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一から始める知財戦略

知的財産全般について言及します。

2019年 雑感

 

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1.はじめに

 さて、今年も残すところあと僅かになりました。

 このブログを書くにあたり携帯の写真を見返していたのですが、写真の数が多いんですよね。今年は、久々に内容が濃く変化の多い一年になりました。結婚については、昨年度から行うことは決めていましたので、少し仕事面について振り返ってみたいと思います。

2.振り返り(前職のミッション)

 実は、あまり公表してはいなかったのですが、前職における私のミッションのうちの一つにスタートアップや中小企業向けの部門の立ち上げでした(勿論、私一人のミッションではありません)。相手にする企業のほとんどは知財部を持っていないという状況の中で、特許とはどのようなものなのか、発明とはどのようなものなのか、というようなことから説明をして理解してもらいながら知財活動へと繋げていくという仕事は、骨が折れるものの中々面白い仕事でした。

 そして、その結果として、(ありがたいことに)チームの主たる仕事は通常の特許出願や中間処理等になっていきました(笑)。その意味では、部門の立ち上げ自体は成功であり、クライアントの知財活動に対して一定の貢献はできたのではないかと思っています。

3.問題意識

 しかし、上述のようにうまく付き合いを続けて、知財活動の質を向上させることができるケースがある一方で、中々うまくいかないケースもやはりありました。その中でも、最も大きな問題の一つに「特許事務所側と企業側とのコミュニケーションエラー」というものがあると感じていました。

 勿論、経験豊富な知財担当者がいるような企業であってもこのような問題は生じるのですが、スタートアップや中小企業では特にこのような傾向が顕著です。例えば、企業側が事務所側のミスやスキルの低さに気づくことが難しいというケースもありますし、逆に無知が故に事務所側に対して常識外の要求をしてしまい特許事務所にまともに対応してもらえないというケースもあるかと思います。

 前職でのミッションも一段落付き「事務所側と企業側とのコミュニケーションエラーを減らす」という新たなミッションに挑戦したいと思い始めていたのが、ちょうど2019年の初頭頃でした。

 そのような状況の中、スタートアップに転職するかとも考えましたが、最終的には新しく事務所を立ち上げることにしたと言うのが、ここ一年の最も大きな潮流でした。

 このような問題を解決するために必要なことを色々と考えていたのですが、現時点での私なりの回答は、①企業側の知財人材の育成や②長期的な付き合いを前提としたノウハウの共有(特許事務所へ丸投げして明細書を作成するのではなく企業側も明細書作成にできる限り参加して良い明細書を作成する特許事務所側が時間をかけて企業側の技術やビジネスを勉強する)というような解決策でした。正直、まだまだ正解は分かりませんが、新事務所では、お付き合い頂ける方々とともにこのような解決策を適宜導入しながら事業活動のサポートを行なっていきたいと考えています。

4.来年の抱負

 今月16日から立ち上げた新事務所ですが、お陰様で滑り出しは非常に順調です。

 以前もお伝えした通り、事務所をそれほど大きくしていきたいわけではないものの、次の展開を考える余裕はできました。来年は以下のような目標で業務を行っていきたいと思います。

 (1)スタッフの募集

  まだ特許技術者を雇うまでは想定できていないのですが、アルバイトやインターンの学生を受け入れたいと考えています。

 (2)事務所の拡充

  スタッフの受け入れを含めて、中長期の展開を考えられる場所に事務所の移転を検討しています。どこかいい物件ありますかね、、、まぁいずれにせよ来年は、私がコア業務に専念できる環境を構築していきたいと思っています。

 (3)サービスプランの拡充

  事務所運営の目途も立ち始めましたので、少しづつ事務所本来のコンセプト(知財人材の育成やノウハウの共有)に向けたコンテンツを増やしていきたいと思います。まずは顧問契約やセミナー等で利用していく形になると思います。

 

