このエントリーをはてなブックマークに追加

一から始める知財戦略

知的財産全般について言及します。

サッカーゲームで見る参入障壁の作り方

f:id:crysade:20191013211119j:plain


 

1.はじめに

 

 前回のゲーム(e-sports)ネタの続編です。サッカーゲームを例にして、よりe-sportsが発展する方向性を技術や知財の観点を織り交ぜつつ、考えていきたいと思います。

 なお、私自身は、ウイニングイレブンは97~2017くらいまで現役でたまに大会に出る程度の中堅プレイヤー、FIFAはナンバリングタイトルをいくつか持っている程度の初心者、です。比較的ウイニングイレブンの方がやり込んでいるので、どちらかと言えばウイイレに寄ってしまうと思うのですが、そこはご容赦ください。

 

2.サッカーゲームの特徴

 

 まず現状のサッカーゲームの位置づけを確認しましょう。前回のブログでも示した通り、サッカーゲームは比較的運の要素があるものの、それなりに実力が反映されますし(トーナメントに比較的耐えられる)、戦術的な側面はあるものの個人技の要素もかなり高いという要素もあり、様々なゲームの要素を比較的バランスよく持っています。そのため、e-sportsには比較的馴染みやすい部類で歴史も古いです。

 このサッカーゲームには、他のゲームにはない圧倒的な利点があります。それは、リアルのサッカーと連動させることができるという利点です。そのため、今でJリーグのクラブ(例えば、FC東京)が専属のゲームプレイヤーを雇ったり、Jリーグがオーガナイザーとしてe-sportsの大会を主催するといった動きが出始めました。これは非常に特徴的な傾向であり、活かさない手はないでしょうね。

 また、現在のサッカーゲーム市場はウイイレ(KONAMI)とFIFA(EA SPORTS)の2強でしょう。お互いのタイトルを差別化するという意味でも、一つの重要な観点かと思います。

www.jleague.jp

3.例えば、こんなのはどう?

 

 では具体的な方法はどうかというと、、、

 それこそ関係者(夫々のクラブやゲーム会社)次第ということになるのですが、せっかくなので一つ例を挙げて考えてみましょう。

 大会の決勝戦を、ARやVRの技術を使って、実際のサッカーに近いような形で観客に提示するような観戦方式はどうでしょうか。ゲームの観戦って、プレイヤーの状況やゲーム画面を見るだけになってしまうので、地味なんですよね。特にサッカーゲームの場合は、実際のサッカーを見ている感覚とは全く異なるので、サッカーファンには結構違和感が出てしまうような気がしています。そのため、例えば、実際のサッカーに近いような形で観客に魅せる方向性というのは、サッカーゲームの一つの方向性として有望だと思います。

 ちなみに、今年のTGSでも、コナミブースにARを利用したウイイレのような技術が出展されていましたし、普通に近い世界を狙っている気はします。

 さて、このような技術を実現する場合、どのような点が障害になるでしょうか。まぁ細かく言えばいくらでも出てくるとは思いますが、例えば、一つ例を挙げるとすれば「オフザボールの動き」なんかがあると思います。サッカーゲームというのは、通常、1vs1の勝負ですから、基本的にはボールを持ったプレイヤーのみを操作します。

 まぁ仕様的には、いくつかボールを持っていない選手を操作する方法はあったりするのですが、正直、現状の仕様で満足しているプレイヤーはほとんどいないと思います。勿論、ゲームタイトルによっても差はありますが、結局、どのゲームタイトルであっても、まだまだ実際のサッカーのリアリティーは再現できていないように思います(さらに言えば、ゲームの勝敗も戦術面ではなく、結局個人技の部分で決まってしまうことが多い)。

 このような状況において、例えば、ボールを持っていない選手の動きに戦術的な意味合いをうまく盛り込んだ動きを実現するのに寄与する工夫や、それが難しいのであればARやVRを利用する場合に、少なくともボールを持っていない選手の動きを「自然に見えるように修正する」ような工夫があれば、実は結構な強みになるのではないかと思います(今回、関係会社の特許は全く見ても聞いてもいないため、既に出しているかも知れません)。

 勿論、これはあくまでも一例です。逆にプレイヤーの個人技に着目し、それを魅せるような演出もあり得ると思います。ただ、このような工夫について、特許が取得されていれば非常に強力な参入障壁になるのでは、、、?ということです。

 

4.発明発掘の考え方

 

