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一から始める知財戦略

知的財産全般について言及します。

イベント(AI vs 弁理士)に参加してきました!

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 という訳で、「AI vs 弁理士」のイベントに参加してきました。

prtimes.jp

<概要>

 

 SNSでの宣伝活動もあってか、会場はほぼ満員でした。何より驚いたのは知財関係者以外もそれなりに来ているようで、私の席の周辺では知財関係者の方が少ないという感じでした。色々思うところはあるものの、全体的にイベントとしてうまくまとまっていた印象です。チケットの料金は2500円+ワンドリと比較的高額設定だったものの、場所や演出の凝り方を考えるとやむを得ないかなぁという感じです。Toreruさんは、今後もこういう方向で行くのかな?まっ流行る理由は分かりました。

<レポート>

 

(1)画像商標対決(出演:中村先生)

 「実際に出題された商標画像1つに対し、最も似ている画像を見つけてくる(制限時間10分)。特許庁の審査官が似ていると判断した画像が含まれていれば勝利。(公式より)」

 まずは、中村先生が素晴らしかった。制限時間内にちゃっと正解を拾ってくるということで、あれを外してたらイベントの盛り上がり大分違いましたよね。さて、それはそうとAI側のアプローチです。AI側のアプローチは、課題の画像から候補画像を絞って、エンジニアの方がその中から正解を選べるかというアプローチを取っていました。解説の土野先生も指摘されていましたが、このエンジニアによる選別(敢えて宮崎先生はアドバイスしない)の場面で迷ってしまい、正解にたどり着けなかったようです。候補画像の画像の中に正解の画像は(多分)含まれていたと思うので、実は最終的な絞り込みさえできていれば、AI側の圧勝で終わっていたというような話があったりします。逆に言えば、最終的な絞り込みは人間が行うことを前提として設計されているようですので、その点、使いにくいかも知れませんね(まぁ精度出せてないんでしょう)。ただし、候補の絞り込みまでは非常に早く、多分正解も拾えてるので一次スクリーニングには十分耐えているのかなという印象でした。

 結果:中村先生勝利

(2)類否判断対決(出演:瀬戸先生)

 「実際に出題された商標2つ提示し、それが似ているかどうか(類否)を判断する。(お題10問、制限時間10問)

 まずは、会場参加型にしたの大成功でしたね。非常に盛り上がっていました。

 本題に入ると、こちらのお題は、1問1分ということで弁理士側は、ほぼ直感で答えざるを得なかったと思います。なので、弁理士側がある程度時間をかけられる状況(類似商標や判例の確認ができれば)であれば、正答率は結構変わったでしょう。この状況であれば、一般的な弁理士であっても、商標弁理士であっても、弁理士でなくても、結果にそこまでの差は出ないでしょう(結果を知っていれば別ですが)。

 なお、AI側は、(多分)称呼のみで類否判断を行っているということでした。

 結果は、瀬戸先生が7問正解に対して、AI側が6問正解ということで、弁理士側の勝利ということでした。なお、宮崎先生いわく、大体精度は60%という話でしたので、AI側としては十分満足のいく結果と言うことでした。まあ、十分な精度でしょうね。周りの席の方(弁理士を含む)も大体5~7問くらいの正解の方が多く、基本的には人の判断(直感レベル)と同レベルの精度は出ているという印象を受けました。単に担当者がこの商標通るか分かりませんと進言するよりも、AIのスコアでも持って行って通るかわからないと進言した方が効果的と言うような使い方はあるかもしれません。

(3)識別力対決(出演:岡村先生)

 「実際に出題された商標とその商品・サービスを提示し、特徴があるかどうか(識別力)を判断する。(お題10問、制限時間10分)」

 これはもはやカオスでしたね。制限時間が少ないのも相まって、自身があった人は、ほとんどいないんじゃないですかね。なお、今回の「正解」はあくまでも、ファーストアクションで拒絶理由通知が来るかどうかということらしく、最終的に商標登録が認められたかという話ではないようでした。解説の土野先生も指摘されていましたが、この点も弁理士としてはやりずらい理由ではあったかと思います。

 

<雑感>

 

 一次スクリーニング用のサポートツールとしては、十分機能するという印象を持ちました。実際このツールをどう使うかはtoreruさん次第ですが割とアドバンテージになる気がします(使い方はかなり難しいですが)。少なくとも商標出願業務自体は、差別化が相当難しいですからね。あとデモンストレーションとしては、普通に使えますね。

