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一から始める知財戦略

知的財産全般について言及します。

インタビュー企画~(後日談)~

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1.はじめに

 先日は、裏法務アドベントカレンダーへの参加企画ということで久々に多くの方に呼んで頂けたようで、ありがとうございます。正直、他の方がかなり実務のまじめな企画が多い中、知財の企画もの(色物)ということで、若干企画趣旨からずれてしまったかなぁと反省している次第です。

 実際に、企画のために行ったインタビューは概ね2時間程度でしたので、まだまだネタは余っていますwという訳で、今日は後日談という形でインタビューの内容を再構成したいと思います。

 なお、所々、前回のブログの内容が前提となっている個所もありますので、まだご覧になっていない方は、前回のブログについても是非ご覧いただければと思います。

 

crysade.hatenablog.com

 

2.企画趣旨

 さて、元をただせばなぜこの企画をやろうと思ったか。以前から思っている業界意識として、知財業界(特に特許事務所)における人材育成の難しさというものがあったからというのが実際の所です。

 誰でもそうだと思うのですが、それなりに特許事務所に在籍をしていれば、業界に合わず業界自体を去っていく人、特許事務所ではなく企業(インハウス)を選択する人、特許事務所に在籍はしているものの中々伸び悩んでしまう人を見ることになります。

 特に特許事務所の場合は、組織の規模が小さいことが多く、「売り上げに直結するスキルがない(成長が遅い)」、「人間関係で問題が生じた」、というような場合に即退職へと繋がってしまう恐れもあります。

 前職の特許事務所は250人を超える大組織であり、部署の移動や業務の変更といったことも可能でしたので、人の入れ替わりはかなり少ないほうだったと思います。とは言え多くの特許事務所(私の現職も含め)では、そのような対応は例外的だろうと思います。そのため、研究所時代の知人やポスドクの後輩の就職相談などでも特許事務所への転職は中々進めずらいというのが正直なところでした。

 このような状況な中で、特に弁理士の資格を持たず、新しく業界に参入した方の話をゆっくりと聞きたいなということでこの企画を行った次第です。割と似たようなことを考えていた方は多いのではないかなと思います(むしろあるある?)。

 

3.雑感

 正直に言いましょう。何よりも意外だったことは、今回お呼びした二人が特許事務所への転職を後悔していないことでした。これはインタビューをしている間も肌感としても感じられました。勿論、細かいことを言えば不満は色々あるようですが(組織という意味でも業界という意味でも)、概ねそこまで不満ではないという印象でしたので、この点が私としては最も大きな驚きですw

 まぁ知財の仕事自体は、普通に面白いと思います。ですから、その点については別に意外という訳ではないのですが、やはり待遇面の問題ですね。

 アカデミア(博士課程研究員やポスドク)は、(10年近く前の私の記憶に寄れば)劣悪な労働環境ですから他の業界に移れば割とどこでも天国に見える気はします。ただ、やはり企業から転職してきた方にとってはかなり厳しい環境だろうという印象を持っていました。

 この点については、やはり前職の環境や待遇が大きく影響しているのかもしれません。通常、未経験での特許事務所への転職は30代中盤くらいの方も多いと思うのですが、20代での転職であれば給与や待遇もそれほど高くはなく違和感が少ないのかもしれません。

 

 後は、スキルや資格の面でしょうか。インタビューをした二人に共通していたのは、両者とも弁理士資格の取得を希望しており、仕事と勉強の両立を目指しているという点でした。

 その意味では、実務と勉強をバランス良くこなすことができる器用さというのが、知財業界においてかなり重要だということを意味しているのかもしれません。考えてみれば、知財の仕事は一つの分野の知識を突き詰めれば良いというものではなく、新たな技術が出ればその都度ある程度理解する必要が生じます。

 逆に言えば、知財における適正の一つに仕事と勉強を両立させる器用さというものがあるのかもしれません。まぁ私は両立があまりうまくないのですが、、、どうなんでしょうね。

 

4.終わりに

 さて、年末ですね。今年は、結婚をして、渡辺総合知的財産事務所の立ち上げをして、と中々、激動の年になりました。と言いつつ、私の中では平常運転なので、来年も面白いことができればなぁと思っています。