 という訳で一例を適当に挙げて紹介してみました。

 実は今回の解析は、発明発掘における基本的なフローを紹介しています。まぁ本業でやるなら、もう少しエビデンスや実際のデータに基づいて時間をかけて解析しますが、思考の方向性は同じです。発明発掘のポイントは、「ビジネス上の重要なポイント(できれば技術的なポイント)を探索し、そこから特許法上の発明として具体的な発明を抽出する」ということに他なりません。単に特許を取ればいいという訳ではないし、ある程度業界に精通していないと難しいと思うのですがどうでしょうね。ちなみに今回とは逆で、企業が取得している特許から将来のビジネス展開を予想するような方法論も存在します。そちらの方が面白いですかね。取り敢えず、今回は以上。

 

*台風19号により被害を受けられた皆様には、心よりお見舞い申し上げます。私自身も東京住まいなのですが、幸い被害が大きかった地域から距離がったため、ほとんど影響はありませんでした。

イベント(AI vs 弁理士)に参加してきました!

f:id:crysade:20191011103402j:plain


 という訳で、「AI vs 弁理士」のイベントに参加してきました。

prtimes.jp

<概要>

 

 SNSでの宣伝活動もあってか、会場はほぼ満員でした。何より驚いたのは知財関係者以外もそれなりに来ているようで、私の席の周辺では知財関係者の方が少ないという感じでした。色々思うところはあるものの、全体的にイベントとしてうまくまとまっていた印象です。チケットの料金は2500円+ワンドリと比較的高額設定だったものの、場所や演出の凝り方を考えるとやむを得ないかなぁという感じです。Toreruさんは、今後もこういう方向で行くのかな?まっ流行る理由は分かりました。

<レポート>

 

(1)画像商標対決(出演:中村先生)

 「実際に出題された商標画像1つに対し、最も似ている画像を見つけてくる(制限時間10分)。特許庁の審査官が似ていると判断した画像が含まれていれば勝利。(公式より)」

 まずは、中村先生が素晴らしかった。制限時間内にちゃっと正解を拾ってくるということで、あれを外してたらイベントの盛り上がり大分違いましたよね。さて、それはそうとAI側のアプローチです。AI側のアプローチは、課題の画像から候補画像を絞って、エンジニアの方がその中から正解を選べるかというアプローチを取っていました。解説の土野先生も指摘されていましたが、このエンジニアによる選別(敢えて宮崎先生はアドバイスしない)の場面で迷ってしまい、正解にたどり着けなかったようです。候補画像の画像の中に正解の画像は(多分)含まれていたと思うので、実は最終的な絞り込みさえできていれば、AI側の圧勝で終わっていたというような話があったりします。逆に言えば、最終的な絞り込みは人間が行うことを前提として設計されているようですので、その点、使いにくいかも知れませんね(まぁ精度出せてないんでしょう)。ただし、候補の絞り込みまでは非常に早く、多分正解も拾えてるので一次スクリーニングには十分耐えているのかなという印象でした。

 結果:中村先生勝利

(2)類否判断対決(出演:瀬戸先生)

 「実際に出題された商標2つ提示し、それが似ているかどうか(類否)を判断する。(お題10問、制限時間10問)

 まずは、会場参加型にしたの大成功でしたね。非常に盛り上がっていました。

 本題に入ると、こちらのお題は、1問1分ということで弁理士側は、ほぼ直感で答えざるを得なかったと思います。なので、弁理士側がある程度時間をかけられる状況(類似商標や判例の確認ができれば)であれば、正答率は結構変わったでしょう。この状況であれば、一般的な弁理士であっても、商標弁理士であっても、弁理士でなくても、結果にそこまでの差は出ないでしょう(結果を知っていれば別ですが)。

 なお、AI側は、(多分)称呼のみで類否判断を行っているということでした。

 結果は、瀬戸先生が7問正解に対して、AI側が6問正解ということで、弁理士側の勝利ということでした。なお、宮崎先生いわく、大体精度は60%という話でしたので、AI側としては十分満足のいく結果と言うことでした。まあ、十分な精度でしょうね。周りの席の方(弁理士を含む)も大体5~7問くらいの正解の方が多く、基本的には人の判断(直感レベル)と同レベルの精度は出ているという印象を受けました。単に担当者がこの商標通るか分かりませんと進言するよりも、AIのスコアでも持って行って通るかわからないと進言した方が効果的と言うような使い方はあるかもしれません。