 以下、気になった点を2つ。どこまで汎用的に使えるのかな?という話です。

 ①お題自体が元ネタは実際の出願なので、トレーニングデータに含まれているような気がする。とすればバイアス若干かかっている気がしなくもない。②出題が25類に偏っていた。類によっては精度出ないとかあったりするのでは?と思わなくもない。まあいずれも誤差レベルだとは思いますが、、、、

 

*記事に間違えがあれば修正するので、お気軽にお知らせください。聞き間違えとか。

ゲーム(e-sports)事業化への道

 

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1.はじめに

 

 昔、昔、AOE(Age of Empires)というゲームがありました。当時、IRCというチャットソフトを使って、10~20代の熱狂的なゲーマー達は、日々しのぎを削ってお互いの腕を磨いていました。そんな中、当時、ハンドルネーム「Halen」という10代の若者は日本代表として世界大会を勝ち抜き(結果的に二連覇)、多額の賞金を獲得しました。まだ、「プロゲーマー」という言葉がほとんどなかった時代の話です。

*念のため、私は別に「Halen」ではなく、彼と同年代の凡庸なプレイヤーです。

 

 はい、という訳で今日から少しづつゲームネタを入れていきたいと思います。上述の通り、私は元AOE(AOC)プレイヤーの端くれでした。それでもそれなりのリソースをかけてプレイしてきたこともあり、当時の仲間の中には、いまだにつながりのある人もいたりします。中々馬鹿になりませんね。プレイヤーとしてのレベルはともかく、少なくとも「ゲームを生活の糧にする」、「ゲームを事業として成立させる」という点については、結構色々と考えてきたので、その観点で少し話をしようかと思います。

*ゲーム以外にもストリートダンス(ハウスダンス)を続けているので、ダンスの事業化(職業化)という観点も少し入っています。

 

2.プロゲーマーってどんな人たち?

 

 そもそもゲームで金を稼ぐということがイメージできない人のために、基本的なプロゲーマーの収入源を少し説明します。

 (1)関係会社の社員

  典型的には、ゲーム雑誌を取り扱う社員やゲーム会社の社員等です。例えば、「高橋名人」なんかが有名でしょうか。現在の感覚で言えば、「プロ」とは言えないでしょうが、今でも大会上位層の結構の割合がこのタイプだと思います。やはり生活が安定します。また、会社によっては、大会への参加費用や練習に割く時間を考慮した対応をしてくれる場合も増えてきているようです。

  ちなみに、上述の「Halen」氏も、(現在も所属しているかは知りませんが)4Gammerに就職したようでした。当時は、完全なプロプレイヤーは相当なリスクですからね。格闘ゲームであれば、当時でもそれなりの仕組みが整っていたのに対して、AOEのようなRTS(Real Time Strategy)ではまだまだ先行きが不安定ということもあったと思います。

 (2)スポンサー契約を行った個人

  本来的な意味でのプロゲーマーは、こちらです。完全に個人としてスポンサー契約をして活動する選手もいれば、例えば、マネージメント会社に所属して活動をするような選手もいます。また、最近では、企業やチームとしてリスクヘッジを行い、選手には毎月固定のサラリーが支払われるようなケースも大分増えてきました。

 

3.近年のゲームを取り巻く環境の変化

 

 私がAOEをプレイしていた当初(約20年前)と比較して、ゲーム(e-sports)を取り巻く環境は大きく変わりました。

 (1)社会的知名度の増加

  これにより、スポンサー参加企業が圧倒的に増えました。最近では、LOL(リーグオブレジェンド)やシャドーバース(収益の分配方式については未確認)のように参加チームを固定してリーグ戦を行うようなモデル(戦績に応じて分配金が支払われる)も増えてきています。このようなスタイルは、通常のプロスポーツの成功例に習い今後も増えていくのは間違いないでしょう。

 (2)Youtubeの浸透

  別にYoutubeに限った話でもありませんが、動画配信を行いそれにより収益を上げる枠組みは、従来は全くないものでした。これは、非常に大きな変化です。大会賞金等とは別に、選手個人が個別の情報発信チャンネルを持ち、さらにそこから収益を得ることができるという意味において、選手の新たな収益源となり得ます。

