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一から始める知財戦略

知的財産全般について言及します。

IPランドスケープとパテントマップ

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1.はじめに

 

 先日のブログでも紹介したように、知財業界では、IPランドスケープという用語が流行っている訳ですが、その多くに「パテントマップ」という技術が利用されています。今日はこのパテントマップを簡単にご紹介したいと思います。

 

2.パテントマップの定義

 

 特許庁によれば、このパテントマップの定義は、特許情報整理・分析・加工して図面、グラフ、表などで表したもの(特許庁:技術分野別特許マップ,1997~2000)、と定義されています。一言で言えば、パテントマップとは、「特許情報を見える化したもの」です。

 つまり、パテントマップの価値を知るためにも、まず特許情報とは何かを知らなければなりません。

3.特許情報の価値

 

 この特許情報の価値の根源にあるのは、出願公開という制度です(特許法第64条第1項等)。簡単に言えば、日本国内でなされた特許出願は、出願から1年6月を経過すると、その内容が公開公報により公開されます。特許出願は、各出願人(企業)の重要な技術情報は勿論、どのような分野の技術なのか、その量や比率はどうなのか、といった事業戦略や技術戦略に関わる様々な情報を含みます。そして、このような特許出願は、国内だけでも毎年30万件以上行われているのですから、使い方次第では有益な情報が得られることは簡単に想像できるでしょう。

 さらに、このような特許情報は、特許庁により基本的に無料で公開されていますので、誰でも自由に取得することができます。ただし、パテントマップを含む統計的な解析を行う場合には、流石にやりずらいので有料のDBやソフトウェアを使って、パテントマップを作成するのが一般的です。

4.パテントマップで結局何ができるのか?

 

 例えば、一例をご紹介します。基本的には特許情報からどのように情報を抽出するかですから、使い方はいくらでもあり得ます。

 (1)競合企業の出願動向を分析する。

 競合企業の出願状況や出願内容を時系列的に検討することで、競合会社の技術水準や技術開発の動向等を明らかにすることができるかもしれません。このような分析は、例えば、研究開発の方向性を決める上で利用できる可能性があります。

 具体的には、例えば、A社では、ある技術分野の特許出願を積極的に行っていたにもかかわらず2011年以降はほとんど特許出願が確認できないような場合、A社は当該技術分野から撤退したのかもしれません。また例えば、商社であるB社がある技術分野の特許出願を行っているとすれば、当該技術分野への参入を考えているのかもしれません。さらに言えば、そのような場合は、技術系のスタートアップ企業との共同出願だったりするかもしれませんね。いずれにせよ、そのようなイメージです。

 (2)自社が参入予定の業界のプレイヤー動向を分析する。

 参入予定の分野の出願状況を把握することで、当該分野の技術的な勢力図を把握することができます。勿論、技術的な勢力図と実際の売上等の勢力図で違いは出るものの、そのような違いも含めて、業界参入の意思決定に利用することができるかもしれません。

 具体的には、例えば、上述の分野が、市場規模の割には全体的に特許出願が少なく、市場を席巻しているプレイヤーが単なる営業力(先行者利益)のみで市場をリードしているとします。例えば、このような場合であれば、革新的な工夫により権利範囲の広い特許権を取得することができれば、市場バランスを大きく変えることができるかもしれません。

 (3)自社の出願方針を決定するため、業界の技術動向を分析する。

 技術領域毎の出願状況を把握することで、自社の出願方針の決定のために利用することができるかもしれません。具体的には、例えば、半導体の製造方法において、A方法、B方法、C方法に関連する手法が知られていた場合、A方法やB方法については特許出願がされているが、C方法に関連する特許出願はほとんどされていないということが分かったとして、「C方法に関連する領域では比較的広い範囲の特許権を取得できる可能性があるので積極に出願していこう」というようなイメージです。

 

 これらはあくまでも一例です。最近はパテントマップの種類も増え、ビジュアルもかなり分かりやすいものが増えてきましたので、より自由度の高い解析が実現できるようになってきました。

 ただし、重要なことは、あくまでもパテントマップはツールであり、特許情報の本質(どのような情報が取得できるのか)を理解した上で、解決したい課題や目的に応じて、うまく使い分けるという発想です。そうすることで、初めて特許情報が、事業課題や経営課題と結びつくためです。