(3)識別力対決(出演:岡村先生)

 「実際に出題された商標とその商品・サービスを提示し、特徴があるかどうか(識別力)を判断する。(お題10問、制限時間10分)」

 これはもはやカオスでしたね。制限時間が少ないのも相まって、自身があった人は、ほとんどいないんじゃないですかね。なお、今回の「正解」はあくまでも、ファーストアクションで拒絶理由通知が来るかどうかということらしく、最終的に商標登録が認められたかという話ではないようでした。解説の土野先生も指摘されていましたが、この点も弁理士としてはやりずらい理由ではあったかと思います。

 

<雑感>

 

 一次スクリーニング用のサポートツールとしては、十分機能するという印象を持ちました。実際このツールをどう使うかはtoreruさん次第ですが割とアドバンテージになる気がします(使い方はかなり難しいですが)。少なくとも商標出願業務自体は、差別化が相当難しいですからね。あとデモンストレーションとしては、普通に使えますね。

 以下、気になった点を2つ。どこまで汎用的に使えるのかな?という話です。

 ①お題自体が元ネタは実際の出願なので、トレーニングデータに含まれているような気がする。とすればバイアス若干かかっている気がしなくもない。②出題が25類に偏っていた。類によっては精度出ないとかあったりするのでは?と思わなくもない。まあいずれも誤差レベルだとは思いますが、、、、

 

*記事に間違えがあれば修正するので、お気軽にお知らせください。聞き間違えとか。

退職エントリと現在の状況

f:id:crysade:20191004205720j:plain


<退職エントリ>

 

 現職の引継ぎも概ね終わり、10月3日をもって3年8ヵ月ほど在籍した正林国際特許商標事務所を退職しました(正式な退職日10月31日)。長いような短いような、7年前に体を壊して研究職を辞めた時は、本当に空が青く見えたもんですが、今回は至って平常運転です。知財業界は平和でいいもんです(スキルや経験が当たり前に金になるって実はすごい恵まれたこと)。

 色々と思うところはあるものの、基本的には円満退職です(内部事情を知りたい方は何処かで飲みにでも誘ってくださいw)。正林国際特許商標事務所では、弁理士としての基本的なスキル(明細書や中間処理等)は勿論、「AI・データ契約ガイドライン」をはじめ色々な経験をさせてもらいました。スキルを学ぶという意味では、これ以上ない職場だったと思います。

 思い起こせば、つい7年前まで、知財の「知」の字も知らなかった人間が、たった6~7年で知財業界の最前線で仕事をしているのですから、本当に人生は面白いもんです(しかも、専門だった神経科学ではなく、CS(コンピュータサイエンス)を専門にして)。

 ここからは、大きな組織を離れてビジネスの現場に本格参入していく訳ですが、どうなることやら、、、まあ楽しみではあるのですが。

 

<現在の状況>

 

 基本的には久しぶりの無職生活を満喫している訳ですが、一応働かないとマンションを追い出されてしまう(奥さんに怒られ・・・)ので、ちょいちょい働いています。

(1)執筆作業:エンジニア向けの知財の解説本のようなものを出版予定です。共同執筆者含めて3人で執筆中なのですが、1月の出版?に向けて鋭意執筆中です。

(2)本業:11月から開始予定の顧問先が若干あります。という訳で、一応、本業も稼働しています(他にもご依頼お待ちしてますよ!)。

(3)新事務所の立ち上げ準備:11月の本格稼働に向けて、準備を進めています。現時点でコアメンバー4人?の共同経営のような形になる予定です。別に情報を敢えて伏せているという訳ではないのですが、共同経営者(予定)があまり情報を出していないので、取り敢えず秘密裏(?)に動いています。

(4)ブログ:何だかんだ結構記事をアップしているためか、アクセスも頂いているようです。グーグル辺りで収益化するのか、事務所の宣伝と割り切ってそのままにするか、現在検討中です。取り敢えず、暇なうちは結構記事は上げると思います。リクエスト等あれば、是非ツイッターやコメント等でお知らせください。

 