  また、例えば、ソーシャルゲームやMMOなど競技性の低いゲームであっても収益の可能性を開いたという意味においても、非常に大きい変化だと思います。

 (3)特に若い世代への人気(社会的地位の向上)

  今年もTGS(東京ゲームショウ)に視察(遊び)に行ったわけですが、近年、明らかな変化があります。それは、専門学校や大学の参加数の増加です。勿論、普通にゲームを作るという観点の大学がまだまだ多いですが、プレイヤーの育成を掲げる学校が増えてきているのは確かです。これは、将来的な競技人口を増やすという意味でも有効ですが、引退選手の生活の糧を増やすという意味でも有効です。e-sportsにおいても、引退後の選手のセカンドキャリアの問題は当然生じる話ですから講師になることで生活を安定させることができれば、だいぶ違いますね。今後は、例えば、個人トレーナーとか様々なスタイルが出てくると思います。

 

4.ゲームの特性と事業化への方向性

 

 このように長い年月をかけて、事業化に向けた下準備がやっと整いつつある状況です。しかしe-sportsには、通常のスポーツ等と決定的に異なる点があります。それが、タイトル毎に市場が細分化しており、また新規タイトルが出るごとに新たなタイトルでプレイしなければならないという点です。つまり、通常のスポーツのように固定されたルールの下で長い期間共通してプレイするという環境ではないんですね。また、スポンサーのつき方によって、業界の体制や環境が大きく変わってしまうというような問題もあります。これはプレイヤー側にとっても勿論問題なのですが、事業化(収益化)という観点でも大きな問題となり得ます。

 そこで、e-sportsのタイトルを少しマクロ的な観点で捉えてみたいと思います。例えば、ゲーム(特にe-sportsタイトル)を捉える際に、「技能的要素が強いか、技術的要素が強いか」、「結果の偶然性が高いか、低いか」という二軸で捉えてみるのはどうでしょうか。分かる訳ないですね。詳しく説明します。

 

 (1)技能的要素が強いか、技術的要素が強いか

  一応、一般的な技術と技能の言葉の意味合いで考えているのですが、簡単に言えば、技術は具体的な手段であり言語化や文章化することで比較的容易に伝えることができるものです。

  例えば、カードゲーム等で戦略を練ったり、デッキを構築したりという理論や方法論は、初めてそれを開発する人間にとっては膨大な労力がかかるものの、一度構築された戦略やデッキ編成を容易に伝達することができます。

  他方、技能とは、繰り返し実行することにより経験的に身につくもので、他人への伝達が極めて難しいものです。

  例えば、格闘ゲーム等においても、当然、方法論や戦術論は存在すると思うのですが、そもそも実際に特定のタイミングでミスをせずにコンボを決めたり、コンマミリ秒の単位で正確に操作を行うというようなスキルは、反復練習以外に身に着ける術はありません

  このような違いは、新規プレイヤーが参入するモチベーションや新規参入したプレイヤーが上位プレイヤーに何を望むのかといった点に大きな影響を与えると思います。

 (2)偶然性が高いか、低いか

  これは競技自体のランダム性が高いか低いかという観点です。

  例えば、カードゲームであれば、デッキ構築によりある程度調整はできるにせよ、山札からのドローは基本的に確率論の世界です。そのため、どんな上位プレイヤーであっても、100%の確率で勝てるという話ではなく、あくまでも長期的な勝率の差がプレイヤースキルの差を反映させることになります。その意味では、例えば、麻雀等の方がイメージしやすいでしょうか。

  一方で、例えば、私のプレイしていたRTSにおいては、長期的な序列の入れ替わりはあるにせよ、その時点における結果は、何度対戦を行ってもそれほど大きく変わりません。要は番狂わせというものが非常に起きにくいというイメージです。

  私は、FPSをあまりプレイしないのですが、ゲームの性質を考えると、FPSもこのような傾向は強いのではないでしょうか。実力通りに結果が出るというと一見よさそうにも思うかもしれませんが、番狂わせの少ないゲームというのは見ていてあまり面白いものではありません。結果が初めから分かってしまうのですから。

 