 皆様のおかげで新事務所も順調に回り始めていますので、近いうちに人材の採用や事務所の拡充も考えないとなぁと思っています。あまり大きな事務所にするつもりはないのですが、流石に一人では中々手が回らないというのが正直なところです。正式な告知はHPの方で行いますが、興味がある方は、ご連絡いただければ幸いです。それではまた。

HPの開設と新事務所稼働のお知らせ

 

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1.はじめに

 ツイッター等でもお知らせした通り、2019年12月16日をもって渡辺総合知的財産事務所のHPを公開し、今後、新規の特許事務所として本格的に稼働を開始しました。

watanabe-ip.net

 特に、ツイッターでは多くの「いいね」や「リツイート」をして頂きありがとうございます。短時間とはいえ、通知が止まらないという状況は久しぶりでした。

 

 本格的に開業の準備を開始したのが11月1日ですので、概ね1カ月半程度の時間がかかったことになります。既にクローズの状況でご依頼いただいていた案件の対応をしていたということもありますが、やはり立ち上げというのは大変ですね。

 

2.事務所の方向性について

 やはり時間を作ってゆっくりと考えると見えてくるもので、

 前職を退職した時点ではあまり想定していなかったようなプランが見えてきたり、関係者に指摘されて初めて新たな問題点が見えてきたり、とはいえ逆に本質的な部分ではやはり変わらない部分もあったり、、、非常に有意義な時間でした。

 現時点で考える事務所の方向性はHPに記載の通り、長期的なお付き合いを軸とした「高品質な発明抽出(明細書作成)」や「社内人材の育成」というようなものを軸に考えています。いずれも、前職時代から孤独にトライアルを続けていた領域です。こういう働きが本当の意味で企業のためになると思うのですが、どこまで受け入れられるかなぁ。

 とは言え、クライアントの方々からのフィードバックを含めて、柔軟にブラッシュアップして行こうかなと思いますので、同業者を含めてご意見を頂ければ非常にありがたいです。

 

3.ブログの方向性について

 元々HP開設までの繋ぎで始めたブログですが、せっかくなので続けていくつもりです。

 ただし、あくまでも事務所の運営とは切り離して「個人のブログ」として知財だけでなく、趣味の話とかも含めて緩いネタにシフトして行こうかなと思っています。

 それほどプランがあるわけでもないので、コメント等でご意見いただければ、参考にさせていただきます。

 なお、現在公開中の記事については、原則、このまま公開の予定です(一部、略歴や仕事関係のものは除く)。引き続き、ご覧いただければと思います。

 

4.宣伝と告知(最後)

 (1)スポンサーの就任

 弊所(渡辺総合知的財産事務所)として、東京カルチャーカルチャー様主催のイベント(1月17日金曜日:第2回「特許の鉄人」~クレーム作成タイムバトル~)のゴールドスポンサーに就任させて頂きました。

 ⇒前回同様面白いイベントになると思うので、興味がある方はぜひ会場でお会いしましょう!いつもの感じだと結構チケットが売り切れてしまうので、早めに確保したほうがいいかもしれません。

tokyocultureculture.com

 

 (2)セミナーへの登壇

 前回もお伝えした通り、「SB C&S株式会社様」主催のイベント(1月29日)において、「ビジネス領域におけるAI関連の知的財産権について」というタイトルで登壇させていただきます。AI関連技術の知財活動でお困りの方は、是非、ご参加いただければと思います。

 

sbb.smktg.jp

 新事務所のスタートは、こちらの二つのイベントから走り始める形になります。

 また、特許事務所の通常業務についても、引き続き対応させていただいております。コンフリクトの恐れがあるような場合には、先着順となりますので、興味がある方は、早めにお声がけいただければと思います。それでは今日はこの辺で、引き続きよろしくお願い致します。

知財業界への本音は?!(裏 法務系アドベンドカレンダー企画)

<本編>

本日は、昨日のちくわさんからの引き継ぎで、裏法務アドベントカレンダーへのエントリー企画です。色々と考えましたが、特許技術者の方をお呼びして、特許事務所の仕事について対談形式のインタビュー企画を行うことにしました。

