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一から始める知財戦略

知的財産全般について言及します。

特許弁理士の選び方

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1.はじめに

 

 以前のブログで、知財に慣れていない方には、まずは大手の特許事務所がおすすめであるということは述べました。基本的にはその主張の通りなのですが、例えば、「大手の特許事務所に不満がある」、「慣れてきたので中小の特許事務所も検討したい」という方に向けた内容です。

 特許事務所を選ぼうと特許事務所のHP等を見てみると、調査・コンサルティング、商標登録出願、意匠登録出願、特許出願、訴訟、鑑定、、、どのような依頼でもお受けします。と言うような形で、どのHPを見ても同じような内容が記載されていて違いが分からない、というのが正直な感想ではないでしょうか。まぁ弁理士である以上、知的財産に関係する業務を最低限行うことができるというのは間違いではないのですが、やはり弁理士毎に特性や得意・不得意があるのは当然です。

 今回は、最も大きいところで、特許出願業務における専門性について簡単に説明します。できる限り客観的な情報のみを提示しますが、そうは言っても私の個人的な見解ですので、最終的な判断は各自でお願いします。

2.特許弁理士の専門性

 

 まずよく言われるのが、「技術分野」の専門性です。自然科学の領域は極めて広く、すべての領域を一人でカバーできるということは極めて稀です。行ってきた業務の内容や学生時代の専攻等によって、弁理士毎に得意とする技術分野が異なります。

 従来は、「電気・電子」、「機械」、「バイオ・化学」の3つの類型で技術分野を分類するのが、一般的でしたが、最近はCS(コンピュータサイエンス)分野の発展もあり、「電気・電子」、「機械」、「バイオ・化学」、「ソフトウェア」の4つの類型に分類するのが一般的です。

 ここで、明細書の作成を行う弁理士に必要な知識は、必ずしもエンジニアや研究者と同等の「詳細な技術的知識」ではありません。あくまでも弁理士に求められるのは知的財産の知識ですから基本的にはどのような技術分野であってもある程度の対応は可能です。

 しかし、例えば、コンピュータサイエンス分野の発明であるにもかかわらず、出願人が弁理士に対して「サーバ」や「クライアント」といった基本的な用語の概念から説明していたのでは時間がいくらあっても足りません。

 また、「詳細な技術知識」はともかく、当該技術分野の明細書の流行や特許庁の審査の感覚を分かっているかどうか、は明細書の作成において重要ですし、当該技術分野における基本的なビジネスモデル競合プレイヤーの状況等を知っておくことは、発明の発掘や抽出において大きな意味があります。

 このような事情から、多くの特許弁理士は、ある程度自分の得意分野を限定して業務を行っています。重ねて言いますが、弁理士であれば自分の得意分野以外でなくともある程度の対応は可能ですし、学生時代の専攻が全てという訳でもありません。ポイントは、むしろ弁理士が「直近のトレンド」を分かっているかどうかです。

 なお、個人的な見解ではあるのですが、あまりにも自分の専門に近い(必要以上に詳細な知識を有していると)と、逆に固定観念から柔軟な発想が妨げられたり、特許性の判断に必要以上にバイアスが掛かってしまったり、必ずしも望ましくないと考えています。

3.主とするクライアントの種別

 

 もう一つあるのがどのようなクライアントの案件を主として業務を行っているのか、という点があります。なぜこのような観点が重要かというと、クライアントの種類によって、弁理士に求めるスキルが大きく違うため、それに対応する弁理士のスキルにも大きく影響を与えるためです。

 (1)明細書職人系の弁理士

 例えば、社内に知財担当者を多数抱えるメーカー等では、社内で十分に発明の内容や出願の方針を検討した上で「発明報告書」というものを作成するのが一般的です。

 そのため、このような企業をクライアントに持つ弁理士や特許事務所では、変に発明の内容に口を出すことは求められておらず、「ミスなく効率的に発明報告書に基づく明細書を作成する」ことが求められます。まさに明細書を作成する「職人」のイメージです。

 (2)発明発掘系の弁理士

 一方で、社内に知財担当者がいないような中小企業やスタートアップ企業では、発明が何かが曖昧な状態で研究開発を行っていることがほとんどですから、発明報告書を作成することはできませんし、むしろ発明の内容を一緒に固めて行くような作業が発生することになります。このような企業を得意とする弁理士は、明細書の作成も勿論行うのですが、どちらかと言えば出願人の意図を読み取ったり、発明者からうまく情報を引き出すようなヒアリングの能力に強みがあることが多いです。

 要は、同じ特許出願という業務であっても、求められるスキルや業務の内容が実は結構異なるんですよね。だからこそ料金にも結構ばらつきがあります。

 

4.まとめ

 

 以上、特許弁理士のスキルについて簡単に説明しましたが、どうだったでしょうか。経験の長い弁理士であれば、ある程度色々な対応が可能ですし、あくまでも判断の基準にしていただければ幸いです。なお、今回は説明を行いませんでしたが、意匠、商標、知財DD、ライセンス交渉等といったさらに異なる業務を得意とする弁理士も存在します。機会があれば、そのような弁理士のスキルについてもできる範囲でご紹介できればと思います。

 

*余談ですが、私自身は、上述の分類で言うソフトウェア分野の発明発掘系の弁理士になるかと思います。