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一から始める知財戦略

知的財産全般について言及します。

知財業界での大ピンチ~弁理士の日記念ブログ企画2022~

1.はじめに

お久しぶりです。
 ブログやTwitterの頻度は減りましたが、至って普通に過ごしています。
 さて今回は、恒例の『弁理士の日記念ブログ企画2022』への参加ブログです。正直、今回のテーマはネタの選定にかなり苦労したのですが、最終的には独立時のお金の話をご紹介しようと思います。意外に危ないなというポイントが多かったので、誰かの参考になればと思ってお話しします。少し変化球のような内容になっていますが、ご容赦ください。

 

2.独立後のお金の話

 (1)独立後の資金繰りの話

 この点は想定している方も多いと思うのですが、(1から立ち上げる場合)事業が軌道に乗るまでには時間がかかります。個人差はありますが、はじめの依頼が完了するまでに3~6カ月程度はかかるのが通常かと思います。私の場合は、設立半年ぐらいで経営が安定してきたかなぁという感覚ですが、これは比較的運のよい方だと思います。
 重要な点は、経営がある程度順調に推移する場合であっても、開業資金+(現在の生活費+事務所運営費)×6カ月ぐらいの資金がないと危ないということです。私自身結構余裕をもってはじめたつもりだったのですが、今考えると結構危なかったと思います。

 (2)税金や保険の話
 まず初年度には勤務時代の給与を基準に税金が計算されます。これもまぁ痛い。
 ただ、それよりも痛いのは経営がある程度安定した後の税金の話です。無事経営が安定してくると、少しづつ売り上げがあがっていったとします。それに伴い、増えてくるのはもちろん税金です。うちの場合、従業員は2人(常勤は0)なので、売り上げ規模自体は大した額ではありません。しかし、それでも昨年の税金の額は驚きました。そして、この請求が翌年きます。これ伸びがある程資金繰り危ないですね。ほんと。

 (3)ローン組めない問題
 余談ですが、昨年末に居住用の不動産を購入しました。さて、個人事業主は住宅ローンを組めるのか。いわゆる通常の住宅ローンは3期分の確定申告書が必須ということで、思ったよりも頑な印象でした。さらに言えば、これは印象のレベルの話ですが、仮に3期分の確定申告書があったとしても、勤務者と同程度の評価にはならない(自己資金を多く要求される、金利が多少高く設定される)のだろうと思います。銀行としては当然の判断だとは思うのですが、独立前の想定よりハードルはかなり高かったです。

 (4)おまけ(〇〇先生のありがたい話)
 私は前職の特許事務所の所長から退職時にありがたいアドバイスを頂きました。
 具体的には〇〇先生:『独立すると一気に信用がなくなるから、今のうちに借金、できれば投資用の不動産のようなものを買っておくと良いよ。現金がないと動けなくなるから。(文言はそこまで正確ではないです)』というような趣旨のアドバイスでした。
 当時は、そういう考え方もあるか、理屈としては分かるけどなぁ、という感じであまりピンと来ていなかったのですが、今はレバレッジかけるならあのタイミング(退職時)がベストだったと実感しています。
 事務所設立時にどの程度の事務所規模を目指すのか、どの程度人を雇うのか、このような目標を事前に設定するべきだったのですが、私はそこまで気が回りませんでした。私自身は経営者になりたいわけではないのでそれほど気にはしていないのですが、自分はやっぱり経営者じゃないなぁ(笑)。

 

3.まとめ

 如何だったでしょうか。普段あまりこういう話をしている人がいないので、少し変わり種のネタを共有してみました。質問などがある方は、TwitterのDM等で直接アクセスしてもらえれば、わかる範囲でお答えします。正直、ブログでは公開できない内容の話も結構あるので、そちらの方が色々と伝えられることがあると思います。

 今年もたくさんの方が企画に参加しています。興味がある方は、他の参加者の方のブログも是非ご覧ください。

https://benrishikoza.com/blog/benrishinohi2022/

『知財業界での夢と希望』~知財業界のリアル~

1.はじめに

 今年も『弁理士の日記念ブログ企画2021』の季節がやってきました。本ブログの更新頻度は絶望的な状況ですが、せっかくの機会ですので参加します。

 さて、今年のテーマは、『知財業界での夢と希望』です。面白いテーマですね。私自身はあまり夢や希望を意識しながら生きるというタイプではないのですが、少し考えてみようと思います。

 

