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一から始める知財戦略

知的財産全般について言及します。

知財関係者の年収とオマケの話

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1.はじめに

 お久しぶりです。もはやブログの更新はいつぶりでしょうか。お陰様で本業の方が順調なため、なかなかブログを書く時間を取れないというのが現状です。まぁ、ゲームはちゃんとやっているのですが、、、

 今回は8~9月くらいに知財クラスタで大流行した弁理士と収入(お金)の話に言及したいと思います。正直、既に時期を逸した気もするのですが、本業優先のため仕方ないということで。

 

2.問題になったツイートについて

 どのような経緯でツイッターに年収の話が拡散したのか、正確な所は分かりません。また、元ツイートの関係者の迷惑となることも避けたいので、今回は単に『スタートアップ企業を支援するためには平均年収以上優秀な専門家の支援が必要か?』という趣旨の主張の是非を考えたいと思います。まぁ関係ツイートの趣旨を完全に理解できるはずもないですし、私なりに関連ツイートの趣旨を勘案した結果推測した趣旨という形になります、ご了承ください。

 

3.各論

 (1)スタートアップ企業とは

 そもそも論として、スタートアップ企業とは何か。まずはこの認識が統一されていないのが問題なのでしょう。実際にそこまで明確な定義があるわけではないと思うのですが、よくポイントとされる点は恐らく①創業初期(3年程度)の企業であること、②短期間での大きなスケールを目指す企業であること、細かな定義の違いがあれどこの2点かと思います。この時点で認識が大きくずれている人も少なくない気はします。例えば、類似する概念としては、『中小企業』や『ベンチャー企業』などがあると思うのですが、これらの概念はどちらかと言えば中長期にわたりスモールスケールのビジネスを行う企業として定義されることが多いと思います。

 この時点で何が言いたいのかと言うと、一般的にスタートアップ企業として知られているような企業(例えば、メルカリ・フリー・PFN、、、、など)は、どちらかと言えば『元スタートアップ』であり、既に成長段階後期に移行した企業がほとんどであろうということです。

 また別の観点としては、例えば、2~3人の創業期の企業であれば、スタートアップというイメージの方も多いと思います。ただ、そのような企業が全てビックスケールのビジネスに着目し、早期のイグジットを目指しているという訳ではないはずであり、それらの企業は本来的な意味でのスタートアップとは多少異なっているということです。

 近年(特に日本では)はスタートアップという言葉は極めて、広い意味で捉えられています。念のために記載しますが、このような風潮は悪いわけではありません。営業(PR)上、言葉の範囲を広く捉えることは常套手段であり、有効な手段です。ただ、狭義な議論を行う場合には、定義を厳密に捉えなければならないというだけの話です。そのような意味で、スタートアップという概念は、このような概念の言葉として使うべきだと思いますし、相違点があるのであればその点を認識して前提条件を共有すべきです。

 (2)知財としての観点

 ではこのような違いが、知財との関係において何を意味するのか。

 最も大きな点は、創業初期の企業であるため社内に知財的なバックグラウンドがないにも関わらず短期間でのスケールに耐え得る知財を準備しなければならないという点です。

 *まぁ他にも色々とあるにはあるのですが、そこは企業秘密ということにして置きます。

 余談ですが、私は本格的な知財戦略(特許権の取得)は、上場(若しくはそれに準ずる企業規模)時点で用意される必要があるという前提でそこに間に合うように逆算して知財戦略を構築することにしています。その意味で、例えば、一般的な中小企業などの支援を行う場合、『社内に知財的なバックグラウンドがない』という問題は共通する場合も多いのですが、時間的な余裕があるためゆっくり時間をかけてサポートを行っていくということが可能です。このような支援は、割と従来の知財関係者の中でも詳しい方は多いかと思います。

 

 (3)スタートアップの支援に特別な能力は必要か

 正直に言ってよく分かりません。

 基本的には『知財屋』として必要な能力は通常の企業でもスタートアップでもあまり変わらないような気はします。そうでなければ、『知財屋』は通常の企業とスタートアップの両方を支援することが難しいという結論になりそうですが、流石にそれはないでしょう。