  まとめるとこのような感じでしょうか。正直、分類分け自体にはあまり意味がないのですが、事業化に向けた戦略を考えていたら体系化できそうだったのでまとめてみました。なお、格闘ゲームについて違和感がある人がいるかもしれませんが、起き上がりからの三択に対して、うまくコンボ決めれば逃げ切れるというような感じで、素人が玄人に勝てることはまずありませんが、上位層同士の対戦では、ある程度結果が偶然性で変わるという印象があります。これはゲーム設計上敢えてこのようにしているのでしょうし(タイトルにより差はあるが)、このような偶然性があるからこそ、格闘ゲームは早くからe-sportsとして習熟したのではないかと思います。まあ格闘ゲームはほとんどやらないので、間違っていたらすいません。

 

  さて、ちょいちょいツイッターで流れてくるe-sportsの話題に乗って書いてみました。これでまだ前提ですね。次回以降は、この種別(やタイトル)特有の事情を考慮して事業化に向けた取り組みを少し検討したいと思います。

 

  建前:ゲーム業界に精通していることが分かればゲーム会社からの依頼が来るかもしれない(仕事のうち)。

  本音:知財飽きてきたなぁ。e-sportsの事業でも本格的にやろうかなぁ、、、

  最後に、一応、参考になりそうなHPをいくつか張っておきます。景表法とか法律がらみのところはどこかで別に検討したいなぁと思っています。

note.mu

shori.link

www.4gamer.net

*操作をミスって記事を消しちゃいました。再投稿です。特にせっかくブクマやお気に入りをいただいた方すいません。

退職エントリと現在の状況

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<退職エントリ>

 

 現職の引継ぎも概ね終わり、10月3日をもって3年8ヵ月ほど在籍した正林国際特許商標事務所を退職しました(正式な退職日10月31日)。長いような短いような、7年前に体を壊して研究職を辞めた時は、本当に空が青く見えたもんですが、今回は至って平常運転です。知財業界は平和でいいもんです(スキルや経験が当たり前に金になるって実はすごい恵まれたこと)。

 色々と思うところはあるものの、基本的には円満退職です(内部事情を知りたい方は何処かで飲みにでも誘ってくださいw)。正林国際特許商標事務所では、弁理士としての基本的なスキル(明細書や中間処理等)は勿論、「AI・データ契約ガイドライン」をはじめ色々な経験をさせてもらいました。スキルを学ぶという意味では、これ以上ない職場だったと思います。

 思い起こせば、つい7年前まで、知財の「知」の字も知らなかった人間が、たった6~7年で知財業界の最前線で仕事をしているのですから、本当に人生は面白いもんです(しかも、専門だった神経科学ではなく、CS(コンピュータサイエンス)を専門にして)。

 ここからは、大きな組織を離れてビジネスの現場に本格参入していく訳ですが、どうなることやら、、、まあ楽しみではあるのですが。

 

<現在の状況>

 

 基本的には久しぶりの無職生活を満喫している訳ですが、一応働かないとマンションを追い出されてしまう(奥さんに怒られ・・・)ので、ちょいちょい働いています。

(1)執筆作業:エンジニア向けの知財の解説本のようなものを出版予定です。共同執筆者含めて3人で執筆中なのですが、1月の出版?に向けて鋭意執筆中です。

(2)本業:11月から開始予定の顧問先が若干あります。という訳で、一応、本業も稼働しています(他にもご依頼お待ちしてますよ!)。

(3)新事務所の立ち上げ準備:11月の本格稼働に向けて、準備を進めています。現時点でコアメンバー4人?の共同経営のような形になる予定です。別に情報を敢えて伏せているという訳ではないのですが、共同経営者(予定)があまり情報を出していないので、取り敢えず秘密裏(?)に動いています。

(4)ブログ:何だかんだ結構記事をアップしているためか、アクセスも頂いているようです。グーグル辺りで収益化するのか、事務所の宣伝と割り切ってそのままにするか、現在検討中です。取り敢えず、暇なうちは結構記事は上げると思います。リクエスト等あれば、是非ツイッターやコメント等でお知らせください。

 

 最後にリアルで知り合いの方も、そうでない方も、今後ともよろしくお願いします。

知財(特許)の価値を評価するということ

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1.知財DD

 久しぶりに重めの記事を書こうと思います。皆さんは、知財DD(デュー・デリジェンス)という言葉をご存じでしょうか。知財DDとは、対象会社に対して、出資や事業提携、買収等を行うにさして、(1)対象会社に事業継続上のリスクがないか、(2)対象会社の技術力や将来性の価値が投資額に見合っているか等を知的財産(以下、「知財」と呼ぶ)の観点から確認することです。他にも、実際のM&A等の現場では、法務DD、財務DD等、様々な観点DDが行われます。