*本来、知財業界は、当然、企業の担当者やコンサル系事業者などかなり広い概念が含まれると思いますが、今回は弁理士の日の記念イベントということもあるので、士業としての弁理士(特許事務所)を想定して記載しています。

 

2.~知財業界に入るまで~

 私は、大学院の博士課程後期(情報⇒医学・神経科学)をD2後期~D3前半のタイミングで退学し、その後、専業の受験期間を経て、知財業界へと入りました。大学受験等で浪人をしていることなどもあり、弁理士試験の合格が31歳ぐらいだったと思います。その後、特許事務所での特許実務を経て、2019年に独立し、現在に至ります。

 なお、私が専業で受験を行っていた理由は、実は資格がない状態で業界に入るという認識がなかったからです(単に働きたくない)。特許技術者の存在を知っていれば、そのまま就職していたかというと、そんなこともない気はしますが、全ての人に無職での受験を勧める必要もないでしょう。

 ただ、アカデミアから離れて何もしない期間を置いたのは正解でした。受験期間は、アカデミアの感覚を知財業界の感覚に頭を切り替える良い期間だったと思います。

 

 (知財業界への期待)

 さて、私が博士課程後期に在籍していた当時の神経科学業界といえば、米国のトップジャーナルを持つ研究者が翌年に契約を解除される人がいたり、月20万円程度の給与で生活している人がいたりと、今考えるとかなりひどい状況でした。流石に、このような労働環境に付き合う気にはなれませんでした。

 同時に、少なくともこのような労働環境を構造から変えなければ、日本の科学技術は確実に衰退するだろうとも思いました。

 ちなみに、当時同僚とする話とすれば、〇〇さんが高いIFの論文にアクセプトされた、△△さんが任期無しのポストに入ったというような話ぐらいしかした記憶がありません(当時国研に所属していたという事情もありました)。末期でしたねw

 そのため、私が知財に期待していたのは、自らの労働環境を改善し、かつ可能であれば知財を通してアカデミアの労働環境の改善に繋げることでした。『知財』にはそれだけの可能性を感じていました。

 

3.~現在に至るまで~

 (実際の知財業界の状況は?)

 やはり、弁理士の労働環境はやはり恵まれています。これは特許事務所の弁理士(勤務・経営)に限らず、審査官や企業知財部を含め、いずれも費用対効果が高い恵まれた労働環境だと思います。少なくとも私の知るアカデミアと比べればかなり良いのは確かです。

 そして、自分はアカデミアの労働環境に何か貢献できたのか。これは良くわかりません。

 10年前と比べるとアカデミアの労働環境も大分変りました。特にCS(コンピュータサイエンス)分野では、博士号取得者が生活に困るような話はほとんど聞きません。一方で、私のいた神経科学分野は、(ある程度は改善しているものの)今でも状況はあまり変わらないと聞いています。しかし、神経科学分野を含めて、変化があるとすれば、大学発ベンチャーや技術系のスタートアップと言う話題が目立つようになりました。

 この流れは、アカデミアの労働環境や日本の科学技術の発展にポジティブに作用する好ましい流れです。この辺りの企業にどのように知財・法務の基盤を浸透させていくのか、まだまだ課題は山積みです。

 余談ですが、日本と欧米の致命的な差の一つに研究の周辺人材の差があります。知財を含めた周辺人材の強化育成は、日本が世界で戦うための至上命題の一つだと思っています。

 

4.~これからの目標~

 一つは、やはり事務所の組織体制の強化する事です。今の事務所(渡辺総合知的財産事務所)は、丁寧な仕事を提供したいという考えから、あまり大きな組織にはしないつもりでした。この考え方は、今も基本的には同様なのですが、やはり現実的に受けられる仕事のキャパシティや対外的な影響力に限界を感じることが増えてきました。

 まぁやりたい事が多いんですよね。現在は1人弁理士(従業員3名)の体制でやっているのですが、採用を増やし、ある程度の組織体制を構築していく予定です。

 

 もう一つは、楽しめる仕事をするということです。弁理士の仕事の良い点の一つは、仕事の内容や性質をある程度自由に選択できるという点です。

 要は、弁理士(知財)の仕事って割と面白いし、自由なんですよね。単純に発明者の拘りを聞くことも面白いですし、未成熟な業界ですから面白いことが山ほど残っています。

 その時々の感覚を大事にしながら面白いことを追求していきたいです。ただ、そうは言っても私は特許事務所の弁理士です。『知財を通してクライアントの企業価値の向上に貢献する』と言う地道な活動も大事にしていきたいと思っています。