まずは1人目、Yさんです(30代前半男性)。前職では物理学科の博士課程(後期)に在籍していたそうです。現在は主にソフトウェア分野の明細書や中間処理を担当し、実務経験は2年程です。 続いて、2人目、Nさんです(30代前半男性)。前職では製薬会社に在籍していたそうです。現在は、主に化学分野の知財DD、例えば、特許情報に基づいた新規用途の探索や新規事業の提案などの業務を担当し、実務経験は1年程です。

お二人とも、前職時代に一緒に働いていた若手の特許技術者の方々なのですが、本日は快くインタビューに応じて頂きました。本日は、よろしくお願いします。

Yです。よろしくお願いします!

Nです。よろしくお願いします!

まずはお二人とも、大学院や企業で研究開発職(非知財部)からの転職をされています。実際に知財業界に飛び込んで、驚いたことや違和感があったことを教えてください。

人事組織体制が自由で上下関係などがあまり無く驚きました。企業にいた時は、上下関係や業務の進め方についても制限がかなりありましたが、特許事務所ではかなり裁量が与えられるので、それが驚きでした。

なるほど。事務所の特性にもよりますが、特許技術者は基本的に個人で仕事をすることが多いので、裁量が広いのは業界の特性かも知れませんね。Yさんはどうですか?

平均年齢の高さに驚きました。今の事務所でも、私がほぼ最年少という感じなので驚きました。

これも業界の特徴の一つですね。若い人が知財業界に興味を持つためにも、知財業界の面白さを伝えていく必要があるかも知れません。お二人が思う知財業界の面白い所はどんなところですか?

様々な技術的に異なる案件を担当することで色々な知識を吸収することができて楽しいです。非常に勉強になります!

特に大学等の案件で感じることが多いのですが、自分の専門領域に近い領域の深い話を知ることができるのでやはり刺激になります。また、明細書の作成は、一種の芸術品のような側面があるため、自分のスキルが向上が実感できた時はやはり嬉しいです。

なるほど。企業の知財部では若干異なるかも知れないけど、少なくとも特許事務所であれば、様々な技術と密に接触することが出来るというのは、面白さの一つかも知れません。また、いわゆる弁理士の専権業務には芸術品のような側面がありますから自分のスキル向上を意識しやすいかも知れません。法務的に言えば、例えば、訴状なども似たような性質があるかもしれませんね。 では逆に、普段の業務や業界特有の事情で難しいことや困難だということはありますか。

用語や単語の使い方難しいと感じます。大学院でも、用語や単語の使い方には気をつけていたつもりだっですが、やはり明細書を書く場合にはまた違った難しさがあるので、苦労しています。また、弁理士の試験も含めて法律知識も必要ですから、この点についてもかなりとっつきにくい部分がありました。

確かに弁理士や特許技術者にとって用語や単語の使い方は非常に重要ですね。また特許事務所にライセンスを持たずに転職すると、仕事と試験の両立は非常に難しいですね。 では最後に、今後業界に転職するかも知れない方々に向けて、お二人からメッセージがあればお願いします。

色々な意味で自由度が高く、手を挙げればやりたい仕事ができるという風土が知財業界の良いところだと思います。仕事を取りに行く積極性や自分の商品価値を高める自己研鑽等が苦にならないという方は、是非、この業界にチャレンジしてみてください。

知財業界に興味を持つ人の中には、技術が好きな人が少なく無いと思います。一般的な技術はもちろん好きですし、日本語の作文や法律文書の書き方等も技術と言えると思います。最初は大変かも知れませんが、技術を身に付けるのが好きなら大丈夫です。分野の違いを恐れずに調整してほしいと思います。

2人とも無駄にハードルを上げないでください!Yさん、Nさん、本日は本当にありがとうございました。

<オマケ>

さて、今回は法務アドベントカレンダーへの参加企画です。若干アイコンと内容があってない気もしますが、そこは目をつぶっていただければ。 趣旨としては、多くの方(特に法務の方)にも特許事務所の現状や、特に(ほとんど実在しない)若手の特許技術者の生の声をお届けしたいと思い、今回の企画を実施しました。知財(特に特許事務所)の仕事に興味を持った方は是非とも業界への参入を考えてみては如何でしょうか。それでは。