 私は、公認会計士でもありませんし、普段そこまでこのような業務に携わることはないのですが、以前、官公庁の入札案件で知財評価の案件等もかなり行っていましたので、知財評価を行う立場としての知財DDの可能性と限界について考えたいと思います。

2.求められる評価

 この点、M&A等の現場で最も求められることと言えば、間違いなく、知財の金銭的な価値評価です。そんなものどうやって算出するの?という疑問が湧いてくるのは容易に想像できますが、実は結構色々な方法が知られています。

  (1)コストアプローチ:知財に支払われたコストに基づいて知財の価値を算出する評価方法

  (2)マーケットアプローチ:類似する取引事例に基づいて知財の価値を算出する評価方法

  (3)インカムアプローチ:知財により得られた収益に基づいて知財の価値を算出する評価方法

 これらの金銭的な価値評価の手法は、公認会計士や研究者が中心となって、研究が進められているものの、やはりハードルが高く、万人が納得するような手法は開発されていないというのが現状のように思います。私自身は、こちらの分野にそこまで明るいわけではないので、あまり深入りするのはやめておくことにします。

3.知財DDの意義

 では知財DDが機能するのはどのような状況でしょうか。一つは、対象会社の事業継続上のリスクを明確化するということは可能です。

 例えば、コアな事業であるにも関わらず、いわゆるFTO(Freedom to Operate)調査を行っていないのであれば、これを行うことで将来的なリスクファクターを洗い出すことができるでしょうし、その対策を講じることもできるかもしれません。

 さらに言えば、大学やスタートアップ企業といった知財・法務機能の強くない組織の場合、例えば、独占的通常実施権の許諾を受けていると思っていたら、実は、「単なる通常実施権の契約しか結べていなかった」、「事業のコアになると思っていた特許権が実は事業の範囲をカバーしきれない内容になっていた」なんてことも普通に起こり得ます。

 このような知財(一部法務も含む)的なリスクを泥臭く洗い出し、それを意思決定者(例えば、投資家等)に対して明示することが知財DDの本質的な役割です。

4.知財DDの限界

 このように、知財DDは、事業継続上のリスクを明確化するという点に関しては、非常に有効に機能します。では、「対象会社の技術力や将来性の価値が投資額に見合っているか」、という問いに対してはどうでしょうか。できることは非常に限られる、というのが正直なところではないかと思います。

 つまり、知財(特許)が本質的に事業上のリスクを減少させるということを主たる機能としている以上、知財の価値というものも原則として、事業計画自体の価値に連動せざるを得ないと言えます(ただし最近では、特許出願の宣伝広告的な価値や社会的な信用力の向上等、間接的な効果も注目されています)。

 最後に、特許庁が面白い資料を作成していたようなので、リンクを張っておきます。誰が書いたのか知りませんが、予想以上にちゃんと書いていますね。

https://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180403002/20180403002-3.pdf

 

特許明細書と論文の違いって何!?

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1.はじめに

 

 今日は、学術論文(以下、「論文」と呼ぶ)と特許明細書(以下、「明細書」と呼ぶ)の違いというテーマについて、言及したいと思います。日常の業務でも非常によく聞かれる話題ですし、あまりうまく説明できないなぁと思っている人も多いのではないでしょうか。別に、これが正解という訳ではないですが、私が普段説明している内容について、簡単にご紹介します。

2.そもそも目的が違う!

 

 論文と明細書は、ともにテクノロジーを対象としている意味で類似しており、両者をそれほど区別せずに認識している方も少ないように思います。しかしながら、論文と明細書は、その目的が大きく異なります。

 まず論文は、多くの場合、無償での公開を前提としており、論文の内容の公開や伝達それ自体を目的としています。一方、明細書は、あくまでも所定の発明(技術)に対する特許権の取得のために必要とされる書類として公開されるものであり、明細書の公開はあくまでも国の要請にすぎません。また、特許権は、特許出願人がビジネス上の参入障壁を形成するために取得するのですから、技術的な観点だけでなく、ビジネス的な観点を考慮して、検討する必要があります。

3.明細書で考えなければいけないこと

 