 

 さて、本日のブログはこれで終了となります。『弁理士の日記念ブログ企画2021』は、他にも多くのブログが参加しています。知財業界に興味がある方は是非読んでみてください。なお、質問があればツイッターやコメント等でご連絡いただければ対応します。それでは、また次回。

 

benrishikoza.com

「裏・法務系アドベントカレンダー2020」エントリー企画 独立一期目を終えて感じる課題と成果 ~大規模事務所から一人事務所への変化を中心に~ 

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1.はじめに

 お久しぶりです。約2カ月ぶりのブログ更新ということで、「裏・法務系アドベントカレンダー2020」へのエントリー企画となります。のん@仕事が楽しい社会人7年目さんからの引継ぎとなります。

 本当にこのような企画でもないとブログ書くのはしんどいですね。まぁ本業が忙しいので仕方がないということにしておきましょう。

 

 さて、今回アドベントカレンダーにエントリーするにあたり、

 ・独立開業時に必要な準備作業のまとめ

 ・組織における知財機能とは何か

 ・判例整理(特許権の消尽)などなど、、、

 いくつかテーマを考えたのですが、ちょうど新事務所設立(2019年12月16日)から1年が経過したということで、やはり新事務所に絡むテーマを選ぶことにしました。

 という訳でテーマは、「独立一期目を終えて感じる課題と成果~大規模事務所から一人事務所への変化を中心に~」です。知財クラスタ・法務クラスタ問わず独立して活動されている方は数多くいらっしゃるのですが、元々中小規模の事務所から独立されていることが多く、大手の事務所や企業(企業出身は比較的いるかも)の方は結構少ないのではないかと感じています。まぁ大手の事務所の場合、業務が分業化されていて独立に適したスキルが身に付きにくかったり、そもそも待遇が良く独立の必要がなかったり、ある意味当然と言えば当然かもしれません。

 そこで今回は、『組織の大きさ』という観点を軸として、私自身の今年一年の活動で得られた知見や課題を簡単にご紹介したいと思います。ちなみに現在の事務所は、いわゆる一人事務所(弁理士1名)ですが、事務作業等を行ってくれている所員はいますし、事務作業の外注等も利用しているため、『事務作業が大変!』ということは特にありません。むしろ余計なやり取りがない分、雑務は少ないと言えるかも、何れにせよ、作業効率は大事です。

 

2.『自由と裁量』

 何より大きい『自由と裁量』と言うことで、やはり『自由』です。事務所運営の方向性や顧客の選択等で基本的に横やりが入りません。これは大きいですね。

 例えば、私の場合、創業時に事務所の書類等を全てオンライン管理するような環境を整えているのですが、これだけでも多くの特許事務所(特に大手)であれば、どれだけ時間と労力がかかるのか想像もつきません。心折れるでしょうね、間違いなく。まぁただここら辺は企業の方は感性の高い方が多い気はするので、法律事務所や特許事務所特有の問題かも知れません。

 そして、これ以上に大きいのが、クライアントへの対応方針です。これが自由だと、こうもストレスが減るもんなんですね(正直な感想)。例えば、クライアントからの要望や提案に対して柔軟に対応ができたり、自由に公益業務(採算の取れない業務)を受けることができます。まぁ実は、前職の事務所もかなり先進的な事務所(一般的な特許事務所と比べると圧倒的に自由で裁量はあると思います)でしたので、それなりに自由にはやらせて貰っていたのですが、『そうは言っても』ということですね。

 その意味では、自分も組織に所属していることで、無意識にハードルを上げてしまい可能性を制限してしまっていたという側面もあるのかもしれません。このようなハードルをうまく制御できる人間が大きな組織でも存在感を発揮するのでしょうねー。

 

3.『業務範囲』

 ただ一方で感じるのが、対応できる業務の幅がどうしても狭くなるという点です。まぁそもそも受任する依頼の内容も狭くなるのが通常でしょうし、やむを得ないと言えばやむを得ないと思います。前職では、意匠や商標は勿論、金融や会計の専門家なども多数在籍しており、彼らと連携を取りながら様々な案件に関与することができました(これがまさに大手の強みでしょう、いろんな意味で)。

 これに対抗するためには、『専門家間のネットワークを作り、連携を取る』と言うのが常套手段な訳ですが、これが中々難しいですね。そもそも信頼出来て日常的にコミュニケーションを取れる他の専門家を探すこと自体が難しいですし、それぞれが利害関係を有しているためそう簡単にはいきません。ただ本当の意味で価値のある支援を行うためにも実行していきたいですね、できるだけ。来年の私自身の課題の一つだと思っています。