 最後に、下記に必要なツールの情報を張っておきますので興味がある方はご覧ください。なお、本来はマップのサンプルを見るとわかりやすいのですが、著作権の関係で差し控えています。

patent-i.com

www.inpatec.co.jp

 

特許事務所の選び方(大手特許事務所vs中小特許事務所)

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1.はじめに

 

 今日のテーマは、「知財に慣れていない担当者がどのように特許事務所を選べば良いか」です。ずいぶん前からセミナーでやりたいと思っていたネタだったのですが、声もかからないし、あまりまとまった時間も取れなかったので、こちらで公開することにします。文章だけだと、わかりにくいとは思うのですが、まぁそこはご愛嬌と言うことで。

 余談ですが、最近、プロフィール用の写真を撮ろうと思って探しているのですが、本当にどこを選べば良いのか分からないですね。特許事務所を選ぶのってもっと大変なんだろうな、とふと思いました。

 

2.身も蓋もない話

 

 初めに身も蓋もないことを言いましょう。士業なんてものはコネクションが一番です。理由は、いくつかあります。士業の場合、基本的にサービスの大半は「知識の教授」です。したがってコミュニケーションが不可欠であり、いわゆる「相性」が合う合わないが非常に重要になります。その意味で、相性の良い弁理士の知り合い(又は知り合いの知り合い)がいればその方を大事にするというのは極めて重要なことだと思います。

 まぁとは言え、それでは話が進みませんから、知り合いがいなかったという前提で話を進めます。

 

3.大手特許事務所と中小特許事務所

 

 ではまずは、特許事務所について簡単に説明します。以前のブログでも、特許事務所とは、特許出願を始めとする知的財産活動に必要となる様々なサービスを提供し、対価を得る(収益を上げる)組織として紹介しています。

 この特許事務所ですが、多くの弁理士が所属する大手特許事務所から、一人の弁理士のみで運営する小規模な特許事務所(以下、「一人事務所」と呼ぶ)まで様々です。割と情報がまとまっていそうなHPを参照しつつ、説明します。

 

patentfirm.tokyo

 

 こちらも以前ブログで紹介していますが、特許事務所の大半は、実は一人事務所というのが実態です(私ももうすぐそうなります)。他方、このHPによれば弁理士40人以上の大手特許事務所は10程度しかないようです。

 

*私の古巣も弁理士は50人以上在籍していましたが、こちらのHPには載っていませんし、結構、抜け漏れがあるのかも知れません。

 

 今日は取り敢えず、大手特許事務所と1人事務所を始めとする中小特許事務所のメリット・デメリットを考えてみましょう。

 

 <大手特許事務所>

 さて、大手事務所の良いところは、色々な手間を省けるところです。別のブログで詳細については記載しますが、弁理士の特徴の一つは他の士業と比較して、個々の得意領域がかなり狭いということがあります。例えば、ある弁理士は「特許、特にバイオが専門である」というような形で、法域や技術分野に得意不得意があるのが一般的です。また、大手特許事務所の多くは、事務部門も充実していますから、法律手続きとして安定した事務処理が期待できます。

 この点、大手事務所では、幅広い人材を揃えていますから、広範囲な領域をカバーすることができます。また、このような特徴を含めて、大手特許事務所は、事務や特許技術者を含めたチームで仕事を受けるため、良くも悪くも一定水準以上のアウトプットを出してくれることが期待できます。つまり端的に言えば、先程のHPの上位10事務所のうち何れかに相談して、それなりの金額を払えば、最低限のアウトプットを出してくれる可能性が高いと言うことです。これは知識のない依頼者からすれば圧倒的なメリットになります。

 他方、大手特許事務所の(特に人気のある)弁理士は、同時に多数の案件を抱えることも多く、基本的に「超多忙」です。質問をしても素っ気ない回答が返ってきたり、スケジュールの調整ができなかったりと、いうような不自由さがあるかもしれません。言ってしまえば、担当弁理士とのコミュニケーション上の問題が生じやすい環境と言えます。また、大手特許事務所の場合は、(事務部門が充実していることとのトレードオフですが)、料金や納期などに融通が利かず全体的に杓子定規の対応の事務所が多いかもしれません。そのようなこともあり、大手特許事務所は一般的に料金は高い設定の場合が多いと思います(間接経費も高いですしね)。