 そのため、明細書を記載する場合には、技術的な観点だけでなく、ビジネス面での観点を考慮することが非常に重要となります。

 例えば、非常に高度な技術のみを明細書に記載して、特許を取得した場合、論文であれば技術力が非常に高いという評価にもなりますが、ビジネス的には競合はそもそもそのような高度な技術を有していませんから、特許を取得しようがそうでなかろうが、そもそも競合は参入できないでしょう。この点、論文であれば、技術的に高度な内容であれば、自身の技術力(斬新性)をアピールすることができますから、十分にその目的を達成していると評価できます。

 一方、一見すると従来の技術と大差がないように見えるような汎用的な技術で特許権を取得することができれば、競合がそのような技術を利用せざる得ないケースは当然想定されますから、競合に対して非常に大きな参入障壁として機能する可能性があります。これに対して、論文は従来の技術との差が明確であればあるほど評価される訳ですから、その差の部分を強調することのみで成立します。

 以上をまとめると、明細書は、論文と同様に従来の技術との差異を記載する必要がある(そうでなければ特許として認められない)ものの論文とは異なり競合にとって参入障壁となるよう一般的かつ汎用的な技術でも実現可能になるように上位概念として再構成した内容で記載することが望ましいという点が論文と明確に異なります。よく上位概念化するとか、発明を広げるとか、言うような表現で表されますが、このような一手間を加えることで、より実効的かつ広い特許権を習うことができる明細書を作成していくことができます。エンジニアや研究者の方もこの感覚を持っていただくと、弁理士とのやり取りがスムーズになると思います。

4.その他

 

 また3.と若干重複してしまいますが、明細書に記載する根拠や効果は、(技術分野にもよりますが)論文と比較してかなり低い水準であっても認められる傾向にあります。例えば、論文のように〇〇法という実験方法により試行回数n回の実験を行った結果でなければ認められないというような厳格な基準はありません。

 このような傾向を、業界ではよく明細書は「ご都合主義」というように表現したりしますが、非常に良いたとえかと思います。もし問題があれば、いずれにせよ審査官により主張が認められないだけですからね。

効率的に明細書を作成する極意(それでも明細書が苦手な人へ)

1.はじめに

 

 先日のブログ(ログイン - はてな)で文章の書き方を紹介しましたが、正直、単に文章の書き方の話をされても・・・、なんてもいいから簡単に明細書を書くコツを教えてくれ、という方も多いと思います。

 もっと言えば、一般的な特許事務所であれば、案件を効率的に処理することで利益を上げるビジネスモデルになっています。したがって、特許事務所で働くということは、明細書の品質だけでなく、大量の明細書を短時間で作成するということも極めて重要です。明細書を効率的に処理するにはどうすれば良いのでしょうか。

2.考え方のコツ

 

 (1)文章をブロックとして捉えましょう

  文章の美しさは二の次にして、文章(例えば段落)をブロックとして捉えて明確な文章を作成するように心がけましょう。

  具体的に言えば、例えば、クライアントの資料の3pに記載された内容は[0080]に記載しているとか、〇〇の定義は段落の[0010]に記載しているとか、どの段落に何が書いてあるのか本人及び関係者に明確に分かるように記載するというイメージです。

  このような記載をすることで、明細書全体の修正や加工も容易になりますし、第三者が確認をしやすい(特にクライアントがチェックしやすい)です。変に自分の言葉でまとめた文章を作成してしまうと、文章としての取り扱いが非常に面倒になってしまいます。

 (2)よく利用する表現(文章)を事前に準備しましょう。

  (1)でも述べたように明細書の文章はブロックです。よく利用する表現(文章)は、事前に準備をしておくことで色々な形で応用が可能です。

  このような方法は、、早く、効率的に文章を作成できるだけでなく、むしろ文章の抜け漏れ、誤字・脱字といったミスを明確に減らすことができます。なお、初めに準備する表現(文章)の内容は極めて重要ですから、初心者の方は、先輩や上司に十分確認をとることは必要です(むしろこのようなことが一番勉強になります)。

 (3)作成した表現(文章)をいつでも取り出せる状態にしておきましょう。

  これらのことは割と意識してやっている方もいるかもしれません。したがって、最も重要なことは、このようにして作成した表現(文章)を自由に取り出せるように管理しておくことです。どのような方法でも良いと思うのですが、例えば、私が行っている方法を紹介します。