 最後にせっかくなのでプライベートの抱負

 (1)自宅環境の整備

  どうしても自宅のスペースを占有してしまっているという状況があるため、仕事関連のもの出来るだけ整理しようと思っています。新事務所の立ち上げ以降、奥さんに迷惑をかけているので早期に対応したいと思います。

 (2)勉強時間の確保

  仕事しているとどうしても減っていきますね。昨年はブロックチェーンをある程度勉強していたのですが、今年は、知人からの要望もあり量子コンピューターでも勉強しようかと思います。まぁ機械学習にも絡みますしやっておいて損はないでしょう。

 (3)体を動かす(太らない)

  まぁ正直なんでもいいのですが、何の縁かフットサルチームを二つも掛け持ちで仕切ることになったので、フットサルを本格的に再開しようかなと思っています。練習相手は、常に募集中ですので、こちらも興味がある方は是非ご連絡ください。

 

 以上、よいお年をお過ごしください。

知財業界への本音は?!(裏 法務系アドベンドカレンダー企画)

<本編>

本日は、昨日のちくわさんからの引き継ぎで、裏法務アドベントカレンダーへのエントリー企画です。色々と考えましたが、特許技術者の方をお呼びして、特許事務所の仕事について対談形式のインタビュー企画を行うことにしました。

まずは1人目、Yさんです(30代前半男性)。前職では物理学科の博士課程(後期)に在籍していたそうです。現在は主にソフトウェア分野の明細書や中間処理を担当し、実務経験は2年程です。 続いて、2人目、Nさんです(30代前半男性)。前職では製薬会社に在籍していたそうです。現在は、主に化学分野の知財DD、例えば、特許情報に基づいた新規用途の探索や新規事業の提案などの業務を担当し、実務経験は1年程です。

お二人とも、前職時代に一緒に働いていた若手の特許技術者の方々なのですが、本日は快くインタビューに応じて頂きました。本日は、よろしくお願いします。

Yです。よろしくお願いします!

Nです。よろしくお願いします!

まずはお二人とも、大学院や企業で研究開発職(非知財部)からの転職をされています。実際に知財業界に飛び込んで、驚いたことや違和感があったことを教えてください。

人事組織体制が自由で上下関係などがあまり無く驚きました。企業にいた時は、上下関係や業務の進め方についても制限がかなりありましたが、特許事務所ではかなり裁量が与えられるので、それが驚きでした。

なるほど。事務所の特性にもよりますが、特許技術者は基本的に個人で仕事をすることが多いので、裁量が広いのは業界の特性かも知れませんね。Yさんはどうですか?

平均年齢の高さに驚きました。今の事務所でも、私がほぼ最年少という感じなので驚きました。

これも業界の特徴の一つですね。若い人が知財業界に興味を持つためにも、知財業界の面白さを伝えていく必要があるかも知れません。お二人が思う知財業界の面白い所はどんなところですか?

様々な技術的に異なる案件を担当することで色々な知識を吸収することができて楽しいです。非常に勉強になります!

特に大学等の案件で感じることが多いのですが、自分の専門領域に近い領域の深い話を知ることができるのでやはり刺激になります。また、明細書の作成は、一種の芸術品のような側面があるため、自分のスキルが向上が実感できた時はやはり嬉しいです。

なるほど。企業の知財部では若干異なるかも知れないけど、少なくとも特許事務所であれば、様々な技術と密に接触することが出来るというのは、面白さの一つかも知れません。また、いわゆる弁理士の専権業務には芸術品のような側面がありますから自分のスキル向上を意識しやすいかも知れません。法務的に言えば、例えば、訴状なども似たような性質があるかもしれませんね。 では逆に、普段の業務や業界特有の事情で難しいことや困難だということはありますか。

用語や単語の使い方難しいと感じます。大学院でも、用語や単語の使い方には気をつけていたつもりだっですが、やはり明細書を書く場合にはまた違った難しさがあるので、苦労しています。また、弁理士の試験も含めて法律知識も必要ですから、この点についてもかなりとっつきにくい部分がありました。