 

 <中小特許事務所>

 中小特許事務所の最大の問題点は、各事務所が千差万別であり、どの事務所を選べばよいのか、素人には極めて判断がつきずらいという点です。念のために言うと、中小特許事務所にも優秀な先生は沢山おり、サービスのクオリティーも大手特許事務所以上の事務所もいくらでもあります。その意味では、自社に最適な特許事務所が見つかれば、料金も比較的安い場合も多いですし、大手特許事務所以上に満足することができる可能性は十分にあります。

 

4.結論

 

 このような事情から、

 (1)まずはコネクションがあるのであれば知り合いの弁理士に相談してみる

 それが難しいようであれば、

 (2)取り敢えず大手特許事務所に相談してみる

 不都合を感じたり、慣れてきて本格的に知財活動を行おうと思ったら、

 (3)中小特許事務所を利用して見る

 というような使い方が良いような気がします。自分の宣伝にならないようにできる限り客観的に検討して見たつもりなのですが、どうでしょうね。異論反論ありそうなところですが、特許事務所の選び方に迷っている担当者の方の助けになれば幸いです。

特許業界で話題のIPランドスケープ?

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1.はじめに

 

 最近、「IPランドスケープ」という言葉を知財業界でよく耳にするようになりました。グーグル検索をかけて見てもかなりヒットするんですね、驚きました。昔(今も)Orbit(Questel社)というソフトウェアで作成できるパテントマップの一つにランドスケープマップというものがあったのでそれが元になっているのかなぁと思っていたのですがどうも違うようですね。少し気になったので、状況を確認してみることにしました。

 

2.IPランドスケープの商標権

 

 まず、この「IPランドスケープ」ですが実は商標権が取得されています。

当事務所が保有する「IPランドスケープ」の商標権の使用許諾について(方針の再確認) | ニュースリリース | 正林国際特許商標事務所

 商標権者は正林国際特許商標事務所(名義は正林先生個人のようです)ということで、はい、私の古巣ですね(笑)。実は、在籍当初から商標権を取得したという話ぐらいは聞いていたのですが、いう経緯で出願に至ったのか、どのように商標権を使うつもりなのか等は全く知りません。そのため、このブログの内容には、そういった内部事情は一切考慮されていません。200人を超える巨大組織ですから、まぁそんなものかなとご容赦いただければ幸いです。

 

3.結局、IPランドスケープって何?

 

 日経新聞によれば、Intellectual Property Landscape=知財に関する環境と見通し」であり、近年、急速に欧米企業が使い始めた知財分析手法と、同手法を活かした知財重視の経営戦略と紹介されているようです。

 また、特許庁により最近発表された「知財人材スキル標準ver2.0」においても色々と考え方が示されていますので、下にリンクを貼っておきます。ただ、どれも具体的ではないですね。従来のパテントマップを用いた経営戦略の構築やDDと何が違うのかはイマイチよく分かりません。

知財人材スキル標準(version 2.0) | 経済産業省 特許庁

 この点、野崎篤志氏がブログで既に検討されていたようでしたので、リンクを張っておきます。かなり詳細に検討されており、何となく背景は見えてきました。

第4回 IPランドスケープとパテントマップは違うのか?|IPランドスケープ、知財情報分析・・・ | e-Patent Blog | 知財情報コンサルタント・野崎篤志のブログ

 全体的に同意できる部分が多く、私が特に何かを付け加える意味はなさそうです。少なくとも、厳密な定義に基づいて使用されている感じではないですね。「AI」の時と似た気持ち悪さがあります。私が使用する時には、基本的にパテントマップという単語を使っていきたいと思います(当面は)。

 実際は、言葉自体はどうでもいい話であり、IPランドスケープとされる方法論自体が真に従来のパテントマップを用いた解析と異なるものなのか(それだけ価値のあるものが提供できるのかどうか)が重要だと思うのですが、どうでしょうね。個人的な感想としては、(勿論進歩はしているものの)特に新しいと言えるものでもないかなというのが正直な感想です。

