IPランドスケープとパテントマップ
1.はじめに
先日のブログでも紹介したように、知財業界では、IPランドスケープという用語が流行っている訳ですが、その多くに「パテントマップ」という技術が利用されています。今日はこのパテントマップを簡単にご紹介したいと思います。
2.パテントマップの定義
特許庁によれば、このパテントマップの定義は、特許情報整理・分析・加工して図面、グラフ、表などで表したもの(特許庁:技術分野別特許マップ,1997~2000)、と定義されています。一言で言えば、パテントマップとは、「特許情報を見える化したもの」です。
つまり、パテントマップの価値を知るためにも、まず特許情報とは何かを知らなければなりません。
3.特許情報の価値
この特許情報の価値の根源にあるのは、出願公開という制度です(特許法第64条第1項等)。簡単に言えば、日本国内でなされた特許出願は、出願から1年6月を経過すると、その内容が公開公報により公開されます。特許出願は、各出願人(企業)の重要な技術情報は勿論、どのような分野の技術なのか、その量や比率はどうなのか、といった事業戦略や技術戦略に関わる様々な情報を含みます。そして、このような特許出願は、国内だけでも毎年30万件以上行われているのですから、使い方次第では有益な情報が得られることは簡単に想像できるでしょう。
さらに、このような特許情報は、特許庁により基本的に無料で公開されていますので、誰でも自由に取得することができます。ただし、パテントマップを含む統計的な解析を行う場合には、流石にやりずらいので有料のDBやソフトウェアを使って、パテントマップを作成するのが一般的です。
4.パテントマップで結局何ができるのか?
例えば、一例をご紹介します。基本的には特許情報からどのように情報を抽出するかですから、使い方はいくらでもあり得ます。
(1)競合企業の出願動向を分析する。
競合企業の出願状況や出願内容を時系列的に検討することで、競合会社の技術水準や技術開発の動向等を明らかにすることができるかもしれません。このような分析は、例えば、研究開発の方向性を決める上で利用できる可能性があります。
具体的には、例えば、A社では、ある技術分野の特許出願を積極的に行っていたにもかかわらず2011年以降はほとんど特許出願が確認できないような場合、A社は当該技術分野から撤退したのかもしれません。また例えば、商社であるB社がある技術分野の特許出願を行っているとすれば、当該技術分野への参入を考えているのかもしれません。さらに言えば、そのような場合は、技術系のスタートアップ企業との共同出願だったりするかもしれませんね。いずれにせよ、そのようなイメージです。
(2)自社が参入予定の業界のプレイヤー動向を分析する。
参入予定の分野の出願状況を把握することで、当該分野の技術的な勢力図を把握することができます。勿論、技術的な勢力図と実際の売上等の勢力図で違いは出るものの、そのような違いも含めて、業界参入の意思決定に利用することができるかもしれません。
具体的には、例えば、上述の分野が、市場規模の割には全体的に特許出願が少なく、市場を席巻しているプレイヤーが単なる営業力(先行者利益)のみで市場をリードしているとします。例えば、このような場合であれば、革新的な工夫により権利範囲の広い特許権を取得することができれば、市場バランスを大きく変えることができるかもしれません。
(3)自社の出願方針を決定するため、業界の技術動向を分析する。
技術領域毎の出願状況を把握することで、自社の出願方針の決定のために利用することができるかもしれません。具体的には、例えば、半導体の製造方法において、A方法、B方法、C方法に関連する手法が知られていた場合、A方法やB方法については特許出願がされているが、C方法に関連する特許出願はほとんどされていないということが分かったとして、「C方法に関連する領域では比較的広い範囲の特許権を取得できる可能性があるので積極に出願していこう」というようなイメージです。
これらはあくまでも一例です。最近はパテントマップの種類も増え、ビジュアルもかなり分かりやすいものが増えてきましたので、より自由度の高い解析が実現できるようになってきました。
ただし、重要なことは、あくまでもパテントマップはツールであり、特許情報の本質(どのような情報が取得できるのか)を理解した上で、解決したい課題や目的に応じて、うまく使い分けるという発想です。そうすることで、初めて特許情報が、事業課題や経営課題と結びつくためです。
最後に、下記に必要なツールの情報を張っておきますので興味がある方はご覧ください。なお、本来はマップのサンプルを見るとわかりやすいのですが、著作権の関係で差し控えています。