確かに弁理士や特許技術者にとって用語や単語の使い方は非常に重要ですね。また特許事務所にライセンスを持たずに転職すると、仕事と試験の両立は非常に難しいですね。 では最後に、今後業界に転職するかも知れない方々に向けて、お二人からメッセージがあればお願いします。

色々な意味で自由度が高く、手を挙げればやりたい仕事ができるという風土が知財業界の良いところだと思います。仕事を取りに行く積極性や自分の商品価値を高める自己研鑽等が苦にならないという方は、是非、この業界にチャレンジしてみてください。

知財業界に興味を持つ人の中には、技術が好きな人が少なく無いと思います。一般的な技術はもちろん好きですし、日本語の作文や法律文書の書き方等も技術と言えると思います。最初は大変かも知れませんが、技術を身に付けるのが好きなら大丈夫です。分野の違いを恐れずに調整してほしいと思います。

2人とも無駄にハードルを上げないでください!Yさん、Nさん、本日は本当にありがとうございました。

<オマケ>

さて、今回は法務アドベントカレンダーへの参加企画です。若干アイコンと内容があってない気もしますが、そこは目をつぶっていただければ。 趣旨としては、多くの方(特に法務の方)にも特許事務所の現状や、特に(ほとんど実在しない)若手の特許技術者の生の声をお届けしたいと思い、今回の企画を実施しました。知財(特に特許事務所)の仕事に興味を持った方は是非とも業界への参入を考えてみては如何でしょうか。それでは。

初めての特許出願(発明の発掘から明細書の作成)

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1.はじめに

 さて、何だかんだとブログの更新をサボっていたら、あっという間に2週間近く経ってしまいました。私のブログを楽しみにしてくださる方は、まぁほとんどいないと思いますが、申し訳ありません。主な理由は、本業にかまけていたというだけなのですが、書籍やコラムの依頼との関係で、今後、ブログの内容をそれなりに限定しなければならなくなりそうです。そういう意味で、本日の記事もどうしようかと思っていたのですが、大した話でもないのでアップしてしまうことにします。

 普段、私が考えている明細書を作成するまでのプロセスの説明やその切り分けの理解です。私の場合、このような切り分けをするのは自分の仕事の仕方というよりは、「(事情により)仕事のお願いをする場合」や「他の弁理士の評価が必要な場合」に評価と言う観点でこれを利用します。つまり、どのようなフェイズの仕事を普段行っているかによってその弁理士の得意な領域を判断しています。まぁ業界の方であれば、皆さん割と近い考え方はしていると思います。

 

2.プロセス

(1)発明の発掘・抽出を行う

 一言で言えば、出来上がった技術(製品)やアイデアから特許法上の発明になり得るポイントを抽出し、特許法上の発明として再構築する過程です。例えば、ある会社が新規のソフトウェアAを開発したとします。通常、企業が新しい製品を開発する場合には、様々なアイデアや工夫が混在することが一般的です。

 また例えば、ソフトウェアAにおいては、目玉となる新機能Xが存在しますし、ユーザに直感的な操作を実現するための特徴的なアイコンY、そして多数のユーザのからのアクセスを効率的に処理する演算処理の工夫Zが存在するとします。このような機能や工夫は、全て異なる観点よりなされた発明と考えられ、特許権を取得できる可能性があります。

 つまり、一つの製品等を開発した場合であっても、その中に埋め込まれた工夫のうちどのようなポイントが特許法上の発明に該当するのか、また抽出した発明をどのような観点として再構成して特許出願を行うのかというようなプロセスになります。

 簡単に言えば、請求項1の骨格を作るのが得意な方というイメージです。大手企業の知財担当者等にとっては、最も重要な仕事のうちの一つと言えるかもしれません。なお、知財部の方が作った請求項のイメージを具体的に言語化(ブラッシュアップ)を行うのは特許事務所であることが多いので、ここはどちらかと言えばその前段階の作業というイメージです。