 ただし、言葉自体の意味はともかく、特許情報を経営戦略に活かすという考え方自体は、非常に大切です。パテントマップの利用方法や考え方については、別の機会に説明しようとは思っているので、興味がある方はそちらもご覧いただければと思います。

 なお、弁理士の方であれば、「弁理士業務標準(第11版)」の中に私(を含めた業務標準委員会)の記載したパテントマップの記事が無料で読めると思いますので、参考にしていただければと思います。

 

*あくまでも全て個人的見解です。

サッカーゲームで見る参入障壁の作り方

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1.はじめに

 

 前回のゲーム(e-sports)ネタの続編です。サッカーゲームを例にして、よりe-sportsが発展する方向性を技術や知財の観点を織り交ぜつつ、考えていきたいと思います。

 なお、私自身は、ウイニングイレブンは97~2017くらいまで現役でたまに大会に出る程度の中堅プレイヤー、FIFAはナンバリングタイトルをいくつか持っている程度の初心者、です。比較的ウイニングイレブンの方がやり込んでいるので、どちらかと言えばウイイレに寄ってしまうと思うのですが、そこはご容赦ください。

 

2.サッカーゲームの特徴

 

 まず現状のサッカーゲームの位置づけを確認しましょう。前回のブログでも示した通り、サッカーゲームは比較的運の要素があるものの、それなりに実力が反映されますし(トーナメントに比較的耐えられる)、戦術的な側面はあるものの個人技の要素もかなり高いという要素もあり、様々なゲームの要素を比較的バランスよく持っています。そのため、e-sportsには比較的馴染みやすい部類で歴史も古いです。

 このサッカーゲームには、他のゲームにはない圧倒的な利点があります。それは、リアルのサッカーと連動させることができるという利点です。そのため、今でJリーグのクラブ(例えば、FC東京)が専属のゲームプレイヤーを雇ったり、Jリーグがオーガナイザーとしてe-sportsの大会を主催するといった動きが出始めました。これは非常に特徴的な傾向であり、活かさない手はないでしょうね。

 また、現在のサッカーゲーム市場はウイイレ(KONAMI)とFIFA(EA SPORTS)の2強でしょう。お互いのタイトルを差別化するという意味でも、一つの重要な観点かと思います。

www.jleague.jp

3.例えば、こんなのはどう?

 

 では具体的な方法はどうかというと、、、

 それこそ関係者(夫々のクラブやゲーム会社)次第ということになるのですが、せっかくなので一つ例を挙げて考えてみましょう。

 大会の決勝戦を、ARやVRの技術を使って、実際のサッカーに近いような形で観客に提示するような観戦方式はどうでしょうか。ゲームの観戦って、プレイヤーの状況やゲーム画面を見るだけになってしまうので、地味なんですよね。特にサッカーゲームの場合は、実際のサッカーを見ている感覚とは全く異なるので、サッカーファンには結構違和感が出てしまうような気がしています。そのため、例えば、実際のサッカーに近いような形で観客に魅せる方向性というのは、サッカーゲームの一つの方向性として有望だと思います。

 ちなみに、今年のTGSでも、コナミブースにARを利用したウイイレのような技術が出展されていましたし、普通に近い世界を狙っている気はします。

 さて、このような技術を実現する場合、どのような点が障害になるでしょうか。まぁ細かく言えばいくらでも出てくるとは思いますが、例えば、一つ例を挙げるとすれば「オフザボールの動き」なんかがあると思います。サッカーゲームというのは、通常、1vs1の勝負ですから、基本的にはボールを持ったプレイヤーのみを操作します。

 まぁ仕様的には、いくつかボールを持っていない選手を操作する方法はあったりするのですが、正直、現状の仕様で満足しているプレイヤーはほとんどいないと思います。勿論、ゲームタイトルによっても差はありますが、結局、どのゲームタイトルであっても、まだまだ実際のサッカーのリアリティーは再現できていないように思います(さらに言えば、ゲームの勝敗も戦術面ではなく、結局個人技の部分で決まってしまうことが多い)。