 

4.社外専門家の限界

 また前職と現職に共通の課題ですが、やはり難しいと思うのが『社外専門家としての支援の難しさ』です。この領域で活躍されている方とはもう少しディスカッションを広げていきたいとは思いつつ、中々、実現してはいません。私自身も、来年からとあるスタートアップ企業で(かなり社内に近い立場で)知財機能の立ち上げに従事することが決まっています。新たな挑戦として何とか成功させたいところです。

 

5.終わりに

 以上、今年一年のフィードバックと来年への抱負などを簡単にまとめてみました。如何だったでしょうか。

 ありがたいことに一年間多くの依頼をいただきまして、事務所の経営状況は極めて良好です。出願等のメイン業務だけでもかなりの量になっていますので、本当にそろそろ実務のサポートをお願いできる方を採用しないとまずい状況になりつつあります。良い方がいれば是非ご紹介ください。

 

 さて『裏(表)・法務系アドベントカレンダー2020』は、まだまだ続きます。

 当ブログから法務系アドベントカレンダーを知った方は、是非、他の法務系のエントリー記事を見てみてください。法務担当者のリアルな声を聞ける貴重な機会です。

 また、法務系アドベントカレンダーから当ブログを知った方は、是非、知財系の他の記事(知財系のアドベントカレンダーも走っています)を見てみてください。普段と異なる切り口で法律と向き合う機会になるかもしれません。それではまた!

 

 

知財関係者の年収とオマケの話

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1.はじめに

 お久しぶりです。もはやブログの更新はいつぶりでしょうか。お陰様で本業の方が順調なため、なかなかブログを書く時間を取れないというのが現状です。まぁ、ゲームはちゃんとやっているのですが、、、

 今回は8~9月くらいに知財クラスタで大流行した弁理士と収入(お金)の話に言及したいと思います。正直、既に時期を逸した気もするのですが、本業優先のため仕方ないということで。

 

2.問題になったツイートについて

 どのような経緯でツイッターに年収の話が拡散したのか、正確な所は分かりません。また、元ツイートの関係者の迷惑となることも避けたいので、今回は単に『スタートアップ企業を支援するためには平均年収以上優秀な専門家の支援が必要か?』という趣旨の主張の是非を考えたいと思います。まぁ関係ツイートの趣旨を完全に理解できるはずもないですし、私なりに関連ツイートの趣旨を勘案した結果推測した趣旨という形になります、ご了承ください。

 

3.各論

 (1)スタートアップ企業とは

 そもそも論として、スタートアップ企業とは何か。まずはこの認識が統一されていないのが問題なのでしょう。実際にそこまで明確な定義があるわけではないと思うのですが、よくポイントとされる点は恐らく①創業初期(3年程度)の企業であること、②短期間での大きなスケールを目指す企業であること、細かな定義の違いがあれどこの2点かと思います。この時点で認識が大きくずれている人も少なくない気はします。例えば、類似する概念としては、『中小企業』や『ベンチャー企業』などがあると思うのですが、これらの概念はどちらかと言えば中長期にわたりスモールスケールのビジネスを行う企業として定義されることが多いと思います。

 この時点で何が言いたいのかと言うと、一般的にスタートアップ企業として知られているような企業(例えば、メルカリ・フリー・PFN、、、、など)は、どちらかと言えば『元スタートアップ』であり、既に成長段階後期に移行した企業がほとんどであろうということです。

 また別の観点としては、例えば、2~3人の創業期の企業であれば、スタートアップというイメージの方も多いと思います。ただ、そのような企業が全てビックスケールのビジネスに着目し、早期のイグジットを目指しているという訳ではないはずであり、それらの企業は本来的な意味でのスタートアップとは多少異なっているということです。

 近年(特に日本では)はスタートアップという言葉は極めて、広い意味で捉えられています。念のために記載しますが、このような風潮は悪いわけではありません。営業(PR)上、言葉の範囲を広く捉えることは常套手段であり、有効な手段です。ただ、狭義な議論を行う場合には、定義を厳密に捉えなければならないというだけの話です。そのような意味で、スタートアップという概念は、このような概念の言葉として使うべきだと思いますし、相違点があるのであればその点を認識して前提条件を共有すべきです。