  私の場合は、例えば、〇〇を説明するときに利用する表現(文章)、△△を説明するときに利用する表現(文章)という形で、特定の目的毎にファイルにまとめて管理したりしています。このような当たり前の効率化を行うだけでも、明細書を作成する効率はかなり上がるものです。少しでも興味がある方は、ぜひお試しください。

3.備考

 

 このような方法は、やはり同じ企業の案件を複数担当するような場合にこそ有効です。一方で、スタートアップ企業やマイナーな技術分野など一品物の明細書を作成する場合には、あまり向いていないかもしれません。このような一品物の明細書の作成については、別の機会にお話しします。

BENRI-Cってなにw

 

1.BENRI-C

 今日は雑談的な感じで気軽なネタに触れたいと思います。先日、日本弁理士会から下のような動画が公開されました。一応、日本弁理士会とは、原則すべての弁理士が所属している強制加入団体です、当然私も所属しています。まさか裏でこのような動画が作られているとは、、、知りませんでした。

www.youtube.com

 初めてこの動画を見たときは、事務所にいた同僚と一緒に大爆笑しました。やはり、ツイッター等でもかなり話題になっているようですね。正直、あの団体がこんな思い切ったことをしたというだけで十分良かったのではないかと思っています。古坂大魔王という人選も良いですしね。ということで、せっかくの機会なので日本弁理士会や業界の状況について少し考えたいと思います。

2.弁理士の実態

 

 日本弁理士会の会員の分布状況(2019年7月時点)によれば、弁理士の平均年齢は50.17歳とのことです。日本のサラリーマンの平均が40歳前後であることを考えれば、どうでしょうね。基本的に定年がないという点を差し引けば、割とこんなもんなのかもしれません。税理士の平均年齢が60歳を超えているようですから、士業の中ではそこまで高齢化は進んでいない方なのかもしれません。

 ただし、圧倒的な問題点があります。若い人が本当に少ないんですね。同資料によれば、35歳未満の弁理士は689名だそうです。ちなみに弁理士全体の人数は、11000人程度ですので約6%程度に過ぎないですし、20代となるとさらに減ります。

 早い話が、これからどんどん年齢層が上がっていくんですね。10代のYoutuberが当たり前のように当たり前のように金を稼ぎ、e-sportsなんかでも10代のトッププレイヤーが億単位の賞金を手にします。出した例がだいぶ私の好みに寄ってる気はしますが、まあ市場の流れについていけない弁理士は増えるでしょうね。

 一応、誤解の内容に言うと、ベテランの弁理士さんたちがどうではなく若い人に参入してもらわないと業界に未来がないってことなんです。その意味で、この動画は一定の効果を出してくれるんだろうなぁと期待しています。面白いですよね、普通に。

3.気になった点

 

 (1)クライアントのイメージがよくわからない

  「あなたの」というところの「あなた」というのは、誰を示してるんですかね。中小企業の社長さんのようなイメージなのか、個人の方なのか、大手企業のイメージではないでしょうから最終的にどのような方をクライアントとして想定したストーリーなんでしょうか。

 (2)弁理士のイメージが古い

  弁理士は、発明したものを伝えて任せれば特許庁と戦って特許を取得してくれる・・・、まあやはり中小規模の所長弁理士のイメージなんでしょうかね。日本弁理士会の多数派ですから仕方ないとは思うのですが、、、むしろ新しいビジネスモデル(弁理士イメージ)作っていかないとじり貧だと思うんですけどね。インハウスの人とかまるで意識してないですよね。

 (3)どんな仕事なのかが分からない

  何だかんだで、弁理士の仕事がどんな仕事なのか全く入ってこないですね。まあここら辺は敢えての戦略かも知れませんが、、、

4.まとめ

 ぐだぐだ書きましたが、そもそも弁理士(知財業界)なんて全く知名度がないといっても過言ではないくらいにマイナーですから分かりやすく、やりすぎるぐらいでちょうど良いですよね。これで若い人来てくれますかね、そんなに甘くない?w

   なお、この動画を見た業界内外(特に外)の方の意見を聞きたいです、良ければコメントいただけると幸いです。

 また、そろそろ、真面目な知財ネタも尽きてきたので、これからはこういう軽いネタも少しづつ増やしていきますので、よろしければ是非ご覧ください!