「先行技術調査と権利侵害調査」の違い
1.はじめに
皆さま、お気づきのことかとは思いますが、ブログの更新頻度が下がっていますw
理由は当然、新規事務所の立ち上げのため色々と奔走している訳ですが、少しづつ仕事が入ってきていることもあり、中々思うように作業が進みません。正式に公開できるのはやはり12月になりそうです。一から何かを始めるというのはやはり色々と大変ですね。
さて、それは言っても一つ面白いネタを見つけたので、気合を入れてブログを書くことにします。テーマはずばり「先行技術調査と権利侵害調査」の違いです。実は、これ私がつけた題目ではなく検索技術者検定という試験の過去問題です。ネットで論点まで公表されていたので、面白そうなので、実務的な観点も踏まえて検討をしてみることにします。
2.問題
具体的な問題は以下の通りです。
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出願前の先行技術調査と権利侵害調査について以下の問いに答えなさい。
①それぞれの調査目的を違いがわかるように説明しなさい。
②それぞれの調査において,検索式を作成する場合の注意点を違いが分かるように説明しなさい。説明には「再現率」,「適合率」の用語を必ず用いなさい。
③「再現率」,「適合率」の意味を説明しなさい。
④それぞれの調査において,作成した集合をスクリーニングする際の注意点を違いが分かるように説明しなさい。
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ぱっと見で、めちゃくちゃいい問題ですね。数学的な知識と特許の知識いずれもある程度見ることができますし、必要な項目を論理的に説明できるかどうかを問う点も良いですね。さて、これを即答できる実務家(サーチャー)はどのくらい居るでしょうかね(笑)。
ちなみに再現率と適合率の意味自体はすぐにイメージできましたが、用語自体は知りませんでした。もしかしたら、大学院の講義でやっていそうな気はするけど、どうでしょうね。
3.解答
これに対して、解答例がこちらです。
<ポイント1>
例えば,以下の内容について,それぞれの違いが説明されていること。
・出願前の先行技術調査の目的は,完成した発明の特許性の有無を評価することである。
・権利侵害調査の目的は,事業実施に先駆けて他社権利の侵害の有無を確認することである。
<ポイント2>
例えば,以下の内容について,それぞれの検索式作成時の注意点が説明されていること。
・出願前の先行技術調査は,その調査目的に鑑みて調査効率を重視する必要がある。そのため,適合率を上げる工夫が必要となる。したがって,むやみに調査範囲を広げるのではなく,発明を構成する要素を限定して検索範囲を絞るような検索式にする。
・出願前の先行技術調査では,生死の状況にかかわらず,特許を調査対象とする。
・出願前の先行技術調査では,調査期間(遡及期間)は原則として限定しない。
・権利侵害調査は,他社の特許について漏れを生じさせないよう,再現率を上げる工夫が必要となる。したがって,多少のノイズが含まれるとしても検索条件を広めに設定する。
⇒(コメント)理屈としては、この通り実際に再現率を上げる工夫は、それこそケースバイケースですね。また結局、真値は不明ですから料金や調査範囲との関係も重要です。割とスキルの差が出やすいかもしれませんね。
・権利侵害調査では,公知技術の範囲まで広げる必要はなく,実施内容のうち権利侵害の対象となる観点を明確にしておく必要がある。
⇒(コメント)実務上一番問題になる部分ですね。調査結果は、あくまでも対象の観点についての結果であるという点は、十分に理解する必要があるし、(クライアント等に対して)理解させる必要がある部分です。
・権利侵害調査では,調査実行時において生存している特許を調査対象とする。
・権利侵害調査の調査期間(遡及期間)は,原則として権利存続期間(日本特許では出願から20年)とする。
⇒(コメント)ここら辺は当たり前ですね。弁理士やサーチャーでなくても最低限把握しておいてほしいところです。
<ポイント3>
例えば,以下の内容について説明されていること。
・再現率とは,検索対象集合の中にある適合レコードをどのくらい検索することができたかという比率である。
・適合率は精度ともいい,ヒットした回答集合の中に適合レコードがどのくらい入っていたかという比率である。
⇒(コメント)権利侵害調査において、結局、真値はわかりませんから中々難しいところですね。興味がある方は、別途、勉強してみてもいいかもしれません。
<ポイント4>
例えば,以下の内容について,それぞれの違いが説明されていること
・出願前の先行技術調査では,全文を対象にスクリーニングを行う。
・出願前の先行技術調査では,当該発明と同一の内容が開示されている文献が1件でも見つかればそれ以上調査を続行する必要はない。
⇒(コメント)まあその通りなのですが、実務的には「完全に同一の内容」が開示されるということは考えにくいですし、上述の観点は絶対的なものではなく、違う観点として検討するということも当然あり得ます。なので、実際的には、調査したほうが良いと思います。
・権利侵害調査では,特許権である特許請求の範囲を重点的に確認する。
⇒(コメント)まあ重点的にとあるから良いのかもしれませんが、将来的に請求項に上がる可能性があり得れば全て確認したいところです。分割等についての知識も必要ですし、データベースへの登録漏れ等のリスクも考慮したいところです。
・権利侵害調査では,権利侵害の危険がありそうな特許は漏れなく確認する必要があるので,回答集合は全てスクリーニングを行う。
このような論点を問うていたようです。あくまで試験的な発想で捉えなければいけない部分もありつつ、概ね妥当な論点かと思います。
4.最後に
どうでしたかね。こんな良問が出るなら検索技術者検定を受けてみてもいいかもしれない(実は知りませんでした)。
また、気が付いている方も多いと思いますが、プロフィールにイラストを追加しました。ココナラで頼んだのですが、非常に良く特徴を捉えていただいており、とても気に入っています。
最後に告知です。ツイッターで話題になっていた「裏」法務系アドベントカレンダーという企画に参加させていただくことになりました。やっぱ法務の方は色々と勢いがあっていいなぁと思いつつ、せっかくだし面白いことをやろうと画策しています。それではまた。