 最後にリアルで知り合いの方も、そうでない方も、今後ともよろしくお願いします。

知財(特許)の価値を評価するということ

f:id:crysade:20191008122800j:plain


1.知財DD

 久しぶりに重めの記事を書こうと思います。皆さんは、知財DD(デュー・デリジェンス)という言葉をご存じでしょうか。知財DDとは、対象会社に対して、出資や事業提携、買収等を行うにさして、(1)対象会社に事業継続上のリスクがないか、(2)対象会社の技術力や将来性の価値が投資額に見合っているか等を知的財産(以下、「知財」と呼ぶ)の観点から確認することです。他にも、実際のM&A等の現場では、法務DD、財務DD等、様々な観点DDが行われます。

 私は、公認会計士でもありませんし、普段そこまでこのような業務に携わることはないのですが、以前、官公庁の入札案件で知財評価の案件等もかなり行っていましたので、知財評価を行う立場としての知財DDの可能性と限界について考えたいと思います。

2.求められる評価

 この点、M&A等の現場で最も求められることと言えば、間違いなく、知財の金銭的な価値評価です。そんなものどうやって算出するの?という疑問が湧いてくるのは容易に想像できますが、実は結構色々な方法が知られています。

  (1)コストアプローチ:知財に支払われたコストに基づいて知財の価値を算出する評価方法

  (2)マーケットアプローチ:類似する取引事例に基づいて知財の価値を算出する評価方法

  (3)インカムアプローチ:知財により得られた収益に基づいて知財の価値を算出する評価方法

 これらの金銭的な価値評価の手法は、公認会計士や研究者が中心となって、研究が進められているものの、やはりハードルが高く、万人が納得するような手法は開発されていないというのが現状のように思います。私自身は、こちらの分野にそこまで明るいわけではないので、あまり深入りするのはやめておくことにします。

3.知財DDの意義

 では知財DDが機能するのはどのような状況でしょうか。一つは、対象会社の事業継続上のリスクを明確化するということは可能です。

 例えば、コアな事業であるにも関わらず、いわゆるFTO(Freedom to Operate)調査を行っていないのであれば、これを行うことで将来的なリスクファクターを洗い出すことができるでしょうし、その対策を講じることもできるかもしれません。

 さらに言えば、大学やスタートアップ企業といった知財・法務機能の強くない組織の場合、例えば、独占的通常実施権の許諾を受けていると思っていたら、実は、「単なる通常実施権の契約しか結べていなかった」、「事業のコアになると思っていた特許権が実は事業の範囲をカバーしきれない内容になっていた」なんてことも普通に起こり得ます。

 このような知財(一部法務も含む)的なリスクを泥臭く洗い出し、それを意思決定者(例えば、投資家等)に対して明示することが知財DDの本質的な役割です。

4.知財DDの限界

 このように、知財DDは、事業継続上のリスクを明確化するという点に関しては、非常に有効に機能します。では、「対象会社の技術力や将来性の価値が投資額に見合っているか」、という問いに対してはどうでしょうか。できることは非常に限られる、というのが正直なところではないかと思います。

 つまり、知財(特許)が本質的に事業上のリスクを減少させるということを主たる機能としている以上、知財の価値というものも原則として、事業計画自体の価値に連動せざるを得ないと言えます(ただし最近では、特許出願の宣伝広告的な価値や社会的な信用力の向上等、間接的な効果も注目されています)。

 最後に、特許庁が面白い資料を作成していたようなので、リンクを張っておきます。誰が書いたのか知りませんが、予想以上にちゃんと書いていますね。

https://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180403002/20180403002-3.pdf

 

特許明細書と論文の違いって何!?

f:id:crysade:20191008122644j:plain


1.はじめに

 

 今日は、学術論文(以下、「論文」と呼ぶ)と特許明細書(以下、「明細書」と呼ぶ)の違いというテーマについて、言及したいと思います。日常の業務でも非常によく聞かれる話題ですし、あまりうまく説明できないなぁと思っている人も多いのではないでしょうか。別に、これが正解という訳ではないですが、私が普段説明している内容について、簡単にご紹介します。

2.そもそも目的が違う!