 (2)知財としての観点

 ではこのような違いが、知財との関係において何を意味するのか。

 最も大きな点は、創業初期の企業であるため社内に知財的なバックグラウンドがないにも関わらず短期間でのスケールに耐え得る知財を準備しなければならないという点です。

 *まぁ他にも色々とあるにはあるのですが、そこは企業秘密ということにして置きます。

 余談ですが、私は本格的な知財戦略(特許権の取得)は、上場(若しくはそれに準ずる企業規模)時点で用意される必要があるという前提でそこに間に合うように逆算して知財戦略を構築することにしています。その意味で、例えば、一般的な中小企業などの支援を行う場合、『社内に知財的なバックグラウンドがない』という問題は共通する場合も多いのですが、時間的な余裕があるためゆっくり時間をかけてサポートを行っていくということが可能です。このような支援は、割と従来の知財関係者の中でも詳しい方は多いかと思います。

 

 (3)スタートアップの支援に特別な能力は必要か

 正直に言ってよく分かりません。

 基本的には『知財屋』として必要な能力は通常の企業でもスタートアップでもあまり変わらないような気はします。そうでなければ、『知財屋』は通常の企業とスタートアップの両方を支援することが難しいという結論になりそうですが、流石にそれはないでしょう。

 ただ、やはりいくつか必要な知識はありそうです。少なくとも、①幅広い法律知識と、②ファイナンスや市場に関する知識については、スタートアップの支援をする場合には、深い知識が求められる気がします。

 多くの場合中小企業などでも問題になると思うのですが、社内に知財的なバックグライドがない(少ない)以上、必然的に専門家側にその分の負荷が生じることになります。言い換えれば、法律的(若しくは結果的)にグレーな判断をしなければならないことも多く、通常よりも幅広い法律知識が必要となる気はします。また、特徴的な点はファイナンスや市場に関する知識です。スタートアップの多くは、短期間での成長を目指すという目的から多くの場合『借り入れ』などではなく、VCなどからの『投資』による資金調達を行います。また、そのような資金調達を繰り返しながら短期間での成長する(少なくともそれを目指している)ため、特にスタートアップにとって大きな費用負担となる知財戦略は、資金調達と極めて深く関係します。

 まぁ実際には、会計士や弁護士がこの領域の仕事を行いますから、あくまでも『競走できるだけの知識』があれば十分だとは思いますが、大手企業の明細書とはやはり違う能力が必要なように思います。

 

 (4)年収と能力の関係は?

 まぁ多くの方が気にしてる点はここでしょうね。上述の通り、スタートアップ(若しくはスタートアップ候補)の支援には、一般的な企業(特に明細書作成業務)とは異なる能力が必要というのは間違いないと思います。ただ、私の中では、どちらかと言えば選択的な話で、年収の問題ではないように思います。例えば、外内を中心にやっている弁理士の方であれば、年収2000万程度の優秀な方が数多く存在していますが、そのような方がスタートアップの支援に適性があるかと言えば、別にそういう話ではないはずです(元々そういう趣旨での発言でもないでしょうし)。

 

 (5)その他

 とは言え元ツイートを好意的に解釈すれば、やはり主張のポイントは、『スタートアップの知財が如何に重要なのか』ということなのでしょう。まぁ結構な割合はポジショントークな気はしますが、例えば、FBやGoogleなどの創業初期の知財戦略を全て自分が担当すると思えば、どのような状況か想像ができるかもしれません。まぁ荷が重いですね普通に。

 本来的なスタートアップの支援がこのような状況と理解すれば、決して大げさな話ではなく起こり得る話なのは確かです(まぁ確率的には極めて低いと思いますが)。

 ただ、正直、私が仮にFBやGoogleの創業初期に(社内で弁理士ではない立場で)関わるとすれば、単に単価の高い優秀な個人(事務所)に依頼するかというとそうでもない気がします。

 上述の通り、スタートアップの支援は様々な能力が必要なように思いますが、これらは個人や個の事務所(超大手を除く)でカバーできる領域をはるかに超えており、どちらかと言えば専門家間の連携であり、泥臭い情報共有のように思います。なので個人の能力(そもそも年収と能力の関係性があるかどうかは置いておいて)よりも、そのような泥臭い連携を取ってくれる人かどうかで私ならば考えますかね(逆に、私が支援を行う場合はそこら辺を意識した支援をしています)。

 その意味では、特許庁の支援事業や新規の事務所でもそのような連携を意識した取り組みが増えているのは非常に良い傾向です。

 