日本知財学会(年次学術研究発表会)雑感

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1.はじめに

 さて、日本知財学会の年次学術研究発表会(12月7日、8日)に参加してしてきましたので雑感をブログに残しておこうと思います。私は、現在、知財学会の会員ではないのですが、たまたまツイッターで見かけて弁理士が会員価格で参加できるなら行こうかなぁぐらいの軽いノリで、急遽、参加させていただくことにしました。

 参加費が会員価格(日本弁理士会所属のため)+懇談会で合計8000円とノリで申し込むにはそれなりの金額の学会でしたが、結果的にはいい刺激となり大満足の学会となりました。私は、諸般の事情により12月7日のみの参加だったのですが、8日も出たかったなぁと思うと同時に、来年は予定を取ってきちんと参加しようかなという気になりました。

 

2.参加したセッション

(1)経営デザイン分科会セッション

 少しツイートをしましたが、やはり経営デザインシートは面白いです。

 実は、前職で間接的にいくつか経営デザインシートに関わっていたのですが、詳細についてはあまり意識していませんでした。これ自体が非常に利用しやすいもの担っていると思いますが、やはり経営デザインシートの知財版(鮫島先生が少し言及していましたが)を作りたいですね。近いうちに簡易的なものを作成して、どんどん事務所の業務に使っていきたいと思います。余談ですが、一応、分科会のメンバー登録はさせてもらいました。

(2)シンポジウム

 こちらも非常に興味深い内容で楽しませてもらいました。

 特に印象的だったのが、大学発ベンチャーの話題が全体として非常に多く議論されていたという点です。やはり大学発ベンチャーの育成は経済的な観点は勿論、大学の人材を活かすという意味でも、大学運営にとって非常に重要なファクターになっているという点を改めて実感しました。

 私も、博士課程時代の同僚や友人に会うたびに「スタートアップはいいよー。転職(若しくは起業)したら?」と唆してみるものの、東大や東工大以外の大学では、まだまだこのような流れは少数派なので他の大学にもこのような流れをどんどん普及させていきたいとひそかに企んでいます。

(3)一般発表

 上で述べた通り、12月7日(土)のみの参加になってしまったのですが、興味のある発表をいくつか聴講させていただきました。皆さん、かなり熱量の必要なテーマを発表されており、忙しい中大変だっただろうなぁ、勝手な心配をしていました。

 発表された皆さん、本当にお疲れ様でした。非常に楽しませていただきました。

 

3.まとめと告知

 知財学会の雑感ということで、あまり内容のないブログで恐縮なのですが、上で述べた通り、個人的に非常に実りのある学会であり、数多くの知見を頂きました。取り合えず、来年も参加は確定ですw

 最後に一点、告知させてください。

 「SB C&S株式会社様」主催のイベント(1月29日)において、「ビジネス領域におけるAI関連の知的財産権について」というタイトルで登壇させていただくことになりました。

 知財学会のシンポジウムでも簡単に話題に上がっていましたが、まだまだAI関連の特許で困っている方はいそうなので、AI関連の領域における知財戦略の基本的な考え方や方法論について、現時点の私なりの見解についてお話ししようかと思っています。無料ということですので、興味がある方は是非お気軽にお越しください。

 また、同時に研究者・エンジニア向けのセミナーも開催されるようですので、ご興味がある方はこちらも参加いただければと思います。

sbb.smktg.jp

sbb.smktg.jp

 

 

初めての特許出願(発明の発掘から明細書の作成)

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1.はじめに

 さて、何だかんだとブログの更新をサボっていたら、あっという間に2週間近く経ってしまいました。私のブログを楽しみにしてくださる方は、まぁほとんどいないと思いますが、申し訳ありません。主な理由は、本業にかまけていたというだけなのですが、書籍やコラムの依頼との関係で、今後、ブログの内容をそれなりに限定しなければならなくなりそうです。そういう意味で、本日の記事もどうしようかと思っていたのですが、大した話でもないのでアップしてしまうことにします。