 このような状況において、例えば、ボールを持っていない選手の動きに戦術的な意味合いをうまく盛り込んだ動きを実現するのに寄与する工夫や、それが難しいのであればARやVRを利用する場合に、少なくともボールを持っていない選手の動きを「自然に見えるように修正する」ような工夫があれば、実は結構な強みになるのではないかと思います(今回、関係会社の特許は全く見ても聞いてもいないため、既に出しているかも知れません)。

 勿論、これはあくまでも一例です。逆にプレイヤーの個人技に着目し、それを魅せるような演出もあり得ると思います。ただ、このような工夫について、特許が取得されていれば非常に強力な参入障壁になるのでは、、、?ということです。

 

4.発明発掘の考え方

 

 という訳で一例を適当に挙げて紹介してみました。

 実は今回の解析は、発明発掘における基本的なフローを紹介しています。まぁ本業でやるなら、もう少しエビデンスや実際のデータに基づいて時間をかけて解析しますが、思考の方向性は同じです。発明発掘のポイントは、「ビジネス上の重要なポイント(できれば技術的なポイント)を探索し、そこから特許法上の発明として具体的な発明を抽出する」ということに他なりません。単に特許を取ればいいという訳ではないし、ある程度業界に精通していないと難しいと思うのですがどうでしょうね。ちなみに今回とは逆で、企業が取得している特許から将来のビジネス展開を予想するような方法論も存在します。そちらの方が面白いですかね。取り敢えず、今回は以上。

 

*台風19号により被害を受けられた皆様には、心よりお見舞い申し上げます。私自身も東京住まいなのですが、幸い被害が大きかった地域から距離がったため、ほとんど影響はありませんでした。

イベント(AI vs 弁理士)に参加してきました!

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 という訳で、「AI vs 弁理士」のイベントに参加してきました。

prtimes.jp

<概要>

 

 SNSでの宣伝活動もあってか、会場はほぼ満員でした。何より驚いたのは知財関係者以外もそれなりに来ているようで、私の席の周辺では知財関係者の方が少ないという感じでした。色々思うところはあるものの、全体的にイベントとしてうまくまとまっていた印象です。チケットの料金は2500円+ワンドリと比較的高額設定だったものの、場所や演出の凝り方を考えるとやむを得ないかなぁという感じです。Toreruさんは、今後もこういう方向で行くのかな?まっ流行る理由は分かりました。

<レポート>

 

(1)画像商標対決(出演:中村先生)

 「実際に出題された商標画像1つに対し、最も似ている画像を見つけてくる(制限時間10分)。特許庁の審査官が似ていると判断した画像が含まれていれば勝利。(公式より)」

 まずは、中村先生が素晴らしかった。制限時間内にちゃっと正解を拾ってくるということで、あれを外してたらイベントの盛り上がり大分違いましたよね。さて、それはそうとAI側のアプローチです。AI側のアプローチは、課題の画像から候補画像を絞って、エンジニアの方がその中から正解を選べるかというアプローチを取っていました。解説の土野先生も指摘されていましたが、このエンジニアによる選別(敢えて宮崎先生はアドバイスしない)の場面で迷ってしまい、正解にたどり着けなかったようです。候補画像の画像の中に正解の画像は(多分)含まれていたと思うので、実は最終的な絞り込みさえできていれば、AI側の圧勝で終わっていたというような話があったりします。逆に言えば、最終的な絞り込みは人間が行うことを前提として設計されているようですので、その点、使いにくいかも知れませんね(まぁ精度出せてないんでしょう)。ただし、候補の絞り込みまでは非常に早く、多分正解も拾えてるので一次スクリーニングには十分耐えているのかなという印象でした。

 結果:中村先生勝利

(2)類否判断対決(出演:瀬戸先生)

 「実際に出題された商標2つ提示し、それが似ているかどうか(類否)を判断する。(お題10問、制限時間10問)

 まずは、会場参加型にしたの大成功でしたね。非常に盛り上がっていました。

 本題に入ると、こちらのお題は、1問1分ということで弁理士側は、ほぼ直感で答えざるを得なかったと思います。なので、弁理士側がある程度時間をかけられる状況(類似商標や判例の確認ができれば)であれば、正答率は結構変わったでしょう。この状況であれば、一般的な弁理士であっても、商標弁理士であっても、弁理士でなくても、結果にそこまでの差は出ないでしょう(結果を知っていれば別ですが)。