 

(2)明細書の構成を考える

 上で作成した発明の骨格に基づいて、「明細書全体としてどのような説明を行うのか」、「どの程度厚く記載を行うのか(例えば、情報量は十分か、実験データを追加する必要はないか)」と言った検討を行うプロセスです。一部企業側の担当者が行う場合もあるのですが、特許事務所の技術担当者にとって最も重要な仕事の一つと言えます。どの程度の記載を行うかどうかの判断は時代とともに変化するものですし、法律的な思想も不可欠です。そのような意味でも、技術的な専門性や特許実務経験(実務感覚)が必要となります。イメージとしては、全ての請求項を作成し、図面案を確定させるまでの作業イメージになるでしょうか。ここで、明細書全体の方向性や、骨格がある程度定まることになります。

 

(3)仕上げ  

 上で確定された明細書全体のデザインに基づいて、文章等を作成するプロセスになります。技術分野毎にある程度利用頻度の高い記載や表現もありますし、企業や事務所によって統一したフォーマットや表現を有している場合もあります。そのような意味では、自動化や効率化が求められる領域とも言えるかもしれませんが、実際に誤字脱字(特に符号とか)を減らしたり、てにをはを修正したりという作業も慣れていないと結構しんどいです。間違いなく、一つのスキルと言える領域です。

3.最後に

 以上、明細書を作成するプロセスについて簡単に説明してみましたがどうでしたかね。面白いかどうかはともかく内容は非常に重要ですので、多分どこかで改良した内容は発表することになると思います。まぁこのような切り分けは、あくまでも一例なのですが、重要なことは、①製品や技術=発明(特許権)ではないということ②明細書を作成するプロセスにはある程度の段階が存在して夫々に得意不得意がある(技術分野以外にも)、ということです。覚えておくと何かいいことがあるかもしれません。

 さて、12月に入りサイレントで進めていた新事務所作りもなんとか佳境に入り、もう少しでHP等を公開することができそうです。また、アドベントカレンダーの準備も着々と進めてはいます。こちらは、前職の同僚を巻き込んで簡単な企画をやろうと思うので、興味がある方は、是非、ご覧ください。それではまた。

AI関連発明のシンポジウム雑感

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 久々のシンポジウムということで、「国際特許審査実務シンポジウム―AI関連発明のグローバルな権利取得に向けて―」に参加してきました。  まぁ例のごとくのAIネタですが、昨年の事例集あたりから特許庁も本腰を入れてきている感じですね。他国もやはり同様のようで、各国の審査については、ある程度共通の見解が確立されてきたのかなという印象は持ちました。

 割と話題になった学習済みモデルのクレームですが、やはり日本以外は中々難しそうですね。プログラムも各国万能とは言えませんし、やはり情報処理装置(デバイス)記載が安定かな。質問としても出ていましたが権利行使の時にどうなるかも分かりませんからね。

 いずれにせよ、明細書の中をある程度固めておけば、修正である程度対応できるレベルだとは思うので、結局は、明細書にどこまできちんと記載を行うかという話になりそうです。少なくとも、細かいロジックの部分で特許権を取得したいのであれば、従来のソフトウェアの明細書よりは若干詳細は必要になると思うのですが、実際どの程度の記載で内部ロジックのクレームを認めるかについては、審査官によってもかなり幅がありそうという印象です。個人的には、内部ロジックの特許権は原則あまり勧めない方向で対応するので、大きな変化はありませんが、出願する場合には、悩ましいですね。  また、今回は、通常の本会場とは別にサテライト会場と言うものが用意されていました。私はサテライト会場で聴講していたのですが、作業スペースは確保できるし、イスは座り易いし、非常に快適でした(ただし、日本語のみ+質問不可)。

