新規事業の提案などの業務を担当し、実務経験は1年程です。

お二人とも、前職時代に一緒に働いていた若手の特許技術者の方々なのですが、本日は快くインタビューに応じて頂きました。本日は、よろしくお願いします。

Yです。よろしくお願いします!

Nです。よろしくお願いします!

まずはお二人とも、大学院や企業で研究開発職(非知財部)からの転職をされています。実際に知財業界に飛び込んで、驚いたことや違和感があったことを教えてください。

人事組織体制が自由で上下関係などがあまり無く驚きました。企業にいた時は、上下関係や業務の進め方についても制限がかなりありましたが、特許事務所ではかなり裁量が与えられるので、それが驚きでした。

なるほど。事務所の特性にもよりますが、特許技術者は基本的に個人で仕事をすることが多いので、裁量が広いのは業界の特性かも知れませんね。Yさんはどうですか?

平均年齢の高さに驚きました。今の事務所でも、私がほぼ最年少という感じなので驚きました。

これも業界の特徴の一つですね。若い人が知財業界に興味を持つためにも、知財業界の面白さを伝えていく必要があるかも知れません。お二人が思う知財業界の面白い所はどんなところですか?

様々な技術的に異なる案件を担当することで色々な知識を吸収することができて楽しいです。非常に勉強になります!

特に大学等の案件で感じることが多いのですが、自分の専門領域に近い領域の深い話を知ることができるのでやはり刺激になります。また、明細書の作成は、一種の芸術品のような側面があるため、自分のスキルが向上が実感できた時はやはり嬉しいです。

なるほど。企業の知財部では若干異なるかも知れないけど、少なくとも特許事務所であれば、様々な技術と密に接触することが出来るというのは、面白さの一つかも知れません。また、いわゆる弁理士の専権業務には芸術品のような側面がありますから自分のスキル向上を意識しやすいかも知れません。法務的に言えば、例えば、訴状なども似たような性質があるかもしれませんね。 では逆に、普段の業務や業界特有の事情で難しいことや困難だということはありますか。

用語や単語の使い方難しいと感じます。大学院でも、用語や単語の使い方には気をつけていたつもりだっですが、やはり明細書を書く場合にはまた違った難しさがあるので、苦労しています。また、弁理士の試験も含めて法律知識も必要ですから、この点についてもかなりとっつきにくい部分がありました。

確かに弁理士や特許技術者にとって用語や単語の使い方は非常に重要ですね。また特許事務所にライセンスを持たずに転職すると、仕事と試験の両立は非常に難しいですね。 では最後に、今後業界に転職するかも知れない方々に向けて、お二人からメッセージがあればお願いします。

色々な意味で自由度が高く、手を挙げればやりたい仕事ができるという風土が知財業界の良いところだと思います。仕事を取りに行く積極性や自分の商品価値を高める自己研鑽等が苦にならないという方は、是非、この業界にチャレンジしてみてください。

知財業界に興味を持つ人の中には、技術が好きな人が少なく無いと思います。一般的な技術はもちろん好きですし、日本語の作文や法律文書の書き方等も技術と言えると思います。最初は大変かも知れませんが、技術を身に付けるのが好きなら大丈夫です。分野の違いを恐れずに調整してほしいと思います。

2人とも無駄にハードルを上げないでください!Yさん、Nさん、本日は本当にありがとうございました。

<オマケ>

さて、今回は法務アドベントカレンダーへの参加企画です。若干アイコンと内容があってない気もしますが、そこは目をつぶっていただければ。 趣旨としては、多くの方(特に法務の方)にも特許事務所の現状や、特に(ほとんど実在しない)若手の特許技術者の生の声をお届けしたいと思い、今回の企画を実施しました。知財(特に特許事務所)の仕事に興味を持った方は是非とも業界への参入を考えてみては如何でしょうか。それでは。