 普段、私が考えている明細書を作成するまでのプロセスの説明やその切り分けの理解です。私の場合、このような切り分けをするのは自分の仕事の仕方というよりは、「(事情により)仕事のお願いをする場合」や「他の弁理士の評価が必要な場合」に評価と言う観点でこれを利用します。つまり、どのようなフェイズの仕事を普段行っているかによってその弁理士の得意な領域を判断しています。まぁ業界の方であれば、皆さん割と近い考え方はしていると思います。

 

2.プロセス

(1)発明の発掘・抽出を行う

 一言で言えば、出来上がった技術(製品)やアイデアから特許法上の発明になり得るポイントを抽出し、特許法上の発明として再構築する過程です。例えば、ある会社が新規のソフトウェアAを開発したとします。通常、企業が新しい製品を開発する場合には、様々なアイデアや工夫が混在することが一般的です。

 また例えば、ソフトウェアAにおいては、目玉となる新機能Xが存在しますし、ユーザに直感的な操作を実現するための特徴的なアイコンY、そして多数のユーザのからのアクセスを効率的に処理する演算処理の工夫Zが存在するとします。このような機能や工夫は、全て異なる観点よりなされた発明と考えられ、特許権を取得できる可能性があります。

 つまり、一つの製品等を開発した場合であっても、その中に埋め込まれた工夫のうちどのようなポイントが特許法上の発明に該当するのか、また抽出した発明をどのような観点として再構成して特許出願を行うのかというようなプロセスになります。

 簡単に言えば、請求項1の骨格を作るのが得意な方というイメージです。大手企業の知財担当者等にとっては、最も重要な仕事のうちの一つと言えるかもしれません。なお、知財部の方が作った請求項のイメージを具体的に言語化(ブラッシュアップ)を行うのは特許事務所であることが多いので、ここはどちらかと言えばその前段階の作業というイメージです。

 

(2)明細書の構成を考える

 上で作成した発明の骨格に基づいて、「明細書全体としてどのような説明を行うのか」、「どの程度厚く記載を行うのか(例えば、情報量は十分か、実験データを追加する必要はないか)」と言った検討を行うプロセスです。一部企業側の担当者が行う場合もあるのですが、特許事務所の技術担当者にとって最も重要な仕事の一つと言えます。どの程度の記載を行うかどうかの判断は時代とともに変化するものですし、法律的な思想も不可欠です。そのような意味でも、技術的な専門性や特許実務経験(実務感覚)が必要となります。イメージとしては、全ての請求項を作成し、図面案を確定させるまでの作業イメージになるでしょうか。ここで、明細書全体の方向性や、骨格がある程度定まることになります。

 

(3)仕上げ  

 上で確定された明細書全体のデザインに基づいて、文章等を作成するプロセスになります。技術分野毎にある程度利用頻度の高い記載や表現もありますし、企業や事務所によって統一したフォーマットや表現を有している場合もあります。そのような意味では、自動化や効率化が求められる領域とも言えるかもしれませんが、実際に誤字脱字(特に符号とか)を減らしたり、てにをはを修正したりという作業も慣れていないと結構しんどいです。間違いなく、一つのスキルと言える領域です。

3.最後に

 以上、明細書を作成するプロセスについて簡単に説明してみましたがどうでしたかね。面白いかどうかはともかく内容は非常に重要ですので、多分どこかで改良した内容は発表することになると思います。まぁこのような切り分けは、あくまでも一例なのですが、重要なことは、①製品や技術=発明(特許権)ではないということ②明細書を作成するプロセスにはある程度の段階が存在して夫々に得意不得意がある(技術分野以外にも)、ということです。覚えておくと何かいいことがあるかもしれません。

 さて、12月に入りサイレントで進めていた新事務所作りもなんとか佳境に入り、もう少しでHP等を公開することができそうです。また、アドベントカレンダーの準備も着々と進めてはいます。こちらは、前職の同僚を巻き込んで簡単な企画をやろうと思うので、興味がある方は、是非、ご覧ください。それではまた。