 ただし、特許庁主催のシンポジウムなので当然といえば当然なのですが、やはり(企業を含む)実務的な話についてはほとんどありませんでした。実際、AIの場合は、応用領域でこそ知財が活きるのは明らかですし、色々考えなければならないことがありますね。一応、1月末にセミナーをAIネタで講演をする機会を頂けるようなので、そこで少し実務的な方法論や戦略論についての新しいネタを披露できればなぁと思っています。取り敢えず、今日はこの辺で。

 

 

書籍紹介(ビットコインとブロックチェーン:暗号通貨を支える技術)

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1.はじめに

 今回は、新しい企画です。知人に書籍レビューみたいなものをやってはどうか、という提案を受けていましたので、その提案に乗っかる形になります。

 

ビットコインとブロックチェーン:暗号通貨を支える技術

アンドレアス・M・アントノプロス(著)今井崇也(翻訳)鳩貝敦一郎(翻訳)

Amazonリンク

 

 ご紹介するのはこちらの書籍です。昨年の今頃からブロックチェーンの勉強を本格的にしようかなぁと思い購入していたものの、読むのを先延ばしにしてしまっていた書籍です。分量的にも内容的にも専門外の人間が業務外で読むには結構厳しいかなぁという気はしますが、退職を良い事に一気に読破しました。

 

2.内容詳細

 所要時間:約20~30時間程度

 ターゲット:大学院生~エンジニア初級

 満足度:4.5/5

 感想:良くも悪くも「ビットコイン」に関連する内容が記載されている書籍でした。ビットコインの歴史から実装に至るまで十分に記載が充実しており、圧倒的に理解が進みました。多くの方がレビューしているように(技術的な)基本を押さえる上での必読書という位置づけかと思います。また、簡易なコードで例が示されていたり、ビットコインシステムの実装や応用についての記載が含まれていたりと、完全な理論というよりは実装を意識した記載になっている気がします。

 ただ、あくまでも技術書という位置づけのため、知財関係者を含めた専門外の人間にとっては不要な知識も結構あるかもしれません。正直、通常の知財関係者であれば前半1章~2章の部分だけでも十分なように思います。そのような場合は、簡易版も発売されているようですから、そちらでも良いかもしれません。

 また、冒頭で記載したように、この書籍はあくまでも「ビットコイン」に特化した内容になっているため、例えば、単純にブロックチェーン技術や分散型システムの応用や実装、近年むしろ重要な「イーサリアム」等については、別途、補足が必要かなと感じました。私自身も、そこら辺についてはもう少し知識を補完していく予定です。

 

3.まとめ

 初めての企画でしたが、どうですかね。好評であればまたこのようなテーマを採用したいと思います(私の本を読むスピードが追いつくかどうかは分かりませんが)。取り合えず、今日はこの辺で。

 

「先行技術調査と権利侵害調査」の違い

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1.はじめに

 皆さま、お気づきのことかとは思いますが、ブログの更新頻度が下がっていますw

 理由は当然、新規事務所の立ち上げのため色々と奔走している訳ですが、少しづつ仕事が入ってきていることもあり、中々思うように作業が進みません。正式に公開できるのはやはり12月になりそうです。一から何かを始めるというのはやはり色々と大変ですね。

 さて、それは言っても一つ面白いネタを見つけたので、気合を入れてブログを書くことにします。テーマはずばり「先行技術調査と権利侵害調査」の違いです。実は、これ私がつけた題目ではなく検索技術者検定という試験の過去問題です。ネットで論点まで公表されていたので、面白そうなので、実務的な観点も踏まえて検討をしてみることにします。

www.jstage.jst.go.jp

 

2.問題

 具体的な問題は以下の通りです。

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 出願前の先行技術調査と権利侵害調査について以下の問いに答えなさい。