 

 論文と明細書は、ともにテクノロジーを対象としている意味で類似しており、両者をそれほど区別せずに認識している方も少ないように思います。しかしながら、論文と明細書は、その目的が大きく異なります。

 まず論文は、多くの場合、無償での公開を前提としており、論文の内容の公開や伝達それ自体を目的としています。一方、明細書は、あくまでも所定の発明(技術)に対する特許権の取得のために必要とされる書類として公開されるものであり、明細書の公開はあくまでも国の要請にすぎません。また、特許権は、特許出願人がビジネス上の参入障壁を形成するために取得するのですから、技術的な観点だけでなく、ビジネス的な観点を考慮して、検討する必要があります。

3.明細書で考えなければいけないこと

 

 そのため、明細書を記載する場合には、技術的な観点だけでなく、ビジネス面での観点を考慮することが非常に重要となります。

 例えば、非常に高度な技術のみを明細書に記載して、特許を取得した場合、論文であれば技術力が非常に高いという評価にもなりますが、ビジネス的には競合はそもそもそのような高度な技術を有していませんから、特許を取得しようがそうでなかろうが、そもそも競合は参入できないでしょう。この点、論文であれば、技術的に高度な内容であれば、自身の技術力(斬新性)をアピールすることができますから、十分にその目的を達成していると評価できます。

 一方、一見すると従来の技術と大差がないように見えるような汎用的な技術で特許権を取得することができれば、競合がそのような技術を利用せざる得ないケースは当然想定されますから、競合に対して非常に大きな参入障壁として機能する可能性があります。これに対して、論文は従来の技術との差が明確であればあるほど評価される訳ですから、その差の部分を強調することのみで成立します。

 以上をまとめると、明細書は、論文と同様に従来の技術との差異を記載する必要がある(そうでなければ特許として認められない)ものの論文とは異なり競合にとって参入障壁となるよう一般的かつ汎用的な技術でも実現可能になるように上位概念として再構成した内容で記載することが望ましいという点が論文と明確に異なります。よく上位概念化するとか、発明を広げるとか、言うような表現で表されますが、このような一手間を加えることで、より実効的かつ広い特許権を習うことができる明細書を作成していくことができます。エンジニアや研究者の方もこの感覚を持っていただくと、弁理士とのやり取りがスムーズになると思います。

4.その他

 

 また3.と若干重複してしまいますが、明細書に記載する根拠や効果は、(技術分野にもよりますが)論文と比較してかなり低い水準であっても認められる傾向にあります。例えば、論文のように〇〇法という実験方法により試行回数n回の実験を行った結果でなければ認められないというような厳格な基準はありません。

 このような傾向を、業界ではよく明細書は「ご都合主義」というように表現したりしますが、非常に良いたとえかと思います。もし問題があれば、いずれにせよ審査官により主張が認められないだけですからね。

効率的に明細書を作成する極意(それでも明細書が苦手な人へ)

1.はじめに

 

 先日のブログ(ログイン - はてな)で文章の書き方を紹介しましたが、正直、単に文章の書き方の話をされても・・・、なんてもいいから簡単に明細書を書くコツを教えてくれ、という方も多いと思います。

 もっと言えば、一般的な特許事務所であれば、案件を効率的に処理することで利益を上げるビジネスモデルになっています。したがって、特許事務所で働くということは、明細書の品質だけでなく、大量の明細書を短時間で作成するということも極めて重要です。明細書を効率的に処理するにはどうすれば良いのでしょうか。

2.考え方のコツ

 

 (1)文章をブロックとして捉えましょう

  文章の美しさは二の次にして、文章(例えば段落)をブロックとして捉えて明確な文章を作成するように心がけましょう。

  具体的に言えば、例えば、クライアントの資料の3pに記載された内容は[0080]に記載しているとか、〇〇の定義は段落の[0010]に記載しているとか、どの段落に何が書いてあるのか本人及び関係者に明確に分かるように記載するというイメージです。

  このような記載をすることで、明細書全体の修正や加工も容易になりますし、第三者が確認をしやすい(特にクライアントがチェックしやすい)です。変に自分の言葉でまとめた文章を作成してしまうと、文章としての取り扱いが非常に面倒になってしまいます。

 (2)よく利用する表現(文章)を事前に準備しましょう。

  (1)でも述べたように明細書の文章はブロックです。よく利用する表現(文章)は、事前に準備をしておくことで色々な形で応用が可能です。

  このような方法は、、早く、効率的に文章を作成できるだけでなく、むしろ文章の抜け漏れ、誤字・脱字といったミスを明確に減らすことができます。なお、初めに準備する表現(文章)の内容は極めて重要ですから、初心者の方は、先輩や上司に十分確認をとることは必要です(むしろこのようなことが一番勉強になります)。

 (3)作成した表現(文章)をいつでも取り出せる状態にしておきましょう。

  これらのことは割と意識してやっている方もいるかもしれません。したがって、最も重要なことは、このようにして作成した表現(文章)を自由に取り出せるように管理しておくことです。どのような方法でも良いと思うのですが、例えば、私が行っている方法を紹介します。