4.まとめ

<最後に巡り巡って年収の話>

 という訳でほとんどスタートアップのことを書いてます。まぁ元々の趣旨が明らかにスタートアップ支援の話をしていますからね。にもかかわらず年収の話が先行するという状況でしたね。極めてネット的な現象だなぁと思いながら見物していました。

 とは言え、やはり年収の話が一番受けると思うので、次回、年収の話をちゃんと書きます。一点大きいのは、『弁理士(知財屋)の年収とは何か』という点です。例えば、弁理士でも億単位の収入を得ている人は普通にいますし、高額納税者として有名な方もいます。ただ、この方々の多くは、事務所の『経営』による収益であったり、個人資産の運用により利益を出しているような場合がほとんどです。同列に議論する意味あるかなぁ、と思うのでそこら辺を少し整理しようかなぁという感じです。例の如く次の更新がいつになるかは謎ですが、コメントやツイッターのDMなどを貰えれば書く気になるかも知れないので、是非、感想などがあればお知らせください。それでは。

書籍紹介:『ロボジョ! 杉本麻衣のパテント・ウォーズ』

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1.はじめに

 例の如く、更新まで時間が空いてしまいました。そんな状況でも、気楽に書けるのは、書評ということで、今回も書籍の紹介になります。

 

(タイトル)『ロボジョ! 杉本麻衣のパテント・ウォーズ』

(著)稲穂健一

(出)楽工社

 

 知財関係者の間では、かなり話題になっていました。『女子大生マイの特許ファイル』のあの方の最新作と理解しています(という理解で良い?)。

 『ビジネス教養としての「知財」の基本が楽しくわかる。発明×青春ミステリー!』ということで、知財の要素が含まれたミステリー小説のようです。やはり知財業界の片隅にいる身として啓蒙活動は大事です。ノンストップで購入しました。

 

2.書評

 所要時間:5~10時間程度

 ターゲット:新社会人や大学生?

 満足度:4.0/5

 感想:気楽にサクッと読めるミステリー小説という印象です。普通に楽しめましたが、知財色は薄いかもしれません。知財本というよりは知財を題材にしたミステリー小説なのでしょう。

 その意味で良かったのが、巻末に収録されている『ストーリーに沿って解説!知的財産権入門コラム集』です。やはりこの手の作品で知財色を出しすぎてしまうと、どうしてもストーリーが不自然になってしまったり、『知識』の部分が強調されすぎてしまうことが多いと思うのですが、本書では、そのような問題を防ぐために基本的に知識の要素を巻末にコラムとして収録したという建て付けのようです。

 ビジネス教養というワードがコンセンプトに含まれている点を見ると、大学生や新社会人の方を読者として想定しているのではないかと思うのですが、もしかすると中学生や高校生に知財という概念を伝えるのに適した本ということができるのかもしれません。

 

3.その他

 1)『機械学習エンジニアのための知財&契約ガイド』の出版(オーム社,2020年7月22日発売)

www.ohmsha.co.jp

 2)月間パテント誌への寄稿(『esprts』の現状と今後,2020年8月号)

 

 3)youtube番組への出演(2020年9月9日予定,2020年10月22日予定)

youtu.be

 4)某検討会(経済産業省)の委員選任(2020年8月~)

 

 ということで告知になります。事務所経営とあまり関係のない?仕事が溢れていますが、粛々とやって行きましょう。詳細は決まり次第、当ブログまたは渡辺総合知的財産事務所のHP内にてお知らせします。

 なお、読みたい記事の要望があれば、是非、ツイッターなどでご連絡ください。やはりネタ探しが一番の鬼門なので、テーマさえ決まれば少しは記事を書く気になるかもしれません(笑)。それではまた次回。

『コロナ禍収束後の知財業界』の変化と未来

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1.はじめに

 さて、前回のブログ更新はいつのことか、本業の方も相変わらず忙しく、このような機会でもなければさらにブログの更新は遅れていたことでしょう。

 という訳で今回は『弁理士の日記念ブログ企画2020』への参加投稿としてコロナ禍収束後の知財業界について、思うところを記載したいと思います。まぁ、過去に医学分野いた人間として思うところがないわけでもないのですが、あくまでも経済的な視点(特に知財業界に関係する範囲)で言及します。

 

2.新型コロナウイルス問題の特質

 (1)『オフィスの価値』の変動

 知財業界に最もインパクトを与えるのは、何だかんだ言ってもこの点ではないでしょうか。特に特許事務所の中には、売り上げに対する家賃の比率が極端に高い事務所も少なからず存在しますから、そのような状況がコロナ禍収束後にどのように変化するのか。従業員への還元率(給与)などにも関係してくるかもしれませんし、関係する様々な『相場』が変わるかもしれません。