 それぞれの調査目的を違いがわかるように説明しなさい。

 それぞれの調査において,検索式を作成する場合の注意点を違いが分かるように説明しなさい。説明には「再現率」,「適合率」の用語を必ず用いなさい。

 「再現率」,「適合率」の意味を説明しなさい。

 それぞれの調査において,作成した集合をスクリーニングする際の注意点を違いが分かるように説明しなさい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ぱっと見で、めちゃくちゃいい問題ですね。数学的な知識と特許の知識いずれもある程度見ることができますし、必要な項目を論理的に説明できるかどうかを問う点も良いですね。さて、これを即答できる実務家(サーチャー)はどのくらい居るでしょうかね(笑)。

 ちなみに再現率と適合率の意味自体はすぐにイメージできましたが、用語自体は知りませんでした。もしかしたら、大学院の講義でやっていそうな気はするけど、どうでしょうね。

 

3.解答

 これに対して、解答例がこちらです。

<ポイント1>

 例えば,以下の内容について,それぞれの違いが説明されていること。

・出願前の先行技術調査の目的は,完成した発明の特許性の有無を評価することである。

・権利侵害調査の目的は,事業実施に先駆けて他社権利の侵害の有無を確認することである。

 

<ポイント2>

 例えば,以下の内容について,それぞれの検索式作成時の注意点が説明されていること。

・出願前の先行技術調査は,その調査目的に鑑みて調査効率を重視する必要がある。そのため,適合率を上げる工夫が必要となる。したがって,むやみに調査範囲を広げるのではなく,発明を構成する要素を限定して検索範囲を絞るような検索式にする

・出願前の先行技術調査では,生死の状況にかかわらず,特許を調査対象とする。

・出願前の先行技術調査では,調査期間(遡及期間)は原則として限定しない。

・権利侵害調査は,他社の特許について漏れを生じさせないよう,再現率を上げる工夫が必要となる。したがって,多少のノイズが含まれるとしても検索条件を広めに設定する。

⇒(コメント)理屈としては、この通り実際に再現率を上げる工夫は、それこそケースバイケースですね。また結局、真値は不明ですから料金や調査範囲との関係も重要です。割とスキルの差が出やすいかもしれませんね。

・権利侵害調査では,公知技術の範囲まで広げる必要はなく,実施内容のうち権利侵害の対象となる観点を明確にしておく必要がある。

⇒(コメント)実務上一番問題になる部分ですね。調査結果は、あくまでも対象の観点についての結果であるという点は、十分に理解する必要があるし、(クライアント等に対して)理解させる必要がある部分です。

・権利侵害調査では,調査実行時において生存している特許を調査対象とする。

・権利侵害調査の調査期間(遡及期間)は,原則として権利存続期間(日本特許では出願から20年)とする。

⇒(コメント)ここら辺は当たり前ですね。弁理士やサーチャーでなくても最低限把握しておいてほしいところです。

 

<ポイント3>

 例えば,以下の内容について説明されていること。

再現率とは,検索対象集合の中にある適合レコードをどのくらい検索することができたかという比率である

適合率は精度ともいい,ヒットした回答集合の中に適合レコードがどのくらい入っていたかという比率である

⇒(コメント)権利侵害調査において、結局、真値はわかりませんから中々難しいところですね。興味がある方は、別途、勉強してみてもいいかもしれません。

<ポイント4>

 例えば,以下の内容について,それぞれの違いが説明されていること

・出願前の先行技術調査では,全文を対象にスクリーニングを行う。

・出願前の先行技術調査では,当該発明と同一の内容が開示されている文献が1件でも見つかればそれ以上調査を続行する必要はない

⇒(コメント)まあその通りなのですが、実務的には「完全に同一の内容」が開示されるということは考えにくいですし、上述の観点は絶対的なものではなく、違う観点として検討するということも当然あり得ます。なので、実際的には、調査したほうが良いと思います。

・権利侵害調査では,特許権である特許請求の範囲を重点的に確認する。

⇒(コメント)まあ重点的にとあるから良いのかもしれませんが、将来的に請求項に上がる可能性があり得れば全て確認したいところです。分割等についての知識も必要ですし、データベースへの登録漏れ等のリスクも考慮したいところです。

