判決雑感(カプコンvsコーエーテクモ)
・事件名
平成30年(ネ)第10006号 特許権侵害行為差止等請求控訴事件・同年(ネ)第10022号 同附帯控訴事件
・事件の経緯
原審である平成26年(ワ)第6163号 特許権侵害行為差止等請求事件に対する控訴事件になります。原審では、被告から原告に対する517万円の損害賠償請求のみ(請求は9億8323万1115円)が認められたことに対して、敗訴部分を不服として控訴がなされたものです。
原告:株式会社カプコン(以下、「カプコン」と呼ぶ)
被告:株式会社コーエーテクモゲームス(以下、「コーエーテクモ」と呼ぶ)
・判旨(主文)
1 控訴人の本件控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1)被控訴人は,控訴人に対し,1億4384万3710円及びこれに対する平成26年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
2 被控訴人の附帯控訴を棄却する。
3 訴訟費用(控訴費用,附帯控訴費用を含む。)は,第1,2審を通じてこれを7分し,その1を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。
4 この判決の第1項⑴は,仮に執行することができる。
・主な論点
(1)本件発明Aに係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものか
⇒特に公知発明においてセーブデータ(書き可能なディスク)をトリガとして採用しているところ、本件発明A(請求項1及び8)においては、「所定のキー(セーブ不可)」を採用することに対して阻害要因を認める点等を考慮して、進歩性を肯定しています。
*ただし、審決取消訴訟(平成29年(行ケ)第10097号)等において、既に争われている。
(2)控訴人の損害の有無及び損害額
⇒本件における実施料率を3.0%とし、弁護士等の費用を含めて合計1億2833万3710円(1億1667万3710円+1166万円)を損害額として認定しました。
(3)控訴人の損害の有無及び損害額
⇒本件における実施料率を1.5%とし、弁護士等の費用を含めて合計1551万円(1410万円+141万円)を損害額として認定しました。
・対象特許権1:特許第3350773号
【請求項1】ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)を上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって,
上記記憶媒体は,少なくとも,所定のゲームプログラムおよび/またはデータと,所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と,所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されており,
上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲームプログラムおよび/
またはデータであり,
上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき,上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ,上記所定のキーを読み込んでいない場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする,ゲームシステム作動方法。
概要:過去作品のセーブデータを有していると、本作品でも追加アイテム等が配布されるという「例のアレ」かと思ったのですが、訂正により「セーブデータを記録可能な記録媒体を除く」という文言が追加されました。この点、従前のゲームでは、前作のセーブデータの保有が前提であることとの差異が認められて特許性が肯定されました。かなり古い特許権(権利としては失効済み)ということもあるのですが、かなり微妙な判断です。
・対象特許権2:特許第3295771号。
【請求項1】遊戯者が操作する入力手段と,この入力手段からの信号に基づいてゲームの進行状態を決定あるいは制御するゲーム進行制御手段と,このゲーム進行制御手段からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が上記入力手段を操作することにより変動するキャラクタを含む画像情報を出力する出力手段とを有するゲーム機を備えた遊戯装置であって,上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて,ゲームの進行途中における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあるか否かを判定する特定状況判定手段と,上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に,上記画像情報からは認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段と,上記振動情報制御手段からの体感振動情報信号に基づいて振動を生じさせる振動発生手段と,を備えたことを特徴とする,遊戯装置。
概要:キャラクタのゲーム内の状況に応じて(コントローラ等を)振動させるという発明である。一般的に利用されている技術のようにも思えるが、プレイヤが画像情報からは識別できない情報を振動の違いによって伝達するという点は特徴的かと思います。
・雑感及び実務への影響
昨年3月の審決取消訴訟(平成29年(行ケ)第10097号)を受けて、対象特許権1に関する判断が大きく変わったという判決のようです。実施料率も3.0%が採用されており、比較的高めの水準が採用されたように思います。
なんだかんだ言ってもソフトウェア特許で、特許権者側に有益な判決は、少なく、今回の判決が確定するとすれば、比較的実効性の高い損害賠償額の判例ということになりますから、プロパテントの方向で実務への影響が比較的大きかも知れません。既に、9月24日付で最高裁判所に上告がなされているようですから、今後の動向も気になるところです。
さて、ゲーム絡みで、面白い判決が出たのでご紹介してみました。一応、詳細が出たら検討しようと思っていたのですが、HPに詳細が上がるまでやたら時間がかかりましたね。好評なようであれば、たまに判例も扱うと思います。
*判例の紹介は普段あまりやりませんから、細かい間違い等あればご容赦ください。
*今回の判決の記事は書かれていませんが、イノベンティアの藤田先生が関連する判決の解説をブログで書かれています。気になる方は、こちらも読まれると全体像が把握しやすいかと思います。