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一から始める知財戦略

知的財産全般について言及します。

弁理士試験 口述試験のポイント解説!(前編)

1.はじめに

 元々書くつもりはなかったネタなのですが、タイムリーな話題なので乗っかることにしました。

   私自身、某受験機関の講師をやっており(別に隠す話でもないのですがどこまで書いてよいのかわからないため)口述模試や練習会等の試験官という形で300人ぐらいは口述試験の指導を行ってきましたので、ある程度信頼性の高い情報は提供できると思います。

 

2.口述試験とは?

 口述試験は、毎年ホテルの部屋の一室等で行われ、受験生一人に対して、主査と副査の最低2名の試験官が口頭で問題の内容を伝え、受験生は一つ一つの問題に解答していくという形式の試験です。そして、口述試験は概ね10分程度で行われ、原則として制限時間内に用意されたすべての問題(10題程度)に解答する必要があります。

 また、この試験では、受験生が問題に対する正解を答えることで初めて次の問題が伝えられるため、受験生が正解を答えられなかったり、正解を答えるまでに時間がかかってしまうと、用意されたすべての問題に対して解答することができなくなってしまいます。

 そのため、明確にそのような決まりがある訳ではありませんが、例えば、「受験生がすべての問題に解答することができれば(時間が余ると雑談がされることが多いようです)」その科目は合格していると考えられますし、「終了の合図の時点ですべての問題に解答しきれなければ」その科目は不合格である可能性が高いと言えます。なお、実際の試験では、3科目中2科目以上合格していれば、口述試験は合格となります。

 ただし、年や状況により異なる形式で出題される例もあるとは聞いていますので参考程度でお願いします。

3.口述試験の特徴

 私の考える口述試験の特徴は、①解答のチャンスが複数回与えられる②すべての問題に解答しなければならない、③口頭で解答を伝えなければいけないという3点です。特に①及び②は、口述試験の勉強法に直結する非常に重要な特徴です。

 まず、口述試験は、試験官と受験生の会話(やり取り)により行われます。つまり、受験生が不十分な解答をしたり、問題の趣旨をはき違えた解答をした場合、試験官は想定した解答に至りやすいような(例えば、条件を限定できるような)「助け舟」を出すのが一般的です。このような形で、何度かやり取りを行い、受験生が最終的に正解に至ることができれば(時間を消費するにしても)、その問題は及第点ということになります。

 そして、①の裏返しになりますが、一問でも解答できない問題にあたった場合、受験生がその問題の正解を答えるまで、その問題の時間が続くため(状況によってはわからない問題を飛ばしてくれますが、最後に戻ってくる等)、最終的には時間切れになってしまいます。

 また、それほど問題になることはありませんが、「緊張して声が出なかったり」、「動作や癖が悪い印象を与えてしまった」といった一般的な面接のような要素もあります。

4.口述試験の問題

 さて、では口述試験にはどのような問題が出るのかということですが、口述試験の問題は基本的に以下の4つの分類に分けられると思います。なお、説明の便宜上、分類しただけで分類自体に大きな意味はありません。

  ⅰ)条文の暗唱

 例えば、「特許法29条1項の内容を条文に即して説明してください」と言うような問題です。

  ⅱ)趣旨(青本)

 例えば、「特許法の趣旨を答えてください」と言うような問題です。

  ⅲ)簡単な知識問題(原則、論文試験の知識で対応可能なもの)

 例えば、「最初の拒絶理由通知が通知された後に、補正できる内容にどのような制限が課されますか」と言うような問題です。

  ⅳ)事例(原則、論文試験の知識で対応可能なもの)

 例えば、図のようなものが提示されて、その事案に即した解答を行うような問題です。

 口述試験には、このような問題が複合的な形で出題されます。口述試験を受けるのは、既に論文試験を突破されてきている方々ですから、実際に過去問を見たり、模擬試験を受けたりすればすぐにイメージはできると思います。

  

スタートアップに必要な「知財戦略」(基本編:その1)

1.そもそも知財(知的財産)って何?

 例えば、日本弁理士会の説明を見ると知財とは、「人間の知的活動によって生み出されたアイデアや創作物などには、財産的な価値をもつものがあります。そうしたものを総称して「知的財産」と呼びます。知的財産の中には特許権や実用新案権など、法律で規定された権利や法律上ほどされる利益に係る権利として保護されるものがあります。それらの権利は「知的財産権」と呼ばれます。」と説明されています。

 簡単に言えば、例えば、抽象的なアイデアやノウハウなどの無体物が知財であり、知的財産権とは、それらを保護する権利と言えます。中小企業やスタートアップ企業であれば、特に重要なのは特許権と商標権だと思うので、後で簡単に解説します。正直な話、我々のような知財を日常的に扱っている人間でも、割と適当に使ってしまう言葉ではありますから、今の時点では、そういうものなのかという理解で大丈夫です。

 ちなみに日本弁理士会とは、知的財産に係る手続きの代理業務を行う国家資格である「弁理士」を束ねる組織であり、原則として、すべての弁理士は日本弁理士会に所属することになります。

 

2.特許権って何?