AI関連発明のシンポジウム雑感

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 久々のシンポジウムということで、「国際特許審査実務シンポジウム―AI関連発明のグローバルな権利取得に向けて―」に参加してきました。  まぁ例のごとくのAIネタですが、昨年の事例集あたりから特許庁も本腰を入れてきている感じですね。他国もやはり同様のようで、各国の審査については、ある程度共通の見解が確立されてきたのかなという印象は持ちました。

 割と話題になった学習済みモデルのクレームですが、やはり日本以外は中々難しそうですね。プログラムも各国万能とは言えませんし、やはり情報処理装置(デバイス)記載が安定かな。質問としても出ていましたが権利行使の時にどうなるかも分かりませんからね。

 いずれにせよ、明細書の中をある程度固めておけば、修正である程度対応できるレベルだとは思うので、結局は、明細書にどこまできちんと記載を行うかという話になりそうです。少なくとも、細かいロジックの部分で特許権を取得したいのであれば、従来のソフトウェアの明細書よりは若干詳細は必要になると思うのですが、実際どの程度の記載で内部ロジックのクレームを認めるかについては、審査官によってもかなり幅がありそうという印象です。個人的には、内部ロジックの特許権は原則あまり勧めない方向で対応するので、大きな変化はありませんが、出願する場合には、悩ましいですね。  また、今回は、通常の本会場とは別にサテライト会場と言うものが用意されていました。私はサテライト会場で聴講していたのですが、作業スペースは確保できるし、イスは座り易いし、非常に快適でした(ただし、日本語のみ+質問不可)。

 ただし、特許庁主催のシンポジウムなので当然といえば当然なのですが、やはり(企業を含む)実務的な話についてはほとんどありませんでした。実際、AIの場合は、応用領域でこそ知財が活きるのは明らかですし、色々考えなければならないことがありますね。一応、1月末にセミナーをAIネタで講演をする機会を頂けるようなので、そこで少し実務的な方法論や戦略論についての新しいネタを披露できればなぁと思っています。取り敢えず、今日はこの辺で。

 

 

書籍紹介(ビットコインとブロックチェーン:暗号通貨を支える技術)

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1.はじめに

 今回は、新しい企画です。知人に書籍レビューみたいなものをやってはどうか、という提案を受けていましたので、その提案に乗っかる形になります。

 

ビットコインとブロックチェーン:暗号通貨を支える技術

アンドレアス・M・アントノプロス(著)今井崇也(翻訳)鳩貝敦一郎(翻訳)

Amazonリンク

 

 ご紹介するのはこちらの書籍です。昨年の今頃からブロックチェーンの勉強を本格的にしようかなぁと思い購入していたものの、読むのを先延ばしにしてしまっていた書籍です。分量的にも内容的にも専門外の人間が業務外で読むには結構厳しいかなぁという気はしますが、退職を良い事に一気に読破しました。

 

2.内容詳細

 所要時間:約20~30時間程度

 ターゲット:大学院生~エンジニア初級

 満足度:4.5/5

 感想:良くも悪くも「ビットコイン」に関連する内容が記載されている書籍でした。ビットコインの歴史から実装に至るまで十分に記載が充実しており、圧倒的に理解が進みました。多くの方がレビューしているように(技術的な)基本を押さえる上での必読書という位置づけかと思います。また、簡易なコードで例が示されていたり、ビットコインシステムの実装や応用についての記載が含まれていたりと、完全な理論というよりは実装を意識した記載になっている気がします。

 ただ、あくまでも技術書という位置づけのため、知財関係者を含めた専門外の人間にとっては不要な知識も結構あるかもしれません。正直、通常の知財関係者であれば前半1章~2章の部分だけでも十分なように思います。そのような場合は、簡易版も発売されているようですから、そちらでも良いかもしれません。

 また、冒頭で記載したように、この書籍はあくまでも「ビットコイン」に特化した内容になっているため、例えば、単純にブロックチェーン技術や分散型システムの応用や実装、近年むしろ重要な「イーサリアム」等については、別途、補足が必要かなと感じました。私自身も、そこら辺についてはもう少し知識を補完していく予定です。

 

3.まとめ

 初めての企画でしたが、どうですかね。好評であればまたこのようなテーマを採用したいと思います(私の本を読むスピードが追いつくかどうかは分かりませんが)。取り合えず、今日はこの辺で。