  私の場合は、例えば、〇〇を説明するときに利用する表現(文章)、△△を説明するときに利用する表現(文章)という形で、特定の目的毎にファイルにまとめて管理したりしています。このような当たり前の効率化を行うだけでも、明細書を作成する効率はかなり上がるものです。少しでも興味がある方は、ぜひお試しください。

3.備考

 

 このような方法は、やはり同じ企業の案件を複数担当するような場合にこそ有効です。一方で、スタートアップ企業やマイナーな技術分野など一品物の明細書を作成する場合には、あまり向いていないかもしれません。このような一品物の明細書の作成については、別の機会にお話しします。

BENRI-Cってなにw

 

1.BENRI-C

 今日は雑談的な感じで気軽なネタに触れたいと思います。先日、日本弁理士会から下のような動画が公開されました。一応、日本弁理士会とは、原則すべての弁理士が所属している強制加入団体です、当然私も所属しています。まさか裏でこのような動画が作られているとは、、、知りませんでした。

www.youtube.com

 初めてこの動画を見たときは、事務所にいた同僚と一緒に大爆笑しました。やはり、ツイッター等でもかなり話題になっているようですね。正直、あの団体がこんな思い切ったことをしたというだけで十分良かったのではないかと思っています。古坂大魔王という人選も良いですしね。ということで、せっかくの機会なので日本弁理士会や業界の状況について少し考えたいと思います。

2.弁理士の実態

 

 日本弁理士会の会員の分布状況(2019年7月時点)によれば、弁理士の平均年齢は50.17歳とのことです。日本のサラリーマンの平均が40歳前後であることを考えれば、どうでしょうね。基本的に定年がないという点を差し引けば、割とこんなもんなのかもしれません。税理士の平均年齢が60歳を超えているようですから、士業の中ではそこまで高齢化は進んでいない方なのかもしれません。

 ただし、圧倒的な問題点があります。若い人が本当に少ないんですね。同資料によれば、35歳未満の弁理士は689名だそうです。ちなみに弁理士全体の人数は、11000人程度ですので約6%程度に過ぎないですし、20代となるとさらに減ります。

 早い話が、これからどんどん年齢層が上がっていくんですね。10代のYoutuberが当たり前のように当たり前のように金を稼ぎ、e-sportsなんかでも10代のトッププレイヤーが億単位の賞金を手にします。出した例がだいぶ私の好みに寄ってる気はしますが、まあ市場の流れについていけない弁理士は増えるでしょうね。

 一応、誤解の内容に言うと、ベテランの弁理士さんたちがどうではなく若い人に参入してもらわないと業界に未来がないってことなんです。その意味で、この動画は一定の効果を出してくれるんだろうなぁと期待しています。面白いですよね、普通に。

3.気になった点

 

 (1)クライアントのイメージがよくわからない

  「あなたの」というところの「あなた」というのは、誰を示してるんですかね。中小企業の社長さんのようなイメージなのか、個人の方なのか、大手企業のイメージではないでしょうから最終的にどのような方をクライアントとして想定したストーリーなんでしょうか。

 (2)弁理士のイメージが古い

  弁理士は、発明したものを伝えて任せれば特許庁と戦って特許を取得してくれる・・・、まあやはり中小規模の所長弁理士のイメージなんでしょうかね。日本弁理士会の多数派ですから仕方ないとは思うのですが、、、むしろ新しいビジネスモデル(弁理士イメージ)作っていかないとじり貧だと思うんですけどね。インハウスの人とかまるで意識してないですよね。

 (3)どんな仕事なのかが分からない

  何だかんだで、弁理士の仕事がどんな仕事なのか全く入ってこないですね。まあここら辺は敢えての戦略かも知れませんが、、、

4.まとめ

 ぐだぐだ書きましたが、そもそも弁理士(知財業界)なんて全く知名度がないといっても過言ではないくらいにマイナーですから分かりやすく、やりすぎるぐらいでちょうど良いですよね。これで若い人来てくれますかね、そんなに甘くない?w

   なお、この動画を見た業界内外(特に外)の方の意見を聞きたいです、良ければコメントいただけると幸いです。

 また、そろそろ、真面目な知財ネタも尽きてきたので、これからはこういう軽いネタも少しづつ増やしていきますので、よろしければ是非ご覧ください!