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一から始める知財戦略

知的財産全般について言及します。

誤解のない文章を作成する極意~より良い明細書を書くために~

1.はじめに

 

 私は、明細書を書いたことない人、文章の作成に慣れていない人の指導をすることがよくあります。中には、どうしても「すぐに単独で問題の少ない明細書が書けてしまう人」もいれば、「結構経験はあるけどちょっと物足りないなぁ」という人がいます。特に明細書を作成するという業務を念頭に置いた場合、このような差を生む要因の一つに文章を作成する能力の差があるように思います。例えば、よく事務所(や会社)の上司に「何を言いたいのかわからない!」、「書いてある文章の意味が分からない」と言われたことはありませんか、そのような方に向けた特に明細書で必要な「誤解がなく、明確に、相手に伝わる文章」の作成の仕方について考えたいと思います。基本的には、明細書を始めとした法律文章の作成を念頭に置いていますが、学術論文や報告書等、他の分野でも応用できる考え方だと思いますので、是非、参考にしてみてください、

 

2.なぜ意味の取りずらい文章になってしまうのか?

 

 私は、「意味の取りずらい文章」が作成されてしまう原因は、主として2つ存在すると考えています。

 まず一つは、「そもそも文章として何を書きたいのか明確になっていない」場合です。このような場合、文章を構成するために執筆者にどのようなことを書きたかったのかを聞いてもうまく説明することができません。そのような状態では、相手に伝わる文章が作成できないのは当然と言えます。

 もう一つは、「執筆者のイメージが文章として表現されていない」場合です。このような場合、執筆者にどのようなことを書きたかったのかを聞くと、実は結構きちんとした返答が返ってきます。つまり、本人のイメージが文章として必要十分に記載されておらず、情報が抜け落ちたいたり、文章の構成が崩れていたりという現象が起きているということです。意外に思うかもしれませんが、このようなケースは結構多い印象があります。今回は、この後者のケースを減少させる方法を考えます。

 

3.改善するためのポイント!

 

 このような問題に対して、私は、例えば(1)から(4)のような対策案を推奨しています。なお、このようなポイントは、明細書等の法律文章や試験の答案(論文式試験)のように「誤解がなく、明確に、相手に伝わる文章」が必要とされる状況で有効です。小説等では全く別のロジックが働くと思いますので、目的に合わせて、取捨選択してください。

 

  (1)文章を短文で区切る(3行ルール)

  ⇒日本語の係り受けは、非常に複雑です。冗長な文章は、係り受けのミスを誘発しまので、まずは文章の「かっこ良さ」よりも、正確な文章を意識しましょう。ちなみに3行ルールとは、長くても3行程度(40×3=120字)程度で文章を区切ることを徹底するという考え方です。明細書の指導でも、論文式試験の指導でもよく使う手法です。

 

  (2)5W1Hを徹底する

  ⇒日本語の場合、特に主語が問題となります。ご存じかと思いますが、例えば、「昨日、友達と食事に行ってさ」というように日本語は、主語がなくてもある程度成り立つ言語として有名です。しかしながら、曖昧なのは間違いがありません。そのため、明細書を作成するような場合では、極力すべての文章に主語を記載すべきです。なお、(1)や(2)の考え方は、作成した文章を他の言語に翻訳するような場合極めて翻訳しやすいという特性もあります。その意味でも、明細書を作成するような場合、(1)や(2)の考え方は必須と言っても過言ではないと思います。

 

  (3)情報を落とさない

  ⇒執筆者のイメージが文章として表現されていないケースについては、執筆者のイメージを文章にした際に何かしらの情報が抜け落ちていることが非常に多いです。つまり、口頭で説明できたのですから、その説明を「そのまま文章にすればいい」のですが、それができていないということです。これに対する解決策は単純です。「文章にしたいイメージをまずは口頭で固めた上で、口頭で表現しようとした内容をそのまま文章にする」ことを意識してみましょう。さすがに不要な部分はありと思いますが、最終的に本当に不要な部分のみを削除すれば問題ありません。

 

  (4)文意が一意に確定できることを意識する

  ⇒作成した文章の「文意が一意に確定できるか」を検討するようにしましょう。複数の文意に解釈できてしまう文章は、明確な文章を作成するには不要です。自分のイメージを一意のみに解釈できる文章に置き換えていきましょう。時間がかかる作業ですが、このような作業を行うことではじめて明確な文章というものが生まれるのだと思います。

4.まとめ

 

 以上、簡単に解説してみましたがいかがだったでしょうか。このような考え方の前提にあるのは、法律文章の特性が、「文章に記載された内容(情報)が全て」であり、原則、一発勝負であるという点です。これは、論文式試験等でも同じです。そのため、「情報の抜け落ち」や「誤解」が致命的な損失につながる可能性があります。

 さらに言えば、明細書の観点で言えば、審査官も人間です。審査のノルマとの関係で、一本の明細書の審査に極わずかな時間しかかけることができません(当然ミスもあります)。その意味でも、誤解の生じない「明確」な文章というのは極めて重要です。

 そして考えてもらいたいのは、そもそも自分のイメージを他者に正確に伝えるというのは、極めて高度な作業であり、簡単にできるものではないということです。その意味では、そのような文章を作成するのは難しくて当たり前です。私自身の文章もどの程度分かりやすいものになっているかは読者の評価次第ですが、私自身は、普段、このようなことを考えて文章(特に明細書)を作成しています。質問等があればお気軽にご連絡ください。