 なお、AI側は、(多分)称呼のみで類否判断を行っているということでした。

 結果は、瀬戸先生が7問正解に対して、AI側が6問正解ということで、弁理士側の勝利ということでした。なお、宮崎先生いわく、大体精度は60%という話でしたので、AI側としては十分満足のいく結果と言うことでした。まあ、十分な精度でしょうね。周りの席の方(弁理士を含む)も大体5~7問くらいの正解の方が多く、基本的には人の判断(直感レベル)と同レベルの精度は出ているという印象を受けました。単に担当者がこの商標通るか分かりませんと進言するよりも、AIのスコアでも持って行って通るかわからないと進言した方が効果的と言うような使い方はあるかもしれません。

(3)識別力対決(出演:岡村先生)

 「実際に出題された商標とその商品・サービスを提示し、特徴があるかどうか(識別力)を判断する。(お題10問、制限時間10分)」

 これはもはやカオスでしたね。制限時間が少ないのも相まって、自身があった人は、ほとんどいないんじゃないですかね。なお、今回の「正解」はあくまでも、ファーストアクションで拒絶理由通知が来るかどうかということらしく、最終的に商標登録が認められたかという話ではないようでした。解説の土野先生も指摘されていましたが、この点も弁理士としてはやりずらい理由ではあったかと思います。

 

<雑感>

 

 一次スクリーニング用のサポートツールとしては、十分機能するという印象を持ちました。実際このツールをどう使うかはtoreruさん次第ですが割とアドバンテージになる気がします(使い方はかなり難しいですが)。少なくとも商標出願業務自体は、差別化が相当難しいですからね。あとデモンストレーションとしては、普通に使えますね。

 以下、気になった点を2つ。どこまで汎用的に使えるのかな?という話です。

 ①お題自体が元ネタは実際の出願なので、トレーニングデータに含まれているような気がする。とすればバイアス若干かかっている気がしなくもない。②出題が25類に偏っていた。類によっては精度出ないとかあったりするのでは?と思わなくもない。まあいずれも誤差レベルだとは思いますが、、、、

 

*記事に間違えがあれば修正するので、お気軽にお知らせください。聞き間違えとか。

退職エントリと現在の状況

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<退職エントリ>

 

 現職の引継ぎも概ね終わり、10月3日をもって3年8ヵ月ほど在籍した正林国際特許商標事務所を退職しました(正式な退職日10月31日)。長いような短いような、7年前に体を壊して研究職を辞めた時は、本当に空が青く見えたもんですが、今回は至って平常運転です。知財業界は平和でいいもんです(スキルや経験が当たり前に金になるって実はすごい恵まれたこと)。

 色々と思うところはあるものの、基本的には円満退職です(内部事情を知りたい方は何処かで飲みにでも誘ってくださいw)。正林国際特許商標事務所では、弁理士としての基本的なスキル(明細書や中間処理等)は勿論、「AI・データ契約ガイドライン」をはじめ色々な経験をさせてもらいました。スキルを学ぶという意味では、これ以上ない職場だったと思います。

 思い起こせば、つい7年前まで、知財の「知」の字も知らなかった人間が、たった6~7年で知財業界の最前線で仕事をしているのですから、本当に人生は面白いもんです(しかも、専門だった神経科学ではなく、CS(コンピュータサイエンス)を専門にして)。

 ここからは、大きな組織を離れてビジネスの現場に本格参入していく訳ですが、どうなることやら、、、まあ楽しみではあるのですが。

 

<現在の状況>

 

 基本的には久しぶりの無職生活を満喫している訳ですが、一応働かないとマンションを追い出されてしまう(奥さんに怒られ・・・)ので、ちょいちょい働いています。

(1)執筆作業:エンジニア向けの知財の解説本のようなものを出版予定です。共同執筆者含めて3人で執筆中なのですが、1月の出版?に向けて鋭意執筆中です。

(2)本業:11月から開始予定の顧問先が若干あります。という訳で、一応、本業も稼働しています(他にもご依頼お待ちしてますよ!)。

(3)新事務所の立ち上げ準備:11月の本格稼働に向けて、準備を進めています。現時点でコアメンバー4人?の共同経営のような形になる予定です。別に情報を敢えて伏せているという訳ではないのですが、共同経営者(予定)があまり情報を出していないので、取り敢えず秘密裏(?)に動いています。