 かく言う私自身も、今年中にオフィスの移転(拡張)を検討していたのですが、一度オフィスの移転(拡張)を白紙に戻しました。正直、この状況でオフィスの移転を行うという選択はあまり取りにくいですね。相場も大分変っていくでしょうし。

 ただ、一つ考えなければいけないのが、多くの方が述べているように、チーム内のコミュニケーションを図るという意味において、オフィス(オフライン)の場所を持つ価値は決して低くないという点です。この点については、私自身も強く実感しているところであり、言語化できないメリットをないものとして切り捨てるほど、人類は進化してはいないのです。アカデミア時代には毎日のように実感させられたものです。

 まぁ強いていうのであれば、オンラインのコミュニケーションというのは常に積極的であることが前提であるのに対して、オフラインのコミュニケーションは受動的であっても成立します。この違いは、多くの企業にとって小さくない違いを生むはずです。

 問題はオフラインの価値を認めつつ、どれだけのコストをオフィス(家賃)に投資するのかという一点です。下の資料などを見ても、東京の特許事務所の7割近くが千代田区、中央区、港区の3区に集中しているということで、少なくともこの状況はある程度解消されるのではないでしょうか。オフィス移転や規模の縮小を検討する特許事務所はある程度出てくるはずです(業界自体がそれほど景気の良いわけではないですしね)。

 

 (2)リモートワークへの対応と事務所システムのIT

 オフィスの価値と近しい問題ですが、働き方・リモートワークの普及は大きな変化です。ご存じの通り知財業界(特に明細書作成業務)は、場所を選ばず(時間も選ばず・・・)作業をすることが可能です。何かのきっかけがあれば、リモートワークの流れが進むのは当たり前と言えば当たり前です。今後は、仮に事務所は東京にあったとしても、居住地は地方というような働き方も珍しくはなくなるかもしれませんね。

 まぁしょうもない一般論だけを書いても意味はないでしょうから、少し実情にも触れましょう。

 実は最近、かなり歴史の長い大手の特許事務所でもリモートワークが導入され始めているという話を聞くようになりました。正直、驚きました。元々、世の流れに敏感な若い特許事務所であれば柔軟な対応も想定の範囲内ではあるのですが、やはり大手ではなかなか難しいのではないかという印象がありました。コロナ禍収束後には大きな業界のゲームチェンジが起こるかもしれません。『今時WEB会議での面談に対応できないのですか?』というような指摘を受けるのが当たり前になるかもしれませんね。

 

 (3)漠然とした不安と不況への対策

 コロナ禍収束後の問題の中で最も危惧している問題の一つです。現状知財業界には大きな影響はないように思いますが、飲食業や製造業では、深刻な経済的影響が予想されます。残念ながら廃業に追い込まれる企業なども少なくないかもしれません。私、個人としてもできる限り応援していきたいと考えており、できる限りのことは行いたいと考えています。

 しかしこのような状況の中で、『いざという時にきちんと資金をため込んでいなかったのが悪い』、『不況に備えるのが経営者として当然の義務だ』というような指摘がなされることがあります。要はキャッシュを持っていなかったのが悪いという論調です。このような指摘自体に間違いはないでしょうし、私自身に経営責任を問われたなら同じ指摘をされることも否定するつもりはありません。

 ただ、やはり経済の基本思想は『信用』です。お金は使わなければ回りません。企業の内部留保の比率が高まることは、少なくとも日本経済全体として良い方向には進まないはずです。

 その上で重要なことは、政府の事業支援政策であり、何よりもそのような支援政策があるから『ある程度リスクをとっても大丈夫だという安心感』を事業者に与えることだと考えています。

 経験上、今回の各種支援の内容や実行までのスピードは(良い方向で)極めて異例のものです。正直、関係者は相当大変だったと思います。もちろん、これは保障として十分かどうか、諸外国と比較してどうなのか、という話ではなく過去のその他の支援政策と比較してという話です。

 ただ、やはり例のごとく、周知の問題なのでしょう。知り合いの経営者などと話しても効果的に支援の内容が周知され、十分な安心感を与えているのか、というとほとんど効果は出ていないように思います。ここから数カ月で政府(行政)に求められるミッションと言えるのかもしれません。その点がうまくケアされれば知財業界への波及は最小限に抑えることができるのではないかと思います。

 

3.まとめ

 『コロナ禍収束後の知財業界』ということで簡単にまとめてみました。如何だったでしょうか。経営者としての経験がそこまであるわけでもなく、経済にそれほど詳しいわけでもなく、中々、困難なテーマでした。正直、コロナウイルスのディテクトする原理を説明する方がまだ書きやすいかも知れない。

 ただ一点、不幸中の幸いだったのは、昨年の12月に特許事務所を開業したことでした。元々、新しい事務所では請求書や情報管理などを全て電子化し、コミュニケーションツールなども最先端のものを揃えるつもりでいたため、ちょうど色々調べて導入したタイミングで、3月~4月を迎えることになりました。要するに、多くの皆さんより少し先に特許事務所の本質的な機能を見直す機会を得ていたわけです。

 さて、本ブログ執筆時(20206月末)の状況でも、コロナ禍の余波は続いており、まだまだ予断を許さない状況です。皆さんも、まずは自身の健康を大切にして、無理をせずに頑張っていきましょう。

 

下記は、今回のブログ企画のHPです。他にもいろいろな方が参加しているようですので、興味がある方は他の参加者の方のブログも是非ご覧ください。

 

benrishikoza.com

 

書籍紹介:ガイドブック AI・データビジネスの契約実務(商事法務)

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1.はじめに

 例のごとく、久々のブログ更新です。もう少し更新の頻度を上げたいと思いつつ、在宅勤務が続くこの状況では、やはり本業優先という感じでしょうか。

 まぁ今回の内容に関しては、(予想通り)ボリュームがかなりあったので読むのに時間がかかってしまったという点もありました。なお、田村先生の『知財の理論』も既に読み終わっているのですが、まだまだ自分の思考がまとまっていない状況なので、取りあえずは保留しています。

 今回ご紹介する書籍は、

 ガイドブック AI・データビジネスの契約実務(商事法務) (著)齊藤友紀・内田誠・尾城亮輔・松下外

 こちらの書籍は経済産業省のAI・データ契約ガイドラインの4人が執筆した書籍ということで、かなり楽しみにしていました。夫々の執筆者から執筆状況や簡単な内容については耳に入ってきてはいたものの、やはり実際に本を手に取ってみると、また違った心境になります。さてはて、どのような内容にまとまっているのでしょうか。

2.感想

 所要時間:10時間~20時間程度

 ターゲット:データビジネスを扱う企業の弁護士(法務担当者)

 満足度:4/5

 感想:(予想通り)極めて実務的かつ、実践的なノウハウの塊と言い切ってしまって、良いでしょう。

 特に前半部(特に2章の秘密保持契約など)に関しては、知識を習得させるという目的ではなく、それにより議論が起こることを期待しているような、極めて高度でセンシティブな内容です。書籍というよりは、論文に近い内容のように思います。その意味では、例えば一人法務のような組織内で唯一の法律的な(契約上の)意思決定を行わなければならない立場の人にしてみれば、リスクヘッジや責任を含めた極めて実践的な対応を検討する上での示唆を与えてくれる可能性は極めて高そうです。

 一方で、後半部(特に6章のプライバシーポリシーなど)に関しては、比較的ベーシックな内容な記載となっています。この部分を勉強したいなら別の本を読めというメッセージでしょうか。上述のガイドラインもそうでしたが厚い本はやはり読みずらいですからね・・・。という訳で、どこまで本を薄くしたいという意図が反映されているかは分かりませんが、本文のみで180ページ程度と『比較的』読みやすい分量でした(ここは少し意外でした)。

 いずれにせよ、期待通りの良著であり、特にデータビジネスの契約担当者にはオススメできる内容でした。気になる方はぜひ手に取って見てください。

3.まとめ

 在宅勤務の中、時間がいつもよりあるはずなのですが、なぜこのような更新頻度なのか・・・。次回はもう少し早く更新するつもりでいます。

 さて、このような状況の中、7月下旬のセミナーに登壇させていただくことになりました。

内容はやはりAI絡みの話にはなりそうですが、基本的には『知財戦略』のような少しマクロ的なテーマにしようと考えています。普段権利化を扱っていると、どうしても出願や権利化のテーマになってしまうので、戦略レベルの話は久しぶりです。正直、7月下旬だと実際に実施できるかどうか、かなり微妙な気がしますが、せっかくの機会なので、何かしらの形では社会に公表しようと思っていますので、お楽しみに。それではまた。