・権利侵害調査では,権利侵害の危険がありそうな特許は漏れなく確認する必要があるので,回答集合は全てスクリーニングを行う。

 

このような論点を問うていたようです。あくまで試験的な発想で捉えなければいけない部分もありつつ、概ね妥当な論点かと思います。

 

4.最後に

 どうでしたかね。こんな良問が出るなら検索技術者検定を受けてみてもいいかもしれない(実は知りませんでした)。

 また、気が付いている方も多いと思いますが、プロフィールにイラストを追加しました。ココナラで頼んだのですが、非常に良く特徴を捉えていただいており、とても気に入っています。

 最後に告知です。ツイッターで話題になっていた「裏」法務系アドベントカレンダーという企画に参加させていただくことになりました。やっぱ法務の方は色々と勢いがあっていいなぁと思いつつ、せっかくだし面白いことをやろうと画策しています。それではまた。

特許・情報フェア2019 雑感

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1.はじめに

 

 さて、今年もこの季節がやってきました。「特許・情報フェア」です。

 知財関係者と言えば、典型的には特許事務所で明細書を書いている弁理士や特許技術者をイメージする人が最も多いと思います。しかし、実は知財と言っても幅広く、特許庁で働く職員の方々や企業の知財部に所属している方も、もちろん知財関係者です。

 この特許・情報フェアは、主として特許の管理ツールや調査ツールを販売する企業等が出展するイベントであり、特許庁の関係者や企業の知財部のような特許の調査や管理を主とする業務を行っている知財関係者にとって、最も大きなイベントの一つです。

 私自身は、これらの業務をそれほど行っているわけではないのですが、前職の特許事務所が毎年ブースを出展していることもあり、毎年、参加させてもらっています。今年も、なんとか11月6日(初日)に会場に行って、一通り見て回ることができました。

2.全体について

 

 例年同様、大盛況でした、と言いたいところですが、昨年に比べると比較的会場内の移動がしやすかったように思います。気になって、来場者の比較をすると、初日に関して言えば昨年が6103人に対して、今年が5441人ということで若干少なかったようです(まぁ昨年は初日に参加したわけではないのですが)。

 そして、それ以上に明らかに感じるのが、出展者の減少です。特に海外からの出展者は明らかに

 

勢いがなくなったというとそういう訳でもないと思うのですが、、、、どうでしょう。

 その一方で目立ったのは、新規の出展企業の参入です。特にAI絡みの調査ツールを主力にした企業の参加が非常に増えていると感じました。まぁ正確に数えたわけではないので、あくまでも「印象」です。来年以降も、増えていく気はしますね。ただ、いずれのツールも調査目的のツールがほとんどで、明細書の自動作成に踏み込んだツールはあまりないですね。実用までのハードルは圧倒的に多いし、まぁ仕方がないのかな。

 そして、個人的に気になったのは、やはり「Shareresearch(日立)」のDerwent World Patents Index(DWPI,クラリベイト アナリティクス ジャパン)の閲覧サービスです。今となっては、私自身が「Shareresearch」使うのは費用的に難しいですが、使用した方は是非使用感を聞かせてください。

3.雑感

 

 今年は、実名でツイッターを始めたこともあり、例年以上に楽しむことができました。知財業界は、本当に狭い業界ですからこのようなイベント自体が同窓会のような心地よさがあります。まぁそれが業界としていいのかどうかは分かりませんが、、、

 いずれにせよ、会場でお会いできた方は勿論、お会いできなかった方も今後ともよろしくお願いいたします。そして、改めてこのイベントに興味を持った方は、是非来年は参加してみてください。法律や明細書の小難しい話はありませんから、比較的参加しやすいと思います。

 なお、イベントに参加したお陰かどうかは分かりませんが、前職のツテでAI絡みのセミナーをやることになりそうです。事務所の立ち上げ準備で追われているとはいえ、何だかんだで時間はありますからいいネタを仕込みたいですね。詳細が決まったら、どこかでお伝えします。