 ただ、やはりいくつか必要な知識はありそうです。少なくとも、①幅広い法律知識と、②ファイナンスや市場に関する知識については、スタートアップの支援をする場合には、深い知識が求められる気がします。

 多くの場合中小企業などでも問題になると思うのですが、社内に知財的なバックグライドがない(少ない)以上、必然的に専門家側にその分の負荷が生じることになります。言い換えれば、法律的(若しくは結果的)にグレーな判断をしなければならないことも多く、通常よりも幅広い法律知識が必要となる気はします。また、特徴的な点はファイナンスや市場に関する知識です。スタートアップの多くは、短期間での成長を目指すという目的から多くの場合『借り入れ』などではなく、VCなどからの『投資』による資金調達を行います。また、そのような資金調達を繰り返しながら短期間での成長する(少なくともそれを目指している)ため、特にスタートアップにとって大きな費用負担となる知財戦略は、資金調達と極めて深く関係します。

 まぁ実際には、会計士や弁護士がこの領域の仕事を行いますから、あくまでも『競走できるだけの知識』があれば十分だとは思いますが、大手企業の明細書とはやはり違う能力が必要なように思います。

 

 (4)年収と能力の関係は?

 まぁ多くの方が気にしてる点はここでしょうね。上述の通り、スタートアップ(若しくはスタートアップ候補)の支援には、一般的な企業(特に明細書作成業務)とは異なる能力が必要というのは間違いないと思います。ただ、私の中では、どちらかと言えば選択的な話で、年収の問題ではないように思います。例えば、外内を中心にやっている弁理士の方であれば、年収2000万程度の優秀な方が数多く存在していますが、そのような方がスタートアップの支援に適性があるかと言えば、別にそういう話ではないはずです(元々そういう趣旨での発言でもないでしょうし)。

 

 (5)その他

 とは言え元ツイートを好意的に解釈すれば、やはり主張のポイントは、『スタートアップの知財が如何に重要なのか』ということなのでしょう。まぁ結構な割合はポジショントークな気はしますが、例えば、FBやGoogleなどの創業初期の知財戦略を全て自分が担当すると思えば、どのような状況か想像ができるかもしれません。まぁ荷が重いですね普通に。

 本来的なスタートアップの支援がこのような状況と理解すれば、決して大げさな話ではなく起こり得る話なのは確かです(まぁ確率的には極めて低いと思いますが)。

 ただ、正直、私が仮にFBやGoogleの創業初期に(社内で弁理士ではない立場で)関わるとすれば、単に単価の高い優秀な個人(事務所)に依頼するかというとそうでもない気がします。

 上述の通り、スタートアップの支援は様々な能力が必要なように思いますが、これらは個人や個の事務所(超大手を除く)でカバーできる領域をはるかに超えており、どちらかと言えば専門家間の連携であり、泥臭い情報共有のように思います。なので個人の能力(そもそも年収と能力の関係性があるかどうかは置いておいて)よりも、そのような泥臭い連携を取ってくれる人かどうかで私ならば考えますかね(逆に、私が支援を行う場合はそこら辺を意識した支援をしています)。

 その意味では、特許庁の支援事業や新規の事務所でもそのような連携を意識した取り組みが増えているのは非常に良い傾向です。

 

4.まとめ

<最後に巡り巡って年収の話>

 という訳でほとんどスタートアップのことを書いてます。まぁ元々の趣旨が明らかにスタートアップ支援の話をしていますからね。にもかかわらず年収の話が先行するという状況でしたね。極めてネット的な現象だなぁと思いながら見物していました。

 とは言え、やはり年収の話が一番受けると思うので、次回、年収の話をちゃんと書きます。一点大きいのは、『弁理士(知財屋)の年収とは何か』という点です。例えば、弁理士でも億単位の収入を得ている人は普通にいますし、高額納税者として有名な方もいます。ただ、この方々の多くは、事務所の『経営』による収益であったり、個人資産の運用により利益を出しているような場合がほとんどです。同列に議論する意味あるかなぁ、と思うのでそこら辺を少し整理しようかなぁという感じです。例の如く次の更新がいつになるかは謎ですが、コメントやツイッターのDMなどを貰えれば書く気になるかも知れないので、是非、感想などがあればお知らせください。それでは。