(4)ブログ:何だかんだ結構記事をアップしているためか、アクセスも頂いているようです。グーグル辺りで収益化するのか、事務所の宣伝と割り切ってそのままにするか、現在検討中です。取り敢えず、暇なうちは結構記事は上げると思います。リクエスト等あれば、是非ツイッターやコメント等でお知らせください。

 

 最後にリアルで知り合いの方も、そうでない方も、今後ともよろしくお願いします。

知財(特許)の価値を評価するということ

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1.知財DD

 久しぶりに重めの記事を書こうと思います。皆さんは、知財DD(デュー・デリジェンス)という言葉をご存じでしょうか。知財DDとは、対象会社に対して、出資や事業提携、買収等を行うにさして、(1)対象会社に事業継続上のリスクがないか、(2)対象会社の技術力や将来性の価値が投資額に見合っているか等を知的財産(以下、「知財」と呼ぶ)の観点から確認することです。他にも、実際のM&A等の現場では、法務DD、財務DD等、様々な観点DDが行われます。

 私は、公認会計士でもありませんし、普段そこまでこのような業務に携わることはないのですが、以前、官公庁の入札案件で知財評価の案件等もかなり行っていましたので、知財評価を行う立場としての知財DDの可能性と限界について考えたいと思います。

2.求められる評価

 この点、M&A等の現場で最も求められることと言えば、間違いなく、知財の金銭的な価値評価です。そんなものどうやって算出するの?という疑問が湧いてくるのは容易に想像できますが、実は結構色々な方法が知られています。

  (1)コストアプローチ:知財に支払われたコストに基づいて知財の価値を算出する評価方法

  (2)マーケットアプローチ:類似する取引事例に基づいて知財の価値を算出する評価方法

  (3)インカムアプローチ:知財により得られた収益に基づいて知財の価値を算出する評価方法

 これらの金銭的な価値評価の手法は、公認会計士や研究者が中心となって、研究が進められているものの、やはりハードルが高く、万人が納得するような手法は開発されていないというのが現状のように思います。私自身は、こちらの分野にそこまで明るいわけではないので、あまり深入りするのはやめておくことにします。

3.知財DDの意義

 では知財DDが機能するのはどのような状況でしょうか。一つは、対象会社の事業継続上のリスクを明確化するということは可能です。

 例えば、コアな事業であるにも関わらず、いわゆるFTO(Freedom to Operate)調査を行っていないのであれば、これを行うことで将来的なリスクファクターを洗い出すことができるでしょうし、その対策を講じることもできるかもしれません。

 さらに言えば、大学やスタートアップ企業といった知財・法務機能の強くない組織の場合、例えば、独占的通常実施権の許諾を受けていると思っていたら、実は、「単なる通常実施権の契約しか結べていなかった」、「事業のコアになると思っていた特許権が実は事業の範囲をカバーしきれない内容になっていた」なんてことも普通に起こり得ます。

 このような知財(一部法務も含む)的なリスクを泥臭く洗い出し、それを意思決定者(例えば、投資家等)に対して明示することが知財DDの本質的な役割です。

4.知財DDの限界

 このように、知財DDは、事業継続上のリスクを明確化するという点に関しては、非常に有効に機能します。では、「対象会社の技術力や将来性の価値が投資額に見合っているか」、という問いに対してはどうでしょうか。できることは非常に限られる、というのが正直なところではないかと思います。

 つまり、知財(特許)が本質的に事業上のリスクを減少させるということを主たる機能としている以上、知財の価値というものも原則として、事業計画自体の価値に連動せざるを得ないと言えます(ただし最近では、特許出願の宣伝広告的な価値や社会的な信用力の向上等、間接的な効果も注目されています)。

 最後に、特許庁が面白い資料を作成していたようなので、リンクを張っておきます。誰が書いたのか知りませんが、予想以上にちゃんと書いていますね。

https://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180403002/20180403002-3.pdf