 こちらも例えば、日本弁理士会の説明を見ると特許権の保護対象となる特許とは「発明と呼ばれる比較的程度の高い新しい技術的アイデア(発明)を保護します。「物」の発明、「方法」の発明及び「物の生産方法」の発明の3つのタイプがあります。」と説明されています。

 これを見る限り、どうやら特許は、「発明(技術的アイデア)」を保護するものであり、物、方法、物の生産方法という3つの種類の発明の種類があるんだなということが分かります。

 この説明は、決して悪い説明ではありません。むしろ分かりやすく説明されていると思います。しかし、そもそも「発明」ってなんだろうという、至極当然な疑問です。

 この点、特許法では、発明とは「自然法則を利用した技術的思想のうち高度なもの」という定義がされています。余計にわからない、、、、おっしゃる通りかと思います。

 ここで、重要な点は、「発明」と呼ばれる特許法の保護対象が、これだけよくわからないものだということです。もちろん、実務的にある程度の切り分け(これは発明になるだろう、これは難しいとか)は確立されてはいるのですが、やはり曖昧な部分は残るし、弁理士により判断が異なることがあるのも当然だということです。冷静に考えれば、目に見えない抽象的な思想を言語化して法的に保護しようというのですから、そんなに簡単に切り分けできるはずはないのです。この発明というものの意味については、非常に重要ですので、詳細は応用編等、別の機会にもう少し詳細に検討します。

 

3.商標権って何?

 こちらもまずは、日本弁理士会の説明を見てみましょう。余談ですが、このような基本的な知的財産(権)の説明は、日本弁理士会や特許庁といった公的な組織が丁寧な解説を行ってくれている場合が多いので、参考にしてみてください。

 話を戻すと日本弁理士会の説明を見ると商標とは、「商品又はサービスについて使用する商標に対して与えられる独占排他権で、その効力は同一の商品・指定商品等だけでなく、類似する範囲にも及びます。商標として保護されるのは、文字、図形、記号の他、立体形状や音楽等も含まれます。」と説明されています。

 ざっくりと説明すると、商標とは、類似する商品やサービス群の中で夫々の商品やサービスを識別する文字であったり図形であったりの目印のようなイメージです。例えば、需要者がチョコレートを買おうと思った場合に、値段は勿論、「Godiva」や「明治」といった商品の販売元や商品名を目印にチョコレートを購入すると思います。商標とは、自身の商品やサービスを、他人の商品やサービスと区別するための指標となる文字や図形であり、商標権者の有する業務上の「信用」を保護するものです。

 基本的に、私のブログでは、特許を中心としたネタを扱っていくつもりですが、商標は、ある意味では特許よりもはるかに重要ですので、どこかの機会で触れられればと思っています。

 

4.知財活動って必要?

 このような特許権や商標権のような知的財産権の取得を目指す活動が代表的な知財活動の一つです。例えば、AmazonやGoogleといった巨大企業であればこのような知財活動は日常的に行われています。しかし、中小企業やスタートアップ企業のような、資金もリソースも限られている企業でも行う必要はあるでしょうか。例えば、「うちは大手企業と違ってお金がないから特許出願なんてできないよ」、「うちの技術は皆に広く使ってほしいから、特許は取りません」と言った声もよく聞きます。次回の「基本編その2」では、この点について言及していきたいと思います。

 

*既に応用編の内容をブログに記載しているのですが、もう少し基本的な内容から記載してみてはという指摘を受けたので、基本編という形で再構成を行うことにしました。応用編との対応関係は、徐々に整理していきます。

*参考HP日本弁理士会:https://www.jpaa.or.jp

 

 

スタートアップに必要な『知財戦略』(応用編:その1)

  1. 知財戦略って何?

 知財戦略という言葉は、割とよく使われます。「うちの会社は、特許は出しているんだけど知財戦略は全然でさ~」、「特許出願とかしたことがないけど、知財戦略ってどうやればいいの?」とか実際によく耳にする会話かと思います。ただ、この「知財戦略」という言葉は割と多義的に使用される言葉であり、上述の2つのセリフを発言した人間もおそらく知財戦略という言葉に全く違う意味をイメージして会話をしているものと推測できます。実際に知財戦略とはどのようなものなのでしょうか。

 

2.一般的な意味での知財戦略

 この点、知財戦略という言葉から多くの人がイメージする内容としては、例えば、競合他社との差別化要素となる重要性の高い特許については他社に対してライセンスを行わないけれども、汎用性の高い基本特許については市場拡大のために無償でライセンスを行うというような、いわゆるオープンクローズ戦略のようなものをイメージするかもしれません。

 また、例えば、PCT出願の移行国をどこにするのか、対象のアイデアをどのような形(切り分け、統合、分割等)出願を行うのか、といったどちらかといえば出願戦略に近いような内容をイメージする人もいるかもしれません。

 このような知財戦略は、社内に弁理士や弁護士を多数抱える大手企業において、多くの人員や多くの時間をかけて検討される内容であり、非常に高度な知財戦略といえます。

3.中小企業やスタートアップ企業における知財戦略

 これに対して、中小企業やスタートアップ企業では、毎年多くの特許出願を行う予算や経験豊富な知財部員(社内リソース)があることはほとんどないと思います。さらに言えば、中小企業やスタートアップ企業の多くは、そもそも弁理士や特許事務所あまり馴染みがなく、知財戦略は勿論、特許出願はしてみたいけれどどうやったらいいのか全く分からない、というのが現実なのかもしれません。

 実際、私自身の印象としても、「特許出願を始めとする知的財産がこれから必要になってくると思うけれども、どうやればいいかよくわからないし、余裕がある訳でもないのでズルズルやらずに来てしまいました」というような状況の会社や、「特許出願自体は何度かしたことがあるんだけれども、実際の明細書もよくわからないし、少なくとも戦略のようなものは何も構築できていない」というような状況の会社が多いという印象があります。

 

4.大手企業と同じような知財戦略が必要?

 大手企業と、中小企業やスタートアップ企業では、目指すべきゴールもかけられるリソースも全く異なります。そもそも、知財戦略は、本来、個々の会社の夫々にあった戦略を構築するべきで、一律にこのような知財戦略を実行するべきという話ではありません。次回以降では、中小企業やスタートアップ企業が知財戦略を構築するために必要な考え方や方法について、少しづつ掘り下げて行こうと思います。

略歴紹介とHP開設の方向性

・略歴:弁理士・知財アナリスト(特許・コンテンツ)。2019年10月末に現在の職場を退職予定。以降は、個人での仕事の依頼を受け付けつつ、複数人で小規模事務所を設立予定。北海道大学大学院(情報)、国立精神神経医療研究センター(神経科学)、都内大手特許事務所。前職では、IT系スタートアップ企業を中心に発明発掘、知財DD、明細書作成業務等を担当。2017年12月より経済産業省「AI・データ契約ガイドライン検討会」作業部会構成員を担当。

 

・これまで行ってきた主な業務(スキルの方向性):明細書作成・発明発掘業務:ソフトウェア分野(ゲーム、AI、ブロックチェーン等)を中心に150件程度。知財DD:遺伝子改変、再生医療、物流、コンテンツ(アニメ・ゲーム)等の分野を対象とした特許調査・解析業務を20件程度。セミナー等:①研究者のセカンドキャリアの形成について、②AI・データ契約ガイドライン解説、③AI分野の知財戦略について、④エンジニア向け知財戦略についてetc。その他、公益業務や執筆業務(下記参照)。

 

・公益業務:文部科学省「地域エコシステム形成プログラム」知財評価担当(正林国際特許商標事務所2016、2017)、経済産業省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」(作業部会構成員)、日本弁理士会「業務標準委員会(2018)」、「技術保護テキスト委員会(2018)」、「経営基盤強化委員会(2019)」。

・執筆活動・論文(知的財産):ポイント解説 AI・データの利用に関するガイドラインAI編についての解説(NBL、2018)、日本弁理士会コラム データ解析に係る保護の可能性(日本弁理士会、2019)。

 

・HP開設の目的:「仕事の依頼を受け付ける」、「知的財産や知財戦略における基本的な知識を普及する」

 

・受けられる仕事:

  1. 知財顧問(知財戦略のアドバイス・立案、知財部員の育成)のご依頼
  2. セミナー・講義のご依頼
  3. 発明発掘
  4. 特許出願用の作成明細書の作成(特許出願業務については要相談)
  5. 特許事務所とのやり取りに関するアドバイス、セカンドオピニオン
  6. その他

 何かありましたら、下記の連絡先又はDM等でご連絡下さい。

mail:t.